第153話 技術交流会③

「ええー、今日はお集まりいただきどーもでーす。部屋の隅っこにおっかない顔した父ちゃんがいるけど、あんまし気にしないでねー。んじゃ第二回、技術交流会ぎぢちゅこーりゅーかいをはじめまーす。パチパチパチー」


 と、さっそく文句つけたくなる口上と疎らな拍手ではじまった技術交流会なる催し。

 実際なにをする集いかといえば、魔導歯車を仕込んだカラクリをどう作っていくかについて、それぞれの研究結果を発表するのが主。


「今回の目玉、魔導三輪車トライクはあとで外の広場でみせるとしてー、まずはモリエンドさーん。水車の代わりになるやつからお願いしまーす」


 最初に呼ばれたのは水車職人なんだが、水の手がない場所でも小麦や蕎麦の製粉できる仕組みを考えてるそうだ。


「ええー、前回は石臼の動力として直に魔導歯車を繋ぎましたが、どうにも加減が難しい。それに魔力の消費もかなり激しかった。さらには魔力量が少ないと動かないという失敗もありました。そこで今回は、以上の点を改めてみようという試みです」

「ほーほーふむふむ」

 

 モリエンドは自前の絵図を配り、魔導歯車をいじり倒した結果を説明していく。


「このように小さな魔導歯車を利用して、大きな歯車で動力を受けたなら、少ない魔力でもチカラを伝えることができます」

「小っちゃい子でも動かせるよーになったってことー?」

「小悪魔様、そのとおりです」


 ベリルがザックリまとめると、


「一つ噛ませるだけで、チカラの伝わりの大小を変えられるのか」

「これまで動力の向きを変えることばかり考えていたわ」

「いやいや、今日は来てよかった。さっそく実りがあったぞい」

「仕組みは複雑になりそうだが、チカラの上げ下げにも使えそうだな」


 参加者は新しい閃きを受け入れ、さらに話を発展させていく。


 普通なら新しい技術は隠すもんだよな。だってのにベリルはそれを許さねぇ。

 もちろん拒んだ者に無理強いはせんが、儲けようってよりか新しいモノを作りたいって連中を多く集めたせいで、興味を優先させちまってる。


 事前通告どおり前回なんの発言もしなかったヤツが、今回から外されてるってのもデカいのかもしれん。

 なにより怒涛の如く知識が刷新されていくから、秘匿する技術の取捨選択してる余裕なんかねぇんだろう。皆が皆、流れに取り残されないように精一杯って雰囲気だ。


 さっきのがいい例えで、たったひと月で歯車の仕掛けに使う技術が更新されちまった。

 最先端から振り落とされたくねぇんなら隠しごとなんてケチくせぇマネしてられんって状況を、ベリルは無理くり作り出しちまったとも言える。


 無論、それぞれ秘めてることがまったくないとは言わん。うちが魔導歯車の製法を隠してるように。

 だが、工夫を共有するだけでも恐ろしい速さでモノ作りが進展していく。


 とてもじゃねぇが話についていけない。

 これから人が増え回を重ねるごとに、この勢いは増してくばかりだろう。


 ちょうどいま、ボビーナが実演してるハタ織り機もそうだ。

 魔力を流しこむだけでビシッと織り目が均一な布が誰でも作れるなんて、実物見ても理解が追いつかんぞ。


「糸も紡げたし、めちゃ順調じゃーん」

「ありがとうございます。それこれもベリル様が魔導歯車を提供してくださったおかげです」

「いーっていーってー。ちゃーんとレンタル料もらってるしー。つーかできたの売る感じ?」

「いくつか問い合わせも来ていますので、もしお許しいただけるのなら」

「父ちゃーん。いーよねー?」


 ここで俺に振ったのは、たぶんわざとだ。

 魔導歯車の貸し出しにあたり『ハタ織り機の販売相手にもしっかり言い含めとけ』って圧かける演出に違ぇねぇ。

 ったく。汚れ役を押しつけやがってからに。


「構わんが、うちの部品はサブスクだぞ。そこんところ納得させられんなら、なんも文句はねぇ」


「「もちろんです」」


 夫婦揃って声あげた。

 この話についちゃあ事前にしてある。だからいちいち確認するこたぁねぇのに、ニケロとボビーナをダシにして周りに見せつけたんだ。


 儲けられる。ひいては新しい品を試すカネが手に入る。だが、そのためにも不義理はすんなよってとこか。


 それぞれの後援の都合もあるから、やりすぎってことはねぇ。また盗みに入らるなんて面倒なことされたら堪らんからな。


「私の研磨機も売りに出してよいですか?」

「う、うちの送風乾燥機も!」

「ぜひぜひ脱穀機も!」

「おい待て、耕運機を忘れてもらっちゃ困るぜ」

「はいはい! 調理機具もありますよ」


 これらが売れるたんびに、魔導歯車の契約が広まっていく。ほっといてもカネがドパドパ流れ込んでくるって仕組みだ。


「いーけどニセモノ作られないよーにねー」

「ヘンッ。やれるもんならやってみろってんでい」

「そうだそうだ。マネして偽物作ってるあいだに、うちはもっとスゲェの作ってやるぜ」

「ならさーあ、すぐ古いのになっちゃうわけだし、みんなもサブスクにしたらどーお? 一年更新で新しいの交換するとか。したら痛み具合とかで改良するとこもわかるだろーし、使い心地とか意見も聞けるっしょ」


 となると、うちとの契約も絡めちまえば楽できるかもな。


 ていうのも魔導歯車の売り上げ、実はベリルがかなりのところを持ってくことになってんだ。

 作ったぶんと修理したぶんの代金はホーローたちにキッチリ払うんだが、それを差っ引いても毎月積もり積もってとんでもない額がアイツの懐に入ってくる予定。

 なのにベリルは、契約云々の雑事はすべて俺に押しつけやがる。

 だからって、まさか俺個人が娘から給金もらうなんて情けねぇマネできるわけもなく、タダ働き……。


 しかしサブスクにするって流れに乗っかれば、煩わしい仕事を減らせられるかもしれん。

 いまは一個一個で契約を結んでるが、扱う量が増えんなら、本体売ってる相手ごとに何個で月になんぼって契約で済ませられそうだ。

 しかも、盗難紛失破損諸々の管理責任はあっちに押しつけて。


 ……いかんな。俺もだいぶベリルに毒されてきてんぞ。


 だがしかし、いくらやっても懐が潤わん机仕事に振りまわされるんのは勘弁願いたい。これも紛れもない本音。


「おう少しいいか」


 結局、俺は手間を減らせる方を選んじまった。


「うわ、父ちゃん楽しよーとしてるしー」


 オメェにだけは言われたくねぇ。

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