第十六話 少女
「驚いた、こんなところで会うなんてな!」
「こっちも、お前が討伐者なのは知ってたけどナイトゴーンズだとは知らなかった」
「まあな、おかげさまでエリートやらせてもらってるよ。それで、桜坂はカンパニーの手伝いでもしてるのか?」
屈託のない笑みを浮かべながら、そう告げる赤井。
うん、まあ普通はそう考えるよなぁ。
イデアは十五歳までに発現するものだとされてるし。
「いやそれが……」
「知り合い?」
「あ、黒月さん! どうもです!」
様子を見に来た七夜さんに、サッと頭を下げる赤井。
よし、うまいこと七夜さんに赤井を押し付けて離席してしまうか……。
俺がそっと距離を取ろうとしたところで、七夜さんが爆弾を投げ込んでくる。
「この子はうちの次期エースの桜坂君。よろしく」
「えっ!? ちょっと、七夜先輩!?」
エースなどと紹介されて、びっくりしてしまう俺。
赤井も俺が討伐者になっていたとは思っていなかったようで、眼をパチパチとさせる。
うわ、こりゃ面倒なことになったぞ……!
「桜坂が……エース!? おい、お前ってイデアなかっただろ?」
「……最近、いきなり発現したんだよ」
「最近ってイデアは十五歳までだろ? 桜坂って、俺と同い年だったよな?」
明らかに狼狽した様子の赤井。
そりゃそうだろう、十五歳以上でイデアを発現したなんて話は俺も聞いたことが無い。
そもそも、俺のはイデアじゃなくて魔法だしな。
すると赤井だけではなく、七夜さんまでもが興味深そうな顔で尋ねてくる。
「イデアが最近発現したって話、私も聞いてない」
「え? ああ、そう言えばしてませんでしたっけ」
「うん、してない。それで、その歳で討伐者になったんだ」
納得したように、腕組みをしながらうんうんと頷く七夜さん。
直接理由を聞いてくることはなかったが、彼女なりに俺がなぜこの歳で討伐者になるのかをずっと不思議に思っていたようだ。
そのスッキリした表情を見て、俺はちょっと悪いことをしてしまったなと感じる。
前世が異世界の魔導師だったことを公開するつもりはないが、カンパニーの人たちにはある程度情報共有をしておくべきだったかもしれない。
樹さんも、何やら興味深そうな顔でこちらに聞き耳を立てているようだし。
「まあ、そういうわけだ。どうしてこの歳で発現したのかは自分でもわからん」
「……そっか。でも、これで俺たちも同じ業界の仲間ってわけだな。一緒に頑張ろうぜ!」
わからないと言った俺に、赤井は深く追求することなく手を差し出してきた。
この辺のさっぱりとした感じは、どこか体育会系っぽいノリである。
普段はちょっと苦手なこのノリが、今だけは非常にありがたく感じられた。
こうして俺が手を握ろうとしたところで、不意に赤井を呼ぶ声が聞こえる。
「いた! そんなとこで何やってんのよ!」
「いや、知り合いがいたのでちょっと」
「ふぅん。そう言えば、見かけないのがいるわね」
やがて姿を現したのは、豊かな金髪を後ろで束ねた少女だった。
俺と同年代ぐらいで、女性の割に背が高くスタイルの良さが際立っている。
目鼻立ちのハッキリとした顔は整っていて、さながらモデルのようだ。
海外映画のポスターか何かに載っていても、違和感がなさそうなほどの美人さんである。
ちょっと眼つきがキツイのが、俺としては少し気になるところだが。
「あなた、詩条の新入り?」
「ええ、まあ」
「合同討伐は初めて?」
「そうです、カテゴリー2のダンジョン自体も初めてで」
「そう。なら、何かわからないことがあったら遠慮なく聞いて。今回は私がリーダーだから」
「えっ!?」
思わず、聞き返してしまった。
いくらなんでも、二十歳にもならない少女が数十人規模の討伐隊を率いるのは意外だ。
すると俺の言葉が気に障ったのか、少女は少し苛立たしげな顔をして言う。
「何か問題ある? 言っとくけど、討伐者の腕に歳は関係ないから」
どうやら年齢に関することは、少女にとってタブーだったらしい。
ぐぐっと詰め寄られ、たまらず冷や汗が浮かぶ。
この子、凄い美人だけど俺がちょっと苦手なタイプかも……!
この手の人って、前世にもいたけどあんまりいい思い出が無いんだよなぁ。
「別にそう言う訳じゃ……」
「ならいいわ。あなた、名前は?」
「桜坂天人です」
「覚えた。私は
ぶっきらぼうにそういうと、少女はさっさと前の方へ歩き去って行ってしまった。
後に残った赤井が、すかさず彼女のことをフォローする。
「すまない。神南さん、急にリーダーを任されて少し気が立ってるんだよ」
「何かあったのか?」
「……もともと、今回は黒岩さんって人がリーダーになるはずだったんだけどさ。一か月ぐらい前だったかな、妙な事件が起きて今はそっちの調査をしてるんだ」
「妙な事件?」
「ああ。ダンジョンの外でドラゴンが目撃されたって」
……げ、それって俺が倒したドラゴンのことじゃねーか!
たまらず表情が引き攣りそうになるのを、どうにか堪える。
あのドラゴン、俺の家の近くに来る前に既に誰かに目撃されていたのかよ。
そりゃまあ、あの図体ならめっちゃ目立つだろうけどさ。
「ド、ドラゴン? まさか、そんなのが外にいるなんてことあるのか……?」
「だよな。けど、痕跡は見つかってるらしいぜ。もっとも、いったい誰がそんなの倒したんだって話になるけど……。それを鋼十郎さんが調べてるって話だ。あの人、元国防の特務だから」
「へ、へえ……」
……すまん、そのドラゴンを倒したの俺だわ。
けど参ったな、けっこう調査が進んでいるのだろうか?
ドラゴンを倒したこと自体は違法行為でも何でもないはずだけど、俺の能力がもしバレるようなことがあれば大変に困る。
今の時代、政府が裏で何やってるかなんて分かったもんじゃないからな。
いきなり捕まえて人体実験なんてのも十分にあり得る話だ。
実際、それらしい疑惑なんていくらでも転がっている。
「ちょっと赤井、遅い!」
「はい、今行きます!」
神南さんに返事をすると、赤井はそのまま前列へと走り去っていた。
それとほとんど同時に照明が落とされ、作戦会議が始まるのだった――。
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