死に戻れたので恋をやり直したいけど突然飛ばされた異世界が誘惑たくさんで困ってます(仮)輪廻の呪いの中で恋をする

もちねっこ

第0話 死に戻り

私の名前は神代拓矢(かみしろたくや)55歳。

 

もうすぐ私は死ぬ、原因は肝臓癌だ。


今はもう視界がぼやけて妻や子供の顔もハッキリ見えない、なにやら私にしゃべりかけているが意識がもうろうとして理解もできない。


癌が見つかった3か月前にはすでにステージ4だった。


子供は1人いるがもう成人している。

妻とはできちゃった婚で出産後は冷たい性格に変わったがまぁそれは仕方がない。

私が死んでも生命保険もあるし好きにするだろう。


こころ残りは


妻と出会う前に好きだったあの子に何も伝えられなかったこと。


(最後に考えることが妻以外の女の事なのは許してくれ)



-------


「店長!店長起きてください」


(せっかく最後の思い出に浸っていたのに起こすなよ)


眩し!あれどこだここ。


知らない天井・・・いや知ってるぞ昔の職場、俺がよく寝ていた座敷席だ。


「店長 閉め終わったんで俺たち先帰りますよ お疲れした」

「お?おう 野崎お疲れありがとな」


(野崎?あれ?俺死んだはずだよな、ん?死んだ?)


あ!あれか死ぬ間際に見るという走馬灯か?

でもなんで最後が野崎で野郎なんだよ。

しかも、やけにリアルだな 尿意もあるし、やべなんか漏れそうトイレトイレ。

それにしても懐かしいなこの雰囲気、確かこの奥にトイレがあって隣が更衣室か。

尿が出る感覚もリアルだなぁ、あれ?俺の息子見えてたっけか。

酒の飲みすぎと運動不足で見事なビール腹になって以来見えてなかったはずだけど。


用を足し終わり鏡の前に立っていたのは見慣れた自分の姿ではなかった。


「若返ってる」


これがもし夢や走馬灯じゃないとしたら過去に戻ってきたってことか。

野崎もいたし何よりこの店は俺が癌になるとっくの昔に潰れたはず。

でもまだこれがリアルな夢って線は捨てきれない。


こういう時はあれだな、思いっきり両手で頬を叩いてみる。


「ふん!」


!!!!


「痛ぁぁい!」


(痛みがある 痛みがある 痛みがある これは夢じゃない)


これは死に戻りってやつか?でもなんでこんな中途半端なところなんだ。

赤ん坊からとかじゃないのか?普通は・・・いや普通は死に戻りしないのか?

それとも死んだらみんな死に戻るのか?

だとしたら死に戻るところは自身が望んだところか?

まぁ考えても仕方がない、ところで今日は何月何日だろう?


俺は若いころチェーンの居酒屋で働いていた。

当時の俺はいずれ自分の店をもって独立することを夢にひたすら働いていた。

休みは当然なく、あっても結局店に行き働いていた。


365日定休日なし!チェーン店の辛いところである。


夢や目標のために頑張ることが美しいと、それが人生だと会社に刷り込まれた半洗脳状態。

実際は会社の利益のためにすり潰されていく駒に過ぎなかった。

正直言って超ブラックだ、漆黒の労働者とは俺のことだった。

それでも仕事自体は楽しかったし遣り甲斐も感じていた、だがそれも。


(せっかくやり直せるんだ さっさと辞めて転職しないとな)


たしかこの店にいたのは2009年頃だから・・・そう仮想通貨が生まれた年だ!


当時はネット掲示板で少し話題になっていたが正直興味がなかったし、

未来のことより今を生きることにとにかく必死だった。

たしか2009年時点の価値は俺の給料でも余裕で買える価格!

これで将来大金持ち確定は見えた。


「よぉ~し」

トイレを出たところで大きくガッツポーズをしていたところに懐かしく、可愛らしい声が聞こえてくる。


「神代さん楽しそうですね。どうしたんですか?」


振り返ると更衣室からちょうど出てきた彼女が目に映る。

 

彼女の名前は山村りか(やまむらりか)、見た目は少し幼いがその反面性格はしっかりした少し毒のある女の子だ。


そう彼女が俺の心の残り、昔好きだった女の子。


俺のお店は全国展開のため転勤が多かった。

長くて1~2年、早くて半年で転勤、俺も全国いろんな都道府県に赴いていた。

このお店はちょうど俺の地元で希望を出して赴任させてもらっていたが、たしか1年半で九州の方に転勤になったっけかな。


リカちゃんとはこの店を離れて以来もう会うことはなかったんだよな。


「神代さん 無視しないでくださいよ」


(おぉ神よ俺の願いを聞いてくれてありがとう 感謝感謝)


「神代さん?」

彼女は若干怒った顔をしてこちらを見ていた。


「あぁごめんごめん リカちゃんがあまりにも可愛いから見惚れてたよ」


「またそんな馬鹿なこと言って、怒りますよ」


怒った顔がまた可愛らしい。


当時の俺と彼女の関係は店長とバイト。

彼女は大学2年生で20歳だった、そして俺は26歳。

俺はことあるごとに彼女に対し「今日も可愛いね」「いつデートしてくれるの?」

そういった冗談を言っていた、いや本当は本心で会話をしているつもりだったが。

年の差と店長とバイトという関係が俺のあと1歩を邪魔していた。

俺の理性は普通だったのだ。


そして彼女への気持ちを隠すために当然ほかのバイトの女の子にも同じような声かけをしていた。

(でもデートの誘いは リカちゃんだけだったんだけどな)


だから今の彼女もまたからかわれているのだと俺の言葉を本気にはしていない。


「今日も疲れた顔をしていたんで心配してたんですけど、もう大丈夫そうですね」

「そりゃリカちゃんの顔を見れば元気ぴんぴんよ」

「もう、殴りますよ」

(あぁこれこれ可愛らしくも少し毒があるツンとしたやりとり)


怒ったと言いつついつも笑顔で相手をしてくれる彼女に俺は心底惚れていた。


「そういえば今日って何月何日だっけ?」

「え?とうとうボケたんですか?12月3日ですよ」

「え?嘘」

「え?」

(12月って居酒屋にとって超忙繁期じゃん・・・終わったわ)


よりにもよって休みも取れない もともと無いに等しいけど週末はまともに家にも帰れない地獄の年末とは。

しかもそんな時期に会社は退職させてくれるわけもないし。


(さっきの神への感謝取り消す ふざけんな もっとのんびりさせてくれよ)


「うふふ、ホントおかしな人ですね、元気になったと思ったら落ち込んで」


でもまた彼女の笑顔を見れるなら頑張れるかな。


そこからはなんの違和感もなく過去の日常をとても忙しく過ごしていた。

リカちゃんがシフトに入るのは週に3回、決まって深夜のラストの時間だ。

会うたびに過去と変わらないやりとりに癒されていた。


俺は彼女と働ける時間を楽しみすることでこの惰性の日々を、何とか大晦日の閉めまで乗り切ることができたと言っても過言ではない。


(せっかく死に戻ったのにやってることは前と変わらんな、転職活動もできてないし、ただ仮想通貨はちゃんと10万円分買ったけどね。これで10年後おれは億万長者だ、いやそれ以上になるな)

「神代さんニヤニヤして気持ち悪いですよ」

仕事が終わって気の抜けた俺のニヤケ面を彼女に見られてしまったようだ。

(ふっふっふ、リカちゃんよ、そんことを言っていいのかい?私は数年後には超が付くお金持ちになるのだよ)


「忙しすぎてとうとう頭もおかしくなっちゃったんですか?」

「リカちゃん今年も最後までありがとう。助かったよ」

「神代さん年はもう越してるから去年ですよ」

「そこは普通突っ込まないでしょ」

年越しのカウントダウンを意識することなく仕事を終え時刻は朝の4時だった。


「じゃあ仕事も終わったし、おじさんと初日の出を見つつ初詣デートでも行きますか」

「じゃあってなんですか、神代さんが行きたいなら私はいいですよ」

(うんうん、疲れているし明日もお互い出勤だし行きたく・・・え?)

「行くの?」

「え?行かないんですか?」

「じゃあ行こっか」

「はい」

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