第118話 不吉な予感

 昨日相談して決めていた通り、本日の森の調査は上空から行う事にした。


 当然カータ氏や村人たちにエアロカーの存在を伏せる形で、人気のない森の奥から離陸した。そのまま森の奥へと飛び立つ。


「やっぱり南に行くほど寒くなるよ!」


 エアロカーには飛行時の風圧や高度による気温低下を防ぐ仕掛けが施されているが、呼吸の為の空気循環をカットできない以上、どうしたって多少の外気が内部に漏れてしまう。普段より肌寒く感じてしまうのも仕方が無かった。


「あ! あそこ見て! あちこち木が倒れてる!」


 佐瀬が指差した方角は南ではなく、西の沿岸部であった。


 そちらを凝視すると、確かに森の木々が荒らされていた。それが西の半ばから大きくカーブして、南の奥の方まで道のようにずっと続いているのであった。まるで何か巨大な生物が木々を押し倒して突き進んだ結果のような痕跡だ。


「少し高度を下げて見てみよう。名波、魔物の気配は?」


 俺の問いに彼女は首を横に振った。


「小さい気配を幾つか感じるだけで、大きい生物はこの辺りにはいないよ」


 小動物なんかはまだ去らずに残っているのだろうか? ただ、森を荒らしながら南へ進んだと思われる巨大な何かは、どうもこの辺りにはいないようだ。


(さて、痕跡の延びている南と西、どちらに向かうべきか……)


 何となくだが、南には行きたくない。それは何かの予感か、それとも単に寒いのを嫌っての判断だろうか……


「一度沿岸部の方から調べてみよう。何か謎の生物の正体に繋がる痕跡が残されているかもしれない」


 俺の提案に三人共が頷いた。


 エアロカーの進路を、謎の巨大な何かがやって来たと思われる東方向に変更した。




 オースの森上空を飛行していたが、遂に森が途切れ沿岸部付近にまで到達した。そこはどうやら岩礁地帯になっているようだ。


「巨大な何かが通った後は、この辺りから続いていたなぁ。……いや、逆に森から海へ入った可能性もあるのか?」


「それは無いんじゃない? 木々の倒れ方からして、どう見ても海から森の中に入った感じよ?」


 確かに荒らされた木々の殆どは西側へと倒れていた。つまり海から何か巨大な魔物でも這い出てきて、それが陸に上がった。その何かはそのまま森の西へと向かい、途中で進路を南へと変更した。


 恐らくそんなところだろう。


「あ! あそこにあるの、船じゃない!?」


 シグネが指を差した方角には、どうみても難破したであろう大きな木造船が岩礁に乗り上げていた。


 全員がその船へと近づいていく。


「もしかして幽霊船!? お宝があるかなぁ!」


「こら、シグネ! 船が難破したって事は、亡くなった人もいるかもしれないし不謹慎でしょう!」


「ご、ごめんなさい……」


 佐瀬に怒られたシグネが素直に反省をした。


「でも、難破した船を発見するだなんて、まるで物語のような展開だね」


 シグネがはしゃぐのも理解できるのか、名波がフォローするような発言をした。


「……物語の中じゃあ、難破船の中には異国からの高貴な生存者がいるとか、お宝があったりだとかが相場だけど……何か気配は感じるか?」


「……ううん、人の気配も魔物の気配も感じない」


 それを聞いた俺たちは顔を顰めた。少なくともこの場に生きている者はいないようだ。


「船の後部側面が大破してるね。しかも、この痕って……」


「ああ、まるで巨大な何かが強引に出てきた感じだな……」


 しかし、まさかこんなサイズの船から、森に大きな痕跡を残すくらいの巨体生物が出てきたとでも言うのだろうか?


 推定でしかないが、森に通り道を作った生物の大きさは恐らく体長4、5メートルくらいはありそうだ。大型船でもない限り、内部に入り込めるサイズでは無い。


(巨大な海の魔物が船を襲った? でも、どうみても船内から飛び出たような痕跡に見えるんだけどなぁ)


 とにかくここで議論していても埒が明かないので、俺たちはもっと船に近づく事にした。すると岩礁の隙間から、何やら奇妙なモノを見つけた。


「ん? これは……なんだ?」


 思わず拾い上げたそれは、まるで大きなカニの脚のようであった。若干毛深いので毛ガニの脚だろうか?


「鑑定するね。んー、それ、蜘蛛の脚だね」


「げぇ!?」


 俺は思わず拾った脚を捨ててしまった。


「アーススパイダーの脚って鑑定で表示されたよ」


「「「アーススパイダー!?」」」


 その魔物ならよく覚えている。何しろ俺たちがパーティ戦で初めてまともに倒した討伐難易度Aランクの化物蜘蛛であったからだ。


「もしかして、あの船はアーススパイダーに襲われたって事?」


「なら納得ね。あんな化物が相手じゃ、全滅しても不思議じゃないわ」


 名波と佐瀬は船が難破した理由に納得したようだが、俺は新たな疑念が生まれた。


「なぁ、アーススパイダーの脚にしては随分小さすぎないか?」


「え? んー、確かにそうね」


「まだ幼体だったのかな?」



 魔物の生態はまだまだ知らないことだらけだが、発生方法は大きく分けて二種類あるとされている。


 それは自然発生と繁殖だ。


 魔力の濃い森の奥などで自然発生されるらしいが、その瞬間を見た者はかなり少ない。だが確かな証拠として幾つかの書物にも記録されている事実だそうだ。


 繁殖に至っては、クーエやガンダーなどの家畜魔物の飼育などでも実際に証明されている。ダンジョン産は別として、野生の魔物はその二種類のどちらかで生まれてくるのだ。


 話をアーススパイダーに戻そう。


 アーススパイダーはかなり凶悪だが、基本群れる事の無い魔物らしい。蜘蛛型の魔物には群れで行動するタイプと単独行動する二種類に大別されるが、アーススパイダーは後者の方だ。


 だが、どのようにして生まれ、成長するのかは未知数だ。流石にAランクの魔物を飼育するような奴はいないのだろう。


(まぁ、大半の魔物の生態は分からないらしいけどね)


 同じ討伐難易度Aランクの蜘蛛でも、繁殖で徐々に数を増やしていくアラクネは危険視され、ギルドでも早急な討伐が推奨されている。一方、増える心配の少ないアーススパイダーは討伐を後回しにされるケースが多いそうだ。



 何故今このような話をしているかというと、船内に入って中を探ってみたら、あちこちに卵のような残骸やアーススパイダー幼体の脚と臓器らしきものが散乱していたのを発見したからだ。


「う、キモ……」

「酷い臭い……」


 あまりの光景に佐瀬とシグネは顔を歪ませたが、名波は真剣な表情で周囲を観察していた。


「脚の数が多い……これは一匹二匹どころじゃないよ! きっと船内にアーススパイダーが沢山いたんだよ!」


 この室内だけを見渡しても、散乱している脚の本数が二桁を軽く超えていた。それに交じって人間のパーツらしきものも見え隠れしており、佐瀬は堪らず船の外へと逃げ出していった。きっと今頃は海にリバースでもしているのだろう。


「……だろうな。あちこちに卵のようなものもあるし……これはアーススパイダーの卵なのか?」


「……うん、鑑定では……そう出るね」


 シグネもダウン寸前なようなので、先に船の外に出ているよう指示した。大人しく頷いたシグネは佐瀬の後を追う形でその場から退散した。


「それにしても腐臭が酷いな。後で一応【キュア】と【クリーニング】を掛けておくけど、直接空気を吸わないよう口はなるべく塞いでおこう」


「そうだね」


 俺と名波はスカーフで口元を覆って、更に船内の奥へと進んだ。




 調査にはそれほど時間が掛からなかった。というのも、下の階は既に浸水しているのと、どこも似たような惨状であったからだ。


 乗員は全滅したと思われる。恐らくは何らかの形で孵化したアーススパイダーの幼体に食べ尽くされたのだろう。


「でも、人が蜘蛛に食べられるのは分かるけど、土蜘蛛は一体誰に食べられちゃったのかな?」


 外の空気を吸って復調したシグネが尋ねてきた。


「間違いなく共食いだろうな。地球の蜘蛛も母親の内臓を食べて成長する子蜘蛛もいるようだし、子供同士で食い合ったって別に不思議じゃない」


「「うぇぇ……」」


 佐瀬とシグネが二人揃って嫌な顔をした。


 だが、これでアーススパイダーが基本群れない理由にも納得できた。恐らく彼らは生まれたと同時に兄弟たちと喰い合う性質なのだろう。その過酷な生存競争に打ち勝った個体のみがアーススパイダーとして成長し、猛威を振るうのだろう。


 きっと森の中へ侵入したのはアーススパイダーの成体だ。船体を突き破って出た時には、まだ身体のサイズが大きくなかったのだろう。


 それが事実だとしたら恐ろしい成長スピードだ。


「それじゃあ、森の木々をなぎ倒して去って行ったのは、生き残って成長したアーススパイダーってこと?」


 俺と同じ結論に至ったのか、佐瀬が俺に尋ねてきた。


「多分そうだろうな」


「ふぇ? それじゃあ、異常気象は一体何が原因なの?」


 シグネが不思議そうに首を傾げると、俺と佐瀬は思わず顔を見合わせた。


「「…………あ」」


 そうだった。いつの間にか森を荒らした化物の正体を確かめることに躍起になっており、異常気象の方を失念していた。アーススパイダーは俺たちも一度戦った事がある相手だからよく知っているが、周囲の気温を下げるような魔法など使ってこなかったのだ。


「まぁまぁ。とりあえず、アーススパイダーを追って行けば、何か分かる事もあるんじゃないのかな?」


 確かに名波の言う通りだ。それにAランクの魔物をこのまま放置する訳にもいくまい。野生のアーススパイダーとは初めて戦うが、今の俺たちならそれほど苦戦せずに倒せる相手の筈だ。



 昼飯を食べてからアーススパイダーを追跡しようかと提案するも、流石にさっきの今では食欲も出ないようだ。そのまま休息無しで、森を通った謎巨大生物(多分アーススパイダー)の痕跡を追う事となった。




 再びエアロカーで空から痕に沿う形で飛行するが、気温がどんどん下がっていくのを肌で感じた。


「うぅ、流石にこの寒さは厳しいわね」


「何か防寒できる魔法とか持ってなかったっけ?」


 佐瀬に尋ねると、彼女はしばらく考え込んでから一つの魔法を試してみた。


「うーん、これなら効果あるのかな? 【アイスバリアー】!」


 それは本来なら耐水防御魔法ではあるのだが、どうやら自然の冷気にも多少の効果があるようで、寒さを凌げたことに佐瀬は喜んでいた。



 当然その後俺たち全員にも【アイスバリアー】を掛けてもらう事にした。


「こんな副次的効果があるなんて初耳だったなぁ」


「この温暖な地域だと出番も少なそうな魔法だしね」


 嬉しい誤算ではあったが、これで防寒対策はバッチリだ。



 だが、寒さの問題をクリアしたと思った直後、名波が新たな何かを発見をした。


「待って! エアロカーを下ろして!」


「なんだ? 魔物でも出たか?」


「ううん。そうじゃないんだけど、あの先を見て!」


 名波に言われた通りにエアロカーの高度を落とすと、先に拡がっている森の異変にようやく気が付いた。


「な!? 森が……凍っている……のか!?」


 例の巨大生物の通ったとされる痕跡を辿っていくと、その周辺にある草や木が全て凍り付いていたのだ。よくよく観察すると、今まで通って来た道も少し前までは凍っていたらしく、木や草が湿っており、土も若干泥交じりになっていた。


「何よ、これ……。雪が降ったんじゃなくて、全てが凍っているの?」


「どうも、そのようだな。これは……明らかに魔法、だよな?」


 しかも上空から確認した形では、間違いなく巨大生物の通った痕を中心に凍り付いていた。そしてその犯人は、明らかに船から出てきた魔物であった。


 更に恐ろしい事に、よく見るとその凍っている範囲はずっと奥の山の麓辺りまで続いていたのだ。それを見た俺は愕然とした。


(これ程広範囲に影響を及ぼす水属性の魔法を扱う魔物……。こいつは……本当にアーススパイダーなのか!?)


 凍った森はどこか幻想的で、場違いにも美しいとすら感じてしまったが、それと同時に俺の脳内には先程からアラートが鳴り響いていた。


(こいつは……果たして俺たちの手に負える相手、なのか……?)


 今更ながら、周辺に魔物や動物の姿が見えなくなってしまったという状況に俺は怖気ついてしまった。きっと逃げ去った動物たちは俺たち以上に危機意識が強かったのだろう。


 俺たちなら今回も無事問題を解決できると、どこかでそんな奢りがあったのだ。


「イッシン……」


 流石の佐瀬も不安そうに声を掛けてきた。


「……依頼はあくまで調査だけだ。ここから先はより慎重に進もう。名波も異常を感知したら直ぐに教えてくれ。あと、全員常に撤退できる準備だ」


「……っ! ええ!」

「……了解だよ!」

「分かったよ!」


 少し脅かすように指示を出すと、俺は再びエアロカーを南へ進めた。佐瀬の【アイスバリアー】はまだ効果時間が残っている筈だが、やけに肌寒く思えてしまった。




 凍れる森の上空を飛行すること数分、突如名波が警告を発した。


「っ!? い、いる! この先に、とても大きくてヤバそうな気配を感じるよ!」


「「「……っ!?」」」


 かつてない名波の警告に、俺たちは思わず臨戦態勢を取った。まだ俺たちは上空で、相手は恐らく地上に潜んでいる筈なのに、である。


 だが、それは決して間違った行動なんかではなかったのだ。


「――――っ!? 何か来る! 避けて!」


 名波に言われるまでもなく、森から飛翔した何かを避けようと俺はエアロカーを急速旋回させた。飛んで来た何かをギリギリのタイミングで躱すも、次弾までは避けられなかった。


 強い衝撃と共に、エアロカーに何かが張り付いた。


「こ、これは……糸!?」


 その直後、エアロカーは物凄い力で地上へと引っ張られた。


「不味い!? みんな、飛び降りろ!」


 俺は近くに居た佐瀬を抱きかかえると、急いでエアロカーから脱出した。


 名波はシグネと共に落ちていくのを確認した。二人ならシグネのエアーステップか、最悪ゴーレムを起動させて空を飛ぶ事も可能なので大丈夫だろう。


 一方で、突如空に身を投じる羽目になった佐瀬は驚いていた。


「きゃああっ!?」

「口を閉じてろ! 舌を噛むぞ!?」


 俺は佐瀬を抱きかかえたまま、地上に向かって【ウインドー】を放出し、落下の勢いを緩和した。それと同時に【セイントガード】も展開して衝撃に備える。


「ぐっ!?」

「んっ!?」


 不格好ながらもなんとか佐瀬を守りつつ着地する事に成功をした。名波とシグネも無事に着地できたのを確認した。どうやらゴーレム君を取り出したようだ。


「撤退だ! 殿は俺が務める!」


 依然として嫌な気配がしたままだ。いや、むしろ徐々にその気配が濃くなっている。相手は忍ぶつもりもないのか、木々を倒しながらこちらへ迫っている事が、地響きや爆音で容易に想像できた。


「エアロカーはどうするの!?」


「放棄だ! また作ればいい!」


 尤も、肝心の動力部分である≪魔法の黒球≫は入手困難なマジックアイテムだが、今は取りに行く時間も惜しい。それに命には代えられない。



 俺たちがそんなやり取りをしていると、凍れる森の奥からいよいよ襲撃者が姿を見せた。そいつは以前見たアーススパイダーを一回り程大きくした大蜘蛛であった。


 だがその内面から感じ取れるプレッシャーは、そんな生易しい表現では済まされないレベルの化物であった。


「な……んだ、こいつは……っ!」

「ひっ!?」

「う、そ…………」

「あぁ…………」


 その姿を見た瞬間、全員が死を連想しただろう。それ程の、生物としての格の違いを俺たちは見せつけられたのだ。


 相手は余裕なのか、獲物の前で舌なめずりでもしているのだろうか。感情の読み取れない冷たい複眼でこちらを見たまま動きを止めていた。


 嘗て開拓村で相対したデストラム以上の圧に、俺はなけなしの勇気を振り絞って行動した。


「先に行け! こいつは俺が足止めをする!」


「なっ!? ふざけんな! アンタが一番死んだら駄目でしょ!」


 佐瀬の言う通りなのだが、彼女らを見捨てて俺一人だけ逃げ出すなど、例え蘇生魔法が使えると言っても容認できる行為ではなかった。


「ゴーレム君! 佐瀬を運んで離脱しろ!」


 闘力が一番低く、移動の遅い佐瀬をカバーするように俺は命じた。


 一方の佐瀬もゴーレム君に命令を与える。


「駄目よ! ゴーレム君、イッシンを連れて逃げなさい!」


 二つの矛盾する命令をゴーレム君が受けるとどうなるのか。その問題点はゴーレム君を初披露した後で、俺たちパーティ内でも散々議論した。


 結局、俺は彼をカスタマイズする際、敢えて命令権の優先順位を設定しなかった。緊急時により迅速な行動ができるよう、非常事態時の判断はゴーレム君自身に委ねていたからだ。


 その結果、ゴーレム君は俺を抱きかかえて空を飛び立った。


「なっ!? 馬鹿、止せ、止めろおおっ!」


 暴れる俺の抗議も空しくゴーレム君は空を飛び、佐瀬たちから急速に離れていった。その行為がゴングとなったのか、大蜘蛛との戦闘がいよいよ始まった。凄まじい魔力のぶつかり合いと轟音があちこちに鳴り響く。


 ゴーレムに強引に拉致される中、俺は首を捻って彼女たちの方を見た。遠目でシグネが大蜘蛛の脚に吹き飛ばされ、名波は地面から生えた氷の槍で串刺しにされている光景が見えてしまったのだ。


 そして佐瀬は……エアロカーを墜落させたのと同じ糸に絡めとられたのか、そのまま近くの凍り付いた大木に何度も身体を叩きつけられていた。


「あ、ああ……止めてくれ……止めろぉ……っ!」


 あれでは間違いなく全滅だ。


 いや、最悪死ぬだけなのならまだマシだ。だが俺は強烈に嫌な予感が……いや、確信があったのだ。


 つい先刻、難破した船内を捜索した時の光景が目に焼き付いて離れない。


 あの大蜘蛛は外敵を殺してそのまま捨て置くのだろうか……否! 十中八九、三人とも食べられてしまう。あの船内に居たであろう乗組員やアーススパイダーの幼体たちのように……


「……ゴーレム君、よく聞け。このままだと三人は喰われちまう! そうなれば蘇生魔法でも二度と復活はできない!」


「…………」


 そういえば、ゴーレム君の前では一度も蘇生魔法を披露したことが無かった気がする。こいつは頭の賢いゴーレムだ。どこかの日常会話で俺が蘇生魔法を使えることを知っていたのだろう。だから俺一人を逃がし、再起を図ろうとしたに違いない。


 だが、佐瀬たちもゴーレム君も勘違いしているのだ。蘇生魔法は決して万能なんかではないという事を……


「いいか、よく聞け! 蘇生魔法には条件がある。なるべく綺麗な遺体の状態で、しかもなるべく早めに復活させる必要がある。死体を食べられるなんてのは論外だ! 理解できたか?」


「…………」


 ゴーレム君にはその説明だけで十分だったのか、彼は無言のまま確かに頷いた。本当に驚くべき知能の高さだ。今はそれが頼りにもなる。


「これから直ぐに元の場所へ戻る。だが、正面から戦っては絶対に勝ち目がない。俺が死ぬ気で何とか奴の気を逸らすから、お前が皆の遺体を回収するんだ!」


 俺の説明にゴーレム君は首を横に振った。恐らくだが、役目が逆だと主張しているのだろう。ゴーレム君が囮役で俺が皆を回収するべきだ、と。


 確かにそれは主の身を案じるゴーレムとしては正しい判断だ。だが、その結果失敗しては何の意味も無いのだ。


「駄目だ。相手はお前の火力に有利な水魔法を扱う。お前では囮にすらなれない。一蹴されてそれで終わりだ。だから囮役は俺が務めるしかない…………頼んだぞ!」


 俺の言葉にゴーレム君は今度こそしっかりと首を縦に振った。


「よし! それじゃあ行動開始だ!」


 開始の合図を出した俺はゴーレムの腕から抜け出ると、そのまま上空から飛び降りた。








◇◆◇◆ プチ情報(スキル紹介) ◇◆◇◆



スキル名:【体術】

タイプ:戦技型

系統:体術系

分類:適性スキル

レベル:1

主な所持者:ナタル


 体術が向上する。素手の戦闘だけでなく、武器を使っての身体の動きも向上するスキル。




スキル名:【斧】

タイプ:戦技型

系統:槍術系

分類:適性スキル

レベル:1

主な所持者:不明


 斧の扱いが上手くなれる。熟練の樵の中にはスキルを開花する者が多く、才能ある若者はもっと早い。スキル習得を切っ掛けで冒険者に鞍替えする樵は多い。


 また、系統は槍術系となっているが、槍の扱いは上手くならない。その代わりハルバードを斧として扱う場合には補正が掛かる。ハルバードを突くなどする場合には【槍】スキルの影響範囲となる。




スキル名:【斧使い】

タイプ:戦技型

系統:槍術系

分類:適性スキル

レベル:2

主な所持者:不明


 斧の扱いがもっと上手くなる。




スキル名:【斧マスター】

タイプ:戦技型

系統:槍術系

分類:適性スキル

レベル:3

主な所持者:ハワード


 斧を長年振り続けていると、稀に習得できる斧の最高峰スキル。

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