前世が最強賢者だった俺、現代ダンジョンを異世界魔法で無双する! 〜え、みんな能力はひとつだけ? 俺の魔法は千種類だけど?〜

kimimaro

第一章 賢者覚醒編

プロローグ 街中のドラゴン

「申し訳ないんだけど、いまは人を募集してないんだよねえ……」

「わかりました、ありがとうございます」


 とある町工場の事務所にて。

 申し訳なさそうな顔をする社長さんにお辞儀をすると、俺は重い足取りでその場を後にした。

 これでかれこれ、五十社連続の不採用。

 どこも景気が悪いとは聞いていたが、ここまで採用されないとは予想外だった。


「参ったな。もうバイトで食い繋ぐしかないかも」


 高校を卒業して、はや三か月。

 俺こと桜坂天人 さくらざかあまひとは猛烈な不景気の嵐に呑まれていた。

 在学中に貯めた貯金もいよいよ乏しくなってきている。

 一昔前までは、高卒の就職と言えば学校の斡旋でほぼ確実に決まったらしいが……。

 誰もが職を求める今となっては、残念ながら夢のまた夢であった。

 こうなってしまったのも、すべては――。

 

「お、桜坂じゃねーの! 久しぶりじゃん!」


 俯きながら通りを歩いていると、不意に誰かが声をかけてきた。

 げ、面倒な連中に出くわしたな……。

 振り向けば、そこには高校時代の同級生たちが立っていた。

 シャツにスラックスの俺と違って、全員が黒のウェットスーツのような機動服を着込んでいる。

 現代における勝ち組”討伐者”の正装だ。


「ああ。元気してたか?」

「もちろん。それより桜坂の方こそ、大丈夫か? 具合悪そうだったけど」

「……なかなか就職決まらなくてさ」

「そっか、一般組は厳しいらしいからなぁ。お前、親もいないんだし頑張れよ」


 それだけ言うと、赤井たちはすぐさま歩き去っていった。

 ちょうど一仕事終えた後なのだろうか?

 焼肉を食いに行こうなどと、景気のいい話が漏れ聞こえてくる。


「……はぁ」


 赤井たちの背中を見送りながら、俺は大きなため息をついた。

 決して、馬鹿にされたわけでも笑いものにされたわけでもない。

 しかし、あまりの境遇の差に何とも言えない黒い感情を覚えずにはいられなかった。


「生まれる時代、間違えたよな俺」


 日本にダンジョンと呼ばれる未知の領域が出現したのは、今から三十年前のこと。

 東京のど真ん中に、いきなり巨大な門のようなものが現れたのだという。

 そこから溢れ出したモンスターによって、この国はたちまち存亡の危機を迎えた。

 モンスターに対して銃火器は効果を発揮せず、防衛線は崩壊。

 一時は列島全体から撤退するという話まであったらしい。

 しかしすんでのところで、モンスターのある弱点が判明。

 のちに討伐者と呼ばれる特殊能力に目覚めた人間も出現し、日本はかろうじて滅亡を免れた。

 その後、ダンジョンのもたらす未知の資源によって崩壊した経済も徐々に復興。

 皮肉なことに、国を滅亡寸前へと追いやったダンジョンは国を復興させる鍵となったのだ。


 とはいえ、人口の一割以上と首都を失った損失は計り知れない。

 その傷は三十年が過ぎてなお癒えてはおらず、ダンジョン関連の産業を除けば底知れない不景気だ。

 おまけに治安も著しく悪化しており、俺のような無能力の一般人には生きづらいことこの上ない。

 俺が生まれる前、日本は世界で一番治安がいいとか言われていたらしいが……。

 毎日のように武装強盗がニュースになる現在では、ちょっと信じられない話だ。


「……まあ、考えても仕方ないか。それより仕事だな、仕事」


 財布を開いて改めて中身を確認する。

 全部で二万円ちょっと。

 これが、今の俺たちに残された全財産だ。

 俺は妹と二人暮らしなので、持ってあと三週間といったところだろう。

 それまでにどうにか仕事を見つけなければ、兄妹仲良く飢えてしまう。

 とりあえず、今日は早いところ家に帰って明日の朝いちばんに――。


「あたっ!? すいませ…………!!??」


 考え事をするあまり、誰かにぶつかってしまった。

 そう思った俺はすぐさま頭を下げたのだが……そこにいたのは人ではなかった。

 視界を埋め尽くしたのは、金属のような光沢のある黒い鱗。

 それが壁のように路地を遮っている。

 恐る恐る視線を上げてみれば、たちまち現れる白い牙と金色の眼。

 こいつは……!!


「ドラゴン…………!?」


 住宅街のど真ん中で、俺は恐るべき怪物と出会ったのだった。

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