第14話 すき焼きうどん
『杏さん、こんばんは、こんな時間にどうされたんですか?』
『心愛ちゃん、こんばんは、大変だったみたいね。大丈夫かな?』
『心配して電話してくれたんですね、ありがとうございます。私は大丈夫ですよ』
『そっか、それなら良かったけど、ねぇ佐藤さんに聞いた話だと、心愛ちゃん一人でミノタウロス倒しちゃったの?』
『あ、はい。倒せました』
『あのね、心愛ちゃん。ミノタウロスはねイエロークラス位の人じゃないと、単独討伐は難しいって知ってた?』
『え……そうなんですか? でもそんなに強くはなかったですよ?』
『うーん。なんだか心愛ちゃんは、ちょっと他の人とは違うみたいだね。もしかして異世界で勇者やってて、魔王を倒してこっちの世界に戻って来た経験とかあるの?』
『そんな、ラノベ小説みたいな話あるわけないですよ』
『だよね……でもねミノタウロスは恐らく物理防御みたいな特性を持ってるみたいだから、本当に倒すのは大変みたいだよ。カラーズの人達でも時間かけて取り囲んで討伐するのが普通なんだから』
『そうなんですね……きっと今日ダンジョンで宝箱から出た武器が相性良かったんだと思います」
「今日も宝箱が出たの?』
『あ、はい』
『それも十分おかしな話なんだからね?』
『そうなんですか?』
『あのね、今、日本には十二か所のダンジョンがあるんだけど協会は各ダンジョンに買取所を作ってるから、全国のドロップ状況はほぼ把握できてるんだよね。十二か所のダンジョンからの一日平均の買取申請件数は、大体六万アイテム位あるの、一か所五千個平均くらいだね』
『結構多いんですね』
『探索に出掛ける人は、十万人くらいいるから、決して多くは無いわよ。その中で宝箱からのアイテムは大体一日十個程度よ、十万人が狩りしてるのに一日十個、それを二日続けてドロップする可能性がただの偶然と言われて心愛ちゃんが、もし私みたいな買取担当の仕事してたら信用できる?』
『あ、そう言われると、疑っちゃうかも』
『でしょ? でも私は心愛ちゃんの味方だから他の人には言わないけど心愛ちゃんも、くれぐれも気を付けてね』
『はい、ありがとうございます。明日は学校なので、夕方からになりますけど又寄らせて貰いますね今日の騒ぎのせいで納品せずに帰っちゃったので』
『そうだったんだね、もしかして大量にある?』
『今朝と同じくらいかな?』
『そうなんだね……解ったよ明日待ってるね。またカラーズの部屋を使うから安心してね』
『はい、ではまた明日お電話ありがとうございました』
電話を切ると、希が不思議そうな顔で聞いて来た。
「先輩、今の人ってダンジョン協会の人なんですか?」
「うん、そうだよ。杏さんって言う私の専任担当の人。大島さんって言う感じのいいお姉さんに見覚えない?」
「あ、解ります! 綺麗でおっぱいの大きな人ですよね?」
「希、あんたの表現どこのおっさん視点なの?」
「で、先輩。専任担当って何のことなんですか?」
「専任担当は、Aランクになるとダンジョン協会から専属の担当者が決まるんだって、私も今日の朝に知った話だったから、希が知らなくても当然だよね」
「えぇ……先輩ってAランクなんですか? それって年間一千万円以上の納品とかじゃなかったですか?」
「学校の人達には内緒にしてよ? 他の人にはお母さんにさえ言って無いんだから、もし話が出まわったら、希が言いふらした事が確定しちゃうからね?」
「でも、それって凄い自慢にならないですか? 勿体ないなぁ」
「私はこれっぽっちも目立つ予定が無いからね。ちゃんと秘密が守れるなら、仲間にすることも考えるよ」
「それって私と先輩の二人きりで、ダンジョンに行って色々なプレーを楽しんだりするって事ですか?」
「鼻息が荒いし、希の言うプレーって言うのは、方向性が違う気がするけど、先の事を考えたら信用できる仲間は必要かなって思ってたから」
「先輩、私以外に先輩の
「でも、ミノタウロスであんな状態になるんだったら、私と一緒の階層は厳しいと思うから、とりあえずは強くなるための特訓から始めようか、毎日っていうか時間がある時だけでいいから、放課後はここに集合だよ、他の人には絶対内緒だからね」
「先輩と秘め事なんですね! 興奮します」
「希の変態度合いに私が耐えられなくなったら、放逐するけどね」
「えーっ放逐は勘弁してください。それより先輩は配信には興味ないんですか?」
「今のところは考えたことも無いよ」
「もったいないなー。先輩のビジュアルと実力なら、きっとあっという間に超人気チューバーになれるのにな」
「魔物を前にそんな撮影なんてしてたら危険を招き入れるだけになりそうだしサイトにアップしたり編集する時間なんかも勿体ないしね」
「じゃぁ先輩、私が専属のカメラマンをやって編集なんかも全部私がやるんならどうですか?」
「うーん、希がそこまで言うなら試しでやってみてもいいけど、アップする前に必ず確認はさせてよ?」
「わーい、早速明日から専属カメラマン希が先輩のあんな姿やこんな姿を撮りまくりますね! プライベートも含めて」
「プライベートは絶対禁止だからね約束破ったら絶対許さないから」
「大丈夫です! プライベートは私専用ですから」
「余計怖いわ!」
希が帰って行き、やっと少し落ち着いた。
きっとあんな風に振舞っていたけど、不安でしょうがなかったんだろうな。
私もお父さんが亡くなった時は不安だらけだったからね。
◇◆◇◆
さて、今日の戦利品でお料理作らなきゃね。
(あ、配信するならダンジョン食材を使ったお料理なんかのほうが私らしいよね。料理の効果なんかは、画面じゃ見えないし黙ってればいいだけだから)
それにダンジョン食材は、必ずしも自分で狩らなくてもダンジョンショップの食材を買ってくるのもありだよね。
お金はもう、ちょっと女子高生のお小遣いには、十分すぎる程増えちゃってるし。
取り敢えず今日は、ミノタウロスの極上霜降り肉だよね。
ボアの高級霜降り肉って言うのもあったな。
気分は牛さんかな?
『デリシャスポーション』と合わせる事に、意味があるお料理じゃないときっと効果は無いような気がするな? そうなると、すき焼きかな? さっき、お弁当食べちゃったからお腹はあんまり空いてないけど『牛スキうどん』なんかいいかも。
よし早速作ろう。
ミノタウロスの極上霜降り肉とお野菜とお豆腐とうどん玉を用意して、まずはお野菜を切り揃えよう。
白ネギと白菜と春菊と椎茸、鍋焼きうどんだからこれ位で十分だよね。
大きくなりすぎないサイズに切り揃えた。
お豆腐も、木綿豆腐をキッチンペーパーでくるんで、上から重しを載せて余分な水分を搾り取る。
三十分ほど放置した後に、表面をバーナーで炙って、焼き豆腐の出来上がり、これを一口大に切り揃える。
そして割り下は、お酒と味醂と濃口しょうゆを、一対一対一で合わせる。
すき焼きは少し甘めがいいから、お砂糖を少し加える。
お醤油の分量に対して八倍量の『デリシャスポーション』を量っておくの。
そこの平べったいすき焼き鍋をコンロに掛け、牛脂を馴染ませてから、ミノタウロスのお肉を炒める。
「うん食欲をそそるいい香りだ!」
そこに割り下を掛け入れると、お醤油の焦げるような、いい匂いが立ち込める。
お野菜と焼き豆腐を、見た目よくきれいに並べて、今度は『デリシャスポーション』を注ぐ。
沸くまでの間に、おうどんの表面のぬめりを取る様な感じで、お湯でさっと洗っておく。
お鍋が一煮立ちしたら、おうどんを加える。
もうお店の中は、すき焼きの香りで、溢れている。
「幸せな匂いだな……」
おうどんがしっかりと煮えるのを確認したら出来上がりだ。
魔鶏の卵を取り出し、取り皿に割入れよくかけ混ぜる。
それに浸しながら口におうどんを運ぶ。
「最高! 滅茶苦茶美味しいよ。ミノ肉凄いね。昔食べた事のある松阪牛や佐賀牛にも全然負けてないって言うか、こっちの方が全然美味しいよ」
するともう聞きなれて来た機械的な音声が私の頭に響いた。
『セレクトスキルの選択権を取得しました』
【パーティ作成】
【水魔法】
【火魔法】
【土魔法】
の四つが表示されている。
どうしよう。
もしかして、これでパーティとか組んじゃったら、パーティメンバーのステータスも私が調整出来るようになるとか?
希と行動する可能性を考えたら、取ってもいいかもしれないな。
他のは明日作る別の料理で取ってもいいんだしね。
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