04 街の主の許へ



「ここよ」


 女がラービスに引っ張られ連れてこられた場所は、とても厳粛で神聖な白銀色の外観の立派な建物だった。


「ここは……?」


 女がその建物についてラービスに聞く。


「ここは、氷刃龍シヴィアエレジナ様の住む建物、カルフスノウ大聖堂よ」


「カルフスノウ大聖堂……?」


 カルフスノウ大聖堂。女は知るはずがないが、龍神の住む建物、聖火の祀られている建物としてこの大陸── エルグレア大陸 の隅々にまで知られている。


 とても有名であり、日々この街には観光客が絶え間なく訪れ 氷刃龍 や 聖火 を見ては満足して帰るか、街にある宿屋に泊まるかをして観光を楽しんでいるようだ。



「すいませーん、シヴィア様にお会いになる前に少しいいですか?」


「ん?あ、ラファレス。いいわよ、何かしら」


 翡翠色の髪をした執事と神官の服を合わせたような装いの青年─ラファレスが、女とラービスを呼び止めた。


「シヴィア様にお会いになるには、ちゃんとした格好をして貰わないと!今のその病衣ではいけませんので。確か司祭が貴女の服を宿屋で洗濯するのに預けていたはずなので、そこで着替えてからシヴィア様にお会い下さい!」



 そう言い伝えるとラファレスは「では、失礼します!」と言って大聖堂へと入っていった。



「宿屋に貴女の服があるらしいわよ。今のその格好じゃ入れないみたいだし、着替えに宿屋へ行きましょう」


 女はそう言われ頷いた。


「じゃ、早速行きましょう」


「はい」


そうして、二人は来た道をもどり、宿屋への道を歩いていった。



           ◆



しんと、不気味な程に静まり返るカルフスノウ大聖堂内。白く勇猛と揺らめく聖火を前に、一体の蒼白い龍が佇んでいた。


その姿は、見るものを虜にしてしまうほど美しく、透き通った氷のような角と翼が龍の威厳を示すかのように生えている。


そしてその龍の瞳は、白き聖火を捉えていた。


「シヴィアエレジナ様」


そんな龍に話しかけたのは、先程女らに服を取りに宿屋へ向かってくれと言った翡翠色の髪の青年、ラファレスだった。


シヴィアエレジナ様と呼ばれた龍は、青年に向き直ると


「何用か」


と言葉を発した。


その声は、高く澄んだ声色だった。


「失礼いたします。先日運ばれてきた女性が目を覚ましました。後ほどこちらへ向かってくるようです」


その報告を聞いた龍はラファレスから目を離し、聖火の方へ視線を向けた。


「………………」


そしてそのまま時は一分、二分と過ぎてゆく。


ラファレスは龍が話すまで、何も言葉を発することなくただただ待っている。背筋を伸ばした姿勢を崩さず、表情もきっちりと保ったまま、微塵も動かずに。



やがて、龍は口を開いた。



「その女を、この街に暮らさせるという事にしたのだな?」


その問いかけにラファレスは、自信を捉えていない龍の瞳を見て答えた。


「はい。住民全員と相談したのでは無いのですが……ラービスさんを始め多くの方々がその様に決めました」


「そうか」


龍は聖火から目を離し、ラファレスに言った。


「もうそなたは下がって良いぞ」



ラファレスは龍にそう言われると深々とお辞儀をして


「では、失礼致します」


と言い、大聖堂内にある自身の自室へと向かっていった。





そして一人になった龍は、何処か寂しげに呟いた。




「何故……」




という言葉だけを。




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