第23.5話 乾杯!

勢いで盗賊狩りに行き、捕まっていた人々を救い出して宿場町に戻ったハルオは、再び宿屋の風呂に入っていた。

湯気の立つ水面を見つめながら、昼間の戦闘を思い返す。

刃を振るう感触、倒れた相手の温もり、そして――鎖につながれた女や子どもたちの怯えた目。

「……終わった、わけじゃない。」

鏡代わりの湯面に映る自分の瞳を見つめ、ハルオは呟いた。

背後では、ようやく目を覚ましたゴルドが湯をかぶって体を洗っている。

「俺が寝ている間に盗賊を狩りに行くとは……さすがベスだな。」

さっぱりとした顔で湯船に入るゴルドが、感心したように肩をすくめた。 ハルオは苦笑いを浮かべる。

「寝てる間に、っていうより……寝ゲロで死にかけてましたよ。」

「うっ……言うな。あれは酒が悪かったんだ。」

「酒じゃなくて、飲みすぎです。」

二人のやり取りに、隣の女湯から声が飛んだ。

「うるさいよ、あんたたち。せっかくの風呂が騒がしくなるじゃないか。」

ベスの声がしたあとに、 木の仕切り越しにだがちゃぷんと湯の音が響く。


風呂から上がった三人はまた食堂でまた乾杯していた。

「今日も稼いだからね。飲むよ」

「で?俺が寝ている間にいくら稼いだんだ?」

「討伐報酬で金貨三枚、やつらのアジトで金貨五枚と銀貨五十枚に宝石が少し、これもハルオのおかげさね」

「いや、ほとんどベスさんがやってじゃないですか」

「あたし一人じゃ無理だった。あんだがいたから無茶ができたんだよ」

食堂の賑わいの中、三人の笑い声が響いた。

酒瓶が並び、パンと肉の香ばしい匂いが漂う。

戦いの疲れも、今だけはどこか遠い。

「金貨八枚に銀貨五十って……とはまぁまぁな稼ぎだな」

ゴルドがジョッキを掲げながら笑う。

「まさか盗賊狩りで今回の護衛料より稼ぐとは思ってなかったさね。これは護衛を止めてもう一狩りいこうかね」

「冗談はよしてくれ‥‥俺が悪かった」

「冗談さね、あっはっはっは」

ベスの勢いは止まらない。

「二人ともお酒はほどほどにしませんか?」

「なに言ってんだい、私はこいつとは違って潰れたりははしないよ」

「そうだ、タダ酒なんだ、飲まなきゃ損だろ。それに今日は大丈夫だ。坊主も飲め」

「そうだそうだ、飲めハルオ」

ハルオは苦笑いを浮かべながら、二人の勢いに押されてジョッキを受け取った。 「……じゃあ、少しだけですよ?」

「おう、それでいい。それが“付き合い”ってやつだ。」

ゴルドがにやりと笑い、ジョッキを掲げる。

「じゃあ――生きて戻ったことに、そして救えた命に!」

「乾杯!」

三人のジョッキがぶつかり、金属音が心地よく響いた。

食堂のざわめきが、少しだけ遠のいたように感じた。

ハルオはごくりと一気に飲み干す。

「……旨い。」

「そりゃそうさ」

ベスも笑って、ぐいと一気に飲み干す。

「まったく……」

と呆れつつも、ハルオはどこか嬉しそうだった。

旅立ってからずっと張り詰めていた心が、今だけは少し緩む。


その後また三人でふらつきながら部屋に戻ったのは言うまでもない。

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