第14話 鉱山と出会い
「この雑木林を抜けたらすぐや」
杏介は地図も見ずにそう言った。この先は車が入れないらしく、杏介と総吾郎は雑木林の手前で送迎車から降りた。
夏に入ろうとする現在、日差しが強く地熱も強い。雑木林の中は日差しが閉ざされ、寧ろ涼しさすら感じる。暗いようにも感じるが、歩く先なら何とか見えるくらいだ。
杏介は今回、何が起こるか分からないとのことで大量の種を持ち出してきた。その殆どがヒラリ鉱山で採れた鉱石だと、行き道すがらに彼は話した。
「杏介さんは行ったことあるんですか?」
「何回かな。だからあっちの責任者とも面識はある……が、何年も前やからなぁ。あっちが覚えてるかどうか」
鉱山までは恐らく2km程とのことだ。そこまではずっと雑木林で、更にその全域がデニス・ヒラリの私有地とのことらしい。厳密にはヒラリ一族のものらしいが、現在は彼が一人でこの地を治めているので実質彼の固有遺産となっているようだ。
「どんな人なんですか、その……責任者の方は」
「まあ、穏やかそうなじいちゃんやで。裏とかも何も無さそうな」
その、瞬間だった。林の隙間から見える太陽の傍らにぎらりと、強い光。
「っ杏介さん! 伏せてください!!」
「え」
風を切る気配。杏介を突き飛ばすと、総吾郎もそのまま倒れこんだ。ドスッ、と鈍い音を立てた点を見ると銀色のナイフが刺さっている。形状からして、投擲用のものだ。ギリギリ二人の傍をかすめている。
「なん、やこれ」
「また来ます!」
杏介を再び突き飛ばすと、ナイフが追うように飛んできた。それも、二本、三本、と立て続けに。
アキラとの訓練のおかげで、反射神経がどうやらかなり鍛えられているらしい。秒感覚で飛んでくるナイフの風を感じる前に、何とかかわしきれる。
「大丈夫ですか!?」
「今んとこはってまた来た!」
「狙われてるんですかね!?」
「とりあえず急ご、鉱山は室内やし防がせてもらえるはずや!」
総吾郎も頷き、二人で駆け始める。時折振り返りながら林の上部を見上げると、葉がかすかに揺れている。それも、一点だけ。自分達を追うように移動してきているのが分かる。恐らく、あれだ。
再びナイフがとんでくる。前を走る杏介の肩を押し軌道をずらさせると、再び地面にナイフが突き刺さった。しかし。
「っつ……!」
「当たりましたか!?」
「大丈夫や、浅い! 何やねんほんまに!」
「杏介さん、鉱山まであとどれくらいですか?」
「正直まだかかる……迎撃するか!?」
頷く。杏介も頷くと、足に急ブレーキをかけた。同時に、上空の葉が大きく揺れる。どうやら戸惑ったらしい。杏介は腰に巻いていたポーチに手を入れまさぐると、「雷でいくか」と青い小ぶりな『種』を投げて寄越してきた。ぐっと握り締め、手中で吸収する。『種』は小さければ小さいほど吸収は早く持続力も無いらしいが、恐らく敵は一人だ。事足りるだろう。
葉が揺れる。恐らく、あちらも構えただろう。ここからは早撃ちだ。
「っらぁ!!」
体内で生まれた電気を右手人差し指に集中、撃ち出す。青い閃光が、揺れの元へとハイスピードで放たれた。それは、あちらから向かってくる銀の煌きを呑んだ。
「ぎゃっ!!」
高い、しかし男の悲鳴だった。人影が派手な音を立てて地に墜落する。杏介と顔を見合わせ、とりあえず向かった。
「杏介さん、頬が」
杏介の右頬に走っている赤い筋。すこから、血が二雫程垂れていた。彼は「大丈夫や」と笑い、すぐ前を向いた。
そんなに離れていない地面に、小柄な人影がうずくまっている。やはり男の体格だ。意識はあるらしく、ひたすら呻いている。
「大丈夫か?」
杏介の言葉に、男……というより、少年は大きな目で睨みを返してきた。金髪で肌の色も白く、ヘーゼルカラーの瞳。恐らく、日本人の血は薄いか引いていないかの二択だろう。
「人の事撃ち落しておいてそれは無ぇだろ。何だあれ、鉄砲でもないよな? ほら見ろ、ここが火傷みてぇだ」
指差されたところは右肩だった。確かに服が焦げて、露出した素肌は赤くなっている。忌々しげにそこを眺めながら、彼は舌打ちした。
「俺のナイフをほぼかわした上にこれだ。何だてめぇら、『neo-J』の戦闘部隊ってやつか?」
「ちゃうちゃう。俺達は『neo-J』やない。むしろそいつらを止める為に派遣されてきた者や」
「……何だと?」
彼の目が、大きく開かれる。顔立ちはよく見ると愛嬌のある、子どものようなあどけなさが強い。恐らく総吾郎とそこまで歳は変わらないだろう。しかし一瞬右肩を庇い呻き、顔を伏せた。総吾郎は慌てて彼と目線を合わせるように屈み、杏介を見やる。杏介も察したのかため息を吐き、背負っていたリュックを下ろした。
「まさか序盤で使う事になるとはなぁ、先が思いやられるわぁ」
「な、何する気だ!」
「田中くんよぅ押さえといて。今の君は帯電してるから、触れてるだけでそいつ軽く麻痺させれる」
「な、何だてめぇら!!アレか、犯すのか俺を!!だっ誰かー!!!」
ひとまず彼の口を塞いだ。一瞬びくつくと、盛大な睨みを総吾郎に向けてくる。しかしどうやら麻痺が始まったらしく、すぐに大人しくなった。杏介はリュックから救急グッズを取り出すと、火傷跡をじっと睨む。すぐに消毒やら薬剤を塗ったりやら治療処置を施すと、盛大に伸びをした。
「あとでこの化膿止めも念のため飲んどいて。軽い火傷やし今のでこっちの傷はすぐ治るやろけど、念には念をってことで」
「な……何なんだよ……第一、『neo-J』を止めるって……」
総吾郎が離れた事で麻痺も収まってきたらしく、呂律が回りだしている。その目は先程のような敵意よりも、戸惑いの方が強まっているようだった。
「逆に聞きたいわ。俺らの邪魔するって事は、お前の方が『neo-J』の手先ちゃうんか。そうでもなかったらこんな所でいきなり俺ら刺し殺そうとしたりしやんやろ」
「そ、それこそ逆だ! てめえらが『neo-J』だと思ったから先手を打っておこうと!」
「先手?」
どうにも話が進まない。総吾郎は杏介に耳打ちした。
「もう『卍』って話しませんか? 確かに何者か分からないですけど。一応怪我させたのは俺だし、こっちが先に明かさないと多分あっちも自分の事話さなさそうですよ」
「何や、さっきは好戦的に迎撃体制入ってたのに。そういう変な罪悪感捨てた方がええで、そこから投じた賭けはいつか身滅ぼすぞ」
そう言われると、何も言えなくなる。しかし気を落としたのを感づかれたのか、杏介は一瞬困ったように眉を寄せた。そして口を開いた。
「……俺達は『卍』や。『neo-J』の敵対組織」
ハッとして杏介を見る。しかし彼もまた「これでややこしくなったら田中くんがあいつ始末しぃや」と耳打ちしてきた。頷くと、彼はかすかに笑った。
それを聞いた少年も、びっくりしたように顔を上げる。
「あんた達が!? あんた達が『卍』なのか!?」
「な、何や。知っとるんか」
「うちを助けてくれるって、親分が言ってた。でも今日来るなんて聞いてなかったぞ」
「うち?」
少年は一瞬口を噤んだが、すぐに吹っ切ったのか杏介と総吾郎を交互に見て言った。
「俺は、マオ・ヒラリ。ヒラリ鉱山責任者の……一応息子だ。義理だけど」
マオいわく、『卍』に『neo-J』との交渉を助けてもらうようにデニスは申請を出していたらしい。しかし正直駄目元での申請だったため、まさかここまで早くに派遣されるとは思っていなかったそうだ。そもそも承諾の返事すら受けていなかったらしい。杏介の考えとしては「架根の事やから行った方が早いとか思ったんやろ」との事らしく、組織としてそれは問題なのではないかと思ったが一応黙っておいた。
三人で雑木林の中を進んでいくと、写真で見た崖が見えてきた。入り口と思わしき鉄の大扉の前に立つと、マオが扉にパスワードを打ち込む。その桁に驚いたが、何せこの先はいくらでも値を付けられる鉱石の採掘場だ。警戒は怠れないのだろう。
轟音と共に扉が開き、中に入る。意外にも、中は近代的なロビーだった。外から見た崖のような、土っぽさは一切無い。
「ここは言わば、ヒラリの会社の部分だ。採掘場は更に奥にある」
「それってとんでもない広さなんじゃ……」
「まあ、敷地としては確かにある方なんじゃねぇかな。応接室に行くぞ」
すれ違う、職員と思しき人間達が皆マオに対し恭しく頭を下げる。やはり責任者の息子というからには、跡継ぎのような扱いなのかもしれない。
応接室に通され、ソファを進められる。対面でマオが座り、職員に飲み物と菓子を持ってくるよう告げた。
「改めて、だ。この度は、来てくれて感謝する。あと、さっきの件は……その」
「んー、まあ一応それは俺らが悪いわ。まさか行く日知らせてへんとは思ってなかったし。担当にはめちゃくちゃ文句言っとくから」
「そうそう、やっぱりこういう……その、鉱石とか扱ってるからには警備とかすごくて当然だし。むしろ息子さん本人が警備してるとかすごいと思う」
二人して何故か慰めるような形になってしまっているが、マオは安心したのか少し表情を緩ませた。しかしすぐにまた、暗くなる。
「本来は、責任者である親分と会わせるべきだと思うんだ。でも、それが今出来なくて」
「そういえばそやな。デニス氏、今忙しいんか」
「それが、その……」
かなり言いにくそうだが、二人の目線を受け重い溜息と共に口を開いた。
「行方不明になっちまった。一昨日から」
「……マジでか」
「実はそれもあって、ちょっと来訪者を警戒してたってのもある。もし『neo-J』が親分を攫ったってんなら、身柄の解放と引き換えにうちの土地権やら経営権やらを要求しにくると思って」
「それ、本当に誘拐?」
総吾郎の言葉に、マオは首を捻った。よく見ると、目の下には濃いクマがある。きっと色々必死なのだろう。
「それが実はそうとも言い切れなくてよ。何故か親分の旅行用キャリーも無くなってるんだ。普通誘拐とかなら、そんな準備なんかさせる間も無く……だろ」
「確かに……でもこんな大事な時にひょっこり旅行とか普通行かないですよね、杏介さん」
杏介はそれを聞き、難しそうに顔を歪ませた。
「……いやあ、あのジジイなら正直有り得るでそれ。そういう奴やで」
「えええ……」
「そうなんだよなー、有り得んだよなー。でもやっぱり万が一というかさー」
クッキーとコーヒーが運ばれてきた。クッキーを齧りながら、マオはひたすら首を捻る。
「親分、通信機器とか一切駄目な人でさ。携帯電話も持ってないから連絡も取れやしねぇ。つまり自主的に出てったとしても、いつ戻るか分かんねぇんだ」
「うーん、誘拐ならまだ敵さんから連絡もあるからどうにかなりそうやけど。一応時間取れるのが一週間やねんなぁ……」
「それはそっちの事情だ、仕方ねぇよ。むしろすまねぇな」
話せば話す程、最初出会った時の印象から離れていく。多分根はすごく優しい少年なのだと感じる。久しぶりの同年代の少年との出会いに、正直総吾郎の気分は高揚していた。
「一応泊まる場所はこの中で手配するから、安心してくれ。元々明々後日に『neo-J』が交渉に来る予定だったんだ。それまでに親分が戻りゃいいんだが……」
「最悪その場合、田中くんに交渉役やってもらうか」
「えええええ!!?」
急な無茶振りに驚き、杏介を見る。彼は気まずそうに目を逸らした。
「いやー実は……俺、だいぶ昔やけど『neo-J』でスパイしてた時あって」
「待ってください今初めて聞きましたよそれ! 今作ってるでしょその話!!」
「いやほんまやでこれ、多分架根は知らんけどアマイルスに聞いてみ。まあそれもあって今まで俺外の任務あまり無かってんよな、作戦部でもないのに面割れてるから」
言われてみれば確かに、『neo-J』が絡む任務どころか通常任務でさえ彼は全然外には出ない。それは単に研究員だからかと思っていたがもしかすると逆で、そういった事があるから研究員をやらざるを得なかったのかもしれない。
そもそもアレクセイやマトキが来た時も、わざわざそのタイミングでアマイルスに栄佑の担当を交代させていた。マトキやアレクセイが国家病院……即ち『neo-J』と関わりがあると勘付いていたから敢えて避けたのかもしれない、など色々疑惑が生まれてくる。もしかするとアキラが二人の正体を予期出来ていたのも、杏介の協力だったのか。
杏介は一瞬考え込む素振りを見せ、閃いたかのように総吾郎を見た。
「よし分かった、デニス氏が戻ってきたら本人が、俺と面識無い奴が来たら俺が交渉入る。でも俺を知ってる奴来たら田中くんよろしくやで」
「……本気ですか」
交渉などしたこともない。むしろ、そんな心理戦のような場で自分が力になれるのか。しかし真正面のマオの縋るような目を見たら「……頑張ります」としか言えない。マオはそれがうれしかったらしく、顔を輝かせてくれた。
とりあえず今すぐにはやる事が何も無い、という事でマオが内部を案内してくれる事になった。一応ヒラリの中では、やはりマオが跡継ぎという形になっているらしい。
「親分は結婚してなくて、子どもも居ない。そこで後継ぎとして、ヒラリの中で唯一若い男である俺が選出された。その為に戸籍を変えただけで、一応生みの親はまだ生きてる」
だから親父ではなく親分と呼んでいるのか。世襲とは言え、親族であれば直系かどうかはそこまで気にしていないとの事らしい。この鉱山が『新』日本に運ばれた際、ついてきたのはヒラリの一族の中の4つの家だったそうだ。その中で、日本の血を一切入れる事無くひたすらに近親婚を繰り返しているらしい。
「それ、何か危ないやつちゃうの。血が濃いと畸形児が生まれやすいとか」
「らしいな、でも一応ルールがあんだよ。交配は一番自分と血が遠い人間と行うとか。例えば一族で一番末の女が今十四歳なんだが、そいつが産む事になる子どもはそいつの母親の従兄弟の祖父が仕込むとかもう決められてる」
「えっ……ちょっとえぐ過ぎひんかそれ」
最奥に、崖の入り口で見たような鉄の扉が在った。先程マオがパスワードを入力していた盤が三つある。それだけ厳重に、この奥は管理されているということだ。つまり。
「この奥が?」
「そう、採掘場だ。せっかくだし、中行こうぜ」
「ええな、さすがに初めて入るわ。見てみたい」
三つの盤にマオがパスワードを入力し終えると、扉が動き始めた。表の物より音が大きい。重々しい轟音が、脳まで揺らしにかかってくる。
「網膜認証にしやんの?」
「網膜や指紋だと、いざという時本人の意識無くても開けられちまう。何だかんだ記憶に頼る方が、案外外部には漏れねぇ。この音も、侵入された時確実に気付けるようにわざとやってんだ」
それだけの価値が、この奥にあるという事なのだろう。一体、どうなっているのか。
扉が漸く人一人入れる幅まで開いた時、動きを止めた。マオが先頭に立ち、中へと入る。二人は後に続いた。
中はとにかく広く、天井までも高い。ざっと50メートルはあるだろう。等間隔で自立式の照明が点在し、恐らくは元々暗闇であろう空間を照らしていた。それでも薄暗いが、何とか顔の判別は効く。
「シフト制で、鉱員がここを掘っている。この広さは、今まで数百年と歴史をかけて掘られてきた証だ」
「す、数百年……」
「フランスにまだこの鉱山があった頃から、石を採っていたんだ。どういうわけか、価値が定められている石がとにかく掘れば出る。あっちでも早い内から宝山扱いされてたらしい」
「じゃあ、あっちでもかなり重宝されてたんじゃ? そんなものを何で『新』日本にくれたんだろう」
「知らねぇ。だが言えるのは、恐らく『新』フランスはこんなものを一つ他国に寄越したくらいで何も損害じゃねぇってことだろ。もっとすげぇものを、きっと沢山手元に置いてるんだ」
そう考えると、確かに頷ける。マオは不意に、地面を蹴った。すると、何かが飛び出す。それをリフティングするようにして空中へ上げ、手で掴み取った。薄暗いが、よく見ると石のようだった。
「恐らくフローライトだ。最近よく出てくる」
「こ、こんな簡単に鉱石が?」
「だから宝山なんだよ。歩きゃ見付かるし触れりゃ採れる」
目が慣れてきたので改めて地面を見る。確かに、乾いた粘土のような土にはいくつもの突起が見える。恐らく、これが全て何かしらの鉱石なのだろう。
マオが「ついてこい」と呟くと、歩き始めた。それを慌てて追う。ところどころ鉱石につまずき転びそうになるが、とにかく彼は先へと歩いていく。かなりの広さを感じざるを得なかった。
十分程歩きだすと、何か人影のようなものが見えてきた。同時に。
「って」
「杏介さん?」
立ち止まり杏介を見ると、右頬を押さえていた。先程、マオのナイフで負傷した場所だ。杏介は頬を指で拭うと、首を捻った。
「何か急に絆創膏剥がれた。血ぃめっちゃ出てきてる」
「え、大丈夫ですか」
「多分。一瞬だけや、今はもう出きったんちゃうかな」
そんな二人を見、マオは目を見開いていた。気になって声をかけようとしたがすぐに背を向け、「もうすぐだ」と言って歩き出す。杏介の絆創膏を新しいものに変え、走って追った。
そして、見えた。
「……人、じゃない?」
マオは頷くと、「あれだ」と指差した。
照明にしっかりと照らされた先に、白い人形のようなものが立っていた。杏介と同じくらいの大きさだ。近付いてじっと見てみると、ある点に気付く。
「これ、全部……」
「ああ、髑髏だ」
頭部に当たるであろう部位には、大人のものより少し大きく見える髑髏。その下は、小さい髑髏や骨の破片が組み合わさり、人の胴体のような形をしていた。腕、胴、足……すべてが人間の形を模倣しているのに、形作っているのは骨の破片と小さな髑髏だった。
「気持ち悪いだろ。本物の髑髏かどうかは分からねぇけど」
「いや、この破片みたいなところ……これ頬の骨やな。これは歯やし。何せ頭蓋骨を分解して作ってる。触ったらヤバそうやからやめとくけど、見た感じこれ本物やで」
「……なんでこんなもの」
マオを見ると、首を振っていた。
「親分が言うには、この鉱山が日本に贈られてきてから出てきたらしい。中を掘ろうと入った時、ぽつんと立っていたそうだ。勿論誰かが運んできたとか、そういうのじゃねぇ。何故か、急に……出現した」
「めっちゃホラーやんそれ」
「だろ? だから触らずとにかくここでそっとしておこうって話になった。でも俺、実は見ちまった」
少し、声が震えているようだった。恐る恐る、言葉が紡がれる。
「……親分、日本のホラーが好きでよ。そういう昔の文献とか漁ってて、それを俺も興味本位で見てみたんだ。そしたら、こういう髑髏を使った呪術の話があった」
「え、ちょっと待って。今その話いる? いらんくない?」
杏介の焦りが、尋常ではない。こんなに冷や汗をかいている杏介を見るのは初めてだ。少し気になり、総吾郎は彼に問うた。
「もしかして、こういうのアウトですか」
「いやいやいや! アウトちゃう、アウトではない。むしろ……いややめとくかこの話は」
最近、こういう寸止めにされる事が多い。マオの方に視線を向けると、彼もまた「そうだな」と頷いた。
「一応、知らせておきたかっただけだ。すまねぇな、とりあえず戻るか。もう時間だし飯にしようぜ」
杏介も深く何度も頷き、マオについていく。総吾郎は最後に髑髏の人形を見やると、二人に続いた。
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