1話 手紙①
「先輩?」
、、、
「先輩!!」
急に後ろからの声にびっくりして後ろを振り返る。声の主はバイト先の後輩、櫻井美沙希だ。
「ちょっと、反応してくださいよー」
「悪いな」
何も考えず洗い物を拭いていたら時間が過ぎていた。
「店長がもう上がっていいって言ってますよ。」
時計を見ると22時を過ぎていた。
「もうこんな時間か」
「早く一緒にあがりますよ!いつまで拭き物してるんですか。」
後輩の櫻井とバイトを退勤し休憩所に向かう。
「今日はかなり忙しかったですね!」
「そうだな、年末の忘年会シーズンで団体のお客さんが多くて死にそうだよ、」
「ま、頑張りますか!」
「そうだな。」
「そうだこのあとご飯どうですか?」
「あー悪いこの後用事があるんだよ。」
「あ、彼女さんですか?」
「違うよ、会うのは男友達だよ。あと、俺に彼女はいないから!」
「それは悪いこと聞いてしまいましたねー」
言葉のわりに口調は明るい。
「あのな、俺を誘うくらいなら他に誘うやついるだろ。」
「せっかく誘ってるのに、なんか傷つくー私結構モテるんですからね?」
「知ってるよ」
櫻井は冗談で言ってつもりらしいが実際かなりモテる。明るく誰からも好かれる性格で容姿もかなり整っている。
よくお客さんからも声をかけられているのを見る。
「そんなにモテるなら大丈夫だろ。」
「そんなに私と行きたくないんだ」
「そうは言ってないだろ、じゃあ今度行こう?」
「ほんと?」
狙っているのか、天然なのか、少し真面目な顔して聞いてきた。
「気が向いたらな。」
「もう!」
不機嫌に言うと帰る準備をし始めた。
行きたくないわけではないが今の状況的に櫻井といるのは面倒になるのはわかっている。
それは避けたい。
店を出る頃には22時30分を過ぎていた。
店を出ると冷たい冷気が一気に押し寄せて体を強張らせる。
「寒っ、マフラー持ってきてよかったー。」
櫻井は寒がりなのかかなり厚着でマフラーまでしていた。
「先輩、そんな格好じゃ風引きますよ!」
「大丈夫だよ。」
そうは言ったがとてつもなく寒い。
コートだけなのは流石に後悔した。
店を出て駅まで2人で歩く。
「先輩って彼女いましたよね?」
「ああ、いたよ。別れたけどね」
「しかも、超絶美人の吉岡先輩。」
「なんで知ってるんだよ。」
「風の噂で。」
「風の噂?!どんな情報網だよ。」
「嘘ですよ。たまたま食堂で見かけたんですよ。なんで別れちゃったんですか、あんな綺麗な人なのに?浮気?」
「違うよ。価値観の違いってやつかな?」
「ふーん」
納得はいってなさそうだ。戸惑いながら話を続けた。
「俺のことより櫻井はどうなんだよ?前川先輩から告白されたんだろ?」
「え?!なんで知ってるんですか?」
「あー風の噂だよ。」
「風の噂、、?」
これから会うやつに聞いたとは口が裂けても言えない。
「先輩はどう思います?」
予想外の質問に困惑した。
「どうっていいと思うけど?だってバスケサークルの部長で勉強もできるそれでいてイケメンって文句のつけようがないだろ?」
「そうですかね、私の好みではないんですよねー完璧すぎるというか面白みがないと言うかー」
「じゃあ、断ったの?」
「はい!私好きな人いるんで!」
笑顔でそう言うと少し真面目な顔をした。
「私は私を好きな人よりも私が好きな人と付き合いたいんです。」
何か風が吹いたような衝撃を受けた。
「そうなんだ。実るといいなその恋。」
「実らせます!」
「で、誰?好きな人。」
「そんな言うわけないじゃないですか、」
「だよな。」
言うわけないとは思ったがしつこく聞くのも気が引けた。
そんなこんなでたわいもない話をしていると気がつけば駅の前まで来ていた。
「じゃあ、俺は次があるからこの辺で。」
「そうでしたね、お疲れ様です!」
「お疲れ様。」
櫻井は改札口に向かって歩いていく。
途中何かを思い出したのか櫻井が振り向いた。
「先輩!デート考えておいてくださいね!」
そう言うと改札口を抜けてホームへ行ってしまった。
「デートって、」
不覚にも可愛いと思う自分がいることに気づいた。好きな人って俺のことなのか?いや、自意識過剰にも程がある。
そんなこと思う資格すら無いと自分言い聞かせて携帯を手に取る。
画面を見るとLINEが2件入っていた。
内容を確認し携帯をポケットにしまい目的地に向けて足を進めた。
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