第16話 カレーうどんって汁はねしない食べ方あるの?

 私達が講堂へ向かって移動し始めると希が寄って来た。


「先輩、昨日はありがとうございました。先輩エキスを堪能したお陰で、なんとか持ち直しました」

「そう、それなら良かった。でも私エキスってなによ? 他の人が聞いたら引くような発言は止めてよね。それより昨日の骨折した二人の様子はどうなの?」


「二人共、家がそんなに余裕が無かったみたいで、ポーション治療は受けさせて貰えなかったらしくて、しばらくは休むみたいです」

「そうなんだ、病院で検査してポーションを使った治療を受けると、骨折で三十万円近く掛かるからね、保険も効かないし」


「それに、後遺症が残る可能性もあるんですよね」

「ポーション治療だと後遺症の心配は無いから、結局安心なんだけどね」


「先輩、もしですよ、私が必ず払うから先輩に治療をお願いしたら、ポーションって譲って頂けますか?」

「それは希が一人でそう考えて言ってるなら答えは却下だよ」


「そっかぁ、どういう場合ならOKですか?」

「本人達が自分で頼んで来て、ちゃんと自分の稼いだお金で買うのなら、原価で譲るわ」


「先輩、ポーションで治す場合って、怪我をしてからの時間経過の制限があるんですっけ?」

「そうね、今回のポーションⅢの場合だと、二週間以内の怪我にしか効果が無かったはずだよ」


「解りました。一応伝えておきますね。二人の両親には嫌われちゃったから連絡取れない可能性もあるけど……」


 講堂に着くと、先着順で野中先生に探索者カードを提示して、書類を貰って戻って行っていた。


「あ、カード見せないといけないのか、ちょっと嫌だな」

「先輩のランクの問題ですか?」


「うん……」

「私なら、自慢して見せびらかしたいけどなぁ」


「そんな自慢して得する事なんか、なにも無いよ」

「自己満足ですよ!」


 私と希の順番が来た。

 希はDランクだから、別に何も言われる事なく、カードの番号だけ控えられて書類を貰った。


 私がカードを野中先生に渡すと先生が私を二度見した。


「柊、お前これ本当なのか?」


「先生、他の人に知られたくないから内緒でお願いします」

「おう、解った。スマンな俺も初めて見たカードだから少し驚いてしまった」


 私たちが最後だったので他の人には知られなかったけど、いつまで内緒に出来るかな?


 昼休みの時間に野中先生が教室に来て「柊ちょっと時間取れるか?」と、聞いて来た。

 なんか面倒な話じゃ無ければいいけどな? と思いながら「大丈夫です」と言って先生に付いて行った。


 職員室の横にある会議室に通され「柊スマンな、昼飯まだだろ? 弁当か?」

「いえ今日は購買でパンの予定でした」


「そうか、それなら俺のおごりで出前取ってやるから、これから選べ」


 そう言って近所の出前のお店の献立を渡してくれた。


「いいんですか?」

「まぁ他の奴には内緒にしてくれよ」


「お話はどんな事なんですか?」

「うん、ダンジョンの事なんだけどな、まぁ今日在校生の探索者のカードはほとんど見れたとは思うが、柊の他は、せいぜいCランクの生徒が何人かいただけだったからな、一番ランクの高かった柊に話を聞こうと思ったんだ」


「そうなんですね、でも協会のランクは納品額だけですから、運が良かっただけですよ」

「そうなのか? でもAランクだと年間一千万円以上の納品だよな?」


「はい」

「先生より全然高給取りじゃないか」


「先生……要件はなんですか?」

「悪い悪い、生徒に収入で負けてると思うと少し自己嫌悪になった」


 先生の相談は、生徒たちにダンジョンに行くなと言っても聞かない事は解っている。

 それなら怪我をしない様にするのには、何をすればいいかの相談だった。


 私の様にステータスを見る事が出来る人は居ないので、自己申告を信じて階層を潜ってる状態だと怪我をするなって言っても無理だよね?


 精々必ずポーションを持って探索を行う事、自分が倒す事が出来る上限の階層よりワンランク下げた狩場で活動する事を徹底するように伝える事くらいだよね。


 結局それを書面にして全員に周知させる事になった。

 出前で取ったカレーうどんは中々美味しかったけど、汁がはねて制服にシミが付いちゃった。

 カレー汁は色的にヤバイよね……


 でも食べながら、これを『デリシャスポーション』とダンジョン食材で作ったらもっと美味しいのが出来ると思って、今度作ろう! と決めたよ。


 そう言えば昨日もうどんだったよね。

 もっと違うの頼めばよかったな……


「柊、ありがとう。また相談に乗ってもらう事も有るかもしれないが、その時は頼むな」

「はい、出来る事であれば協力はさせて頂きたいと思います。私もダンジョンで怪我をする人が減ってくれるのは望んでますので」


「今度の週末に先生も一度ダンジョンへ行って見ようと思うんだが、案内を頼んでもいいか?」

「先生はまだ行った事無いんですか?」


「そうだな、一応教育委員会から公務員の兼業禁止に抵触するので控える様に通達が有ったからな」

「そうなんですね、でもそれなら週末もダメなんじゃ無いんですか?」


「ああ、今回の事件を受けて現場を全く知らない状態だと良い対策も浮かばないと思ってな。特別に許可を貰ったんだ」

「そうなんですね、では土曜日の午前中であれば、時間を空けておきます」


「スマンな助かるよ」

「週末までにダンジョン協会の講習を受けて置いて下さいね。カードが無いとダンジョンに入れないので」


「解った、それは受講しておく」

「カレーうどんごちそうさまでした」


 ◇◆◇◆ 


 放課後になって家で希が来るのを待ちながら、今日のダンジョン食材料理を考えていた。

 まだ使って無いのは、昨日のボアの高級霜降り肉だよね。


 酢豚にしようかな?

 野菜もあるし、トロミをつけるときに片栗の替りにスライムゼリー使えないかな? ちょっと気になるからやってみよう。

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