第32話 杏さんへの告白

「カラオケ屋さんの食事も中々美味しいよね」

「私はお父さんの手作り料理を、ずっと食べて来たから、これが業務用の冷凍食品が中心だって言うのは解りますけど、でも美味しく無い訳じゃ無くて、むしろ美味しいです。でももっと人に心から美味しいって言って貰える料理を作れるようになりたいんですよね」


「先輩、まだ食堂の復活が目標なんですか?」

「そうだよ、今のこの状況になっちゃったから、儲ける為の商売である必要は無いけど、私の料理で笑顔になる人の顔を見て過ごしたいの」


「心愛ちゃんの夢は素敵だね、私もそのうち手料理食べさせてね」

「ぜひ召し上がって下さい」


「さっきお話が途中だったから、そろそろ本題に戻ろうか。心愛ちゃんが鑑定を使えるのは解ったけど、それだけだとドロップが優秀な事とか強さとか説明が付かないよね? それともう一つあったわ、この間も少し聞いたけど、マジックバッグの容量の問題もあるわね」

「そうですね、私の使える能力は、現時点で鑑定、ステータス調整、アイテムボックス、後は魔法も使えます。それともう一つはパーティ機能ですね」


「心愛ちゃん、何度も聞くけど異世界行って勇者とかして来たの?」

「何度も答えますけど、そんなのラノベの世界だけですって」


「聞きたい事だらけだけど、心愛ちゃんが話して構わないと思った事だけ教えておいてね」

「教えられないのは、その能力をどうやって身に付けたかは、秘密にしておきたいと思います。ステータス調整はモンスターを倒すとラストアタックをした人に経験値が入ります。それが一定数値を超えるとレベルアップと言う現象が起きます。その時に各ステータスが一ずつ上昇するんですけど、振り分けられない数字も存在するんです。ポイントって言うんですけど。そのポイントを振り分ける事が私には出来ます」


「凄いわねそれを知られちゃうと、本当に世界中の軍や探索者が心愛ちゃんを求めるわね」

「例えば今鑑定させて貰った杏さんはレベル八で、ポイントも八十ポイント貯まっています。これを私とパーティを組んだ状態にすると、私が調整出来るんです」


「なんだか凄そうね、やって貰ってみても良いかな?」

「じゃぁ解りやすいから攻撃力と知力を上げますね四十ポイントずつ振っておきます」


「はい、完了です」

「解るわ、明らかに力も強くなった気がするし頭もすっきりしてるわ」


「これは今はダンジョンの外ですからその程度ですが、ダンジョンの中に入るともっと圧倒的な力に感じますよ」

「えーと、それはダンジョン内と外では効果に差があるって事なの?」


「結構違うと思います。明日丁度実験もかねて、学校の先生と一緒に浅層階に潜りますけど、よかったら杏さんも来てみますか?」

「そうね、明日からは基本的に心愛ちゃんの専属だから、浅い階層の探索なら問題無いと思うわ、検証と言う大義名分もあるし、ご一緒するわ」


「秘密の件はお願いしますね」

「解ったわ、とても発表できそうな内容じゃないし、まだ聞きたい事は一杯あるけど徐々にお願いね」


「それと別案件なんですけど、聞いて貰っても良いですか?」

「構わないわよ」


 希が、先日のミノタウロス事件の事で日向ちゃんの両親達が言っている事を説明して、どう対応するのが良いのかを相談した。


 私に関しては、全く問題無いので相手をしなければ良いという事だったけど、同一パーティで探索していた希に関しては、突っぱねる事も可能だけど、それだけだと色々な禍根を残す問題で、だからと言って相手の言い分を全面的に聞き入れると、この手の人達は際限なく無理難題を言ってくるのは間違いないだろうと言う話になった。


「結局どうしたらいいですか?」

「そうね、私は心情的には突っぱねてしまいたいと思うけど、希ちゃんの表情を見てるとそうじゃ無いでしょ?」


「はい、日向ちゃんと昭君の怪我だけは治して上げて、ご両親の言い分だけは突っぱねたいと思います」

「日向ちゃんと昭君が、両親の側の意見だったらどうするの?」


「それは……」

「解んないよね、それで当然だと思うよ。実はね全国で結構同じような問題は起きているの。実際裁判になった案件も多数存在しているわ」


「そうなんですね、それでどうなったんですか?」

「原告勝訴は一件も無しですね。ダンジョンの探索はあくまでも自己責任で、仮にパーティーを組んでいたとしても、事前にもし事故が合った場合には、損害はパーティのメンバーで相互に補填する趣旨の取り決め書を作成しない限り、一切の保障関係の責任は発生しないと言う判例です」


「よかったぁ、それを言えばきっと引き下がって貰えますよね?」

「普通の感覚の人だったらね、被害妄想の強い人たちはそれでも騒ぎ立てて、結局希ちゃんが嫌な思いをする事実までは中々変わらないわ」


「はぁ……どうしよう……」

「私に任せて貰って良いかな? 先日会った熊谷さんも同じ様な案件での被告側弁護士として原告を退けた実績が何件かある人だから、ちょっとだけ間に入って貰って一切文句を言わせない様にして貰うわ」


「解りました。お願いします」

「希、後悔する事だけは絶対嫌でしょ? 日向ちゃんと昭君、誘いだせないかな? 強制的に先に治療してしまったらいいよ、他の問題は二人が後遺症もなく治る事に比べたら小さな事だから、それからでいいよ」

「先輩、ありがとう。私が連絡すると繋がらないかもしれないから他の友達から、連絡入れて呼び出して貰います。明日の午後とかでいいかな?」


「そうね先生たちとの探索が終ってからだから、余裕を持って午後四時とかにしてたらどうかな? 私も行った方が良い?」

「先輩、ちょっと心細いけど一人で大丈夫です。私の友達だから」


「そっか、希ファイト!」

「はい!」

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