第149話 禿山要塞化計画、不承④

 それでは、我が禿山要塞を紹介しよう。


 上空から俯瞰することはできんので、見取り図を元に、まずは全体像を。


 禿山をグルリと囲う長い堀には、トルトゥーガ領とウァルゴードン領との境目にあたる雄大な河から、水が流れ込む。

 この流れは麓に沿い居住地を経て、元の河へと戻っていく。


 ちなみに生活に欠かせん水場は、その流れからはみ出したように、丸く広く浅く備えられていた。


 また、ある程度の間隔ごとに杭を打ち、そこから縄で繋いだ木炭が沈められている。なんでもベリル曰く『浄水のため』らしいが、これについてはいずれ詳しく。


 次は、大きな特徴であり最大の金食い虫だった混凝土塀。なんと幅は一メートル以上の分厚さ。

 こっちは水堀と違い、切れ目なく山を一周している。

 高さは二メートルと登れなくはねぇ。だが、手前を流れる水堀の端から建てられてるんで、合計すると高さは四メートル以上。しかも足場は背丈を越す急流。

 よっぽどの手練れでもねぇ限り、攻城用のハシゴでも用意せんと乗り越えられねぇだろう。


 そして、半分斜面に沈んだような建物が連なり横一列、領地側の塀に沿って並んでいる。


 ここまですべて、混凝土をふんだんに使った頑丈な作り。

 いったい全体どんな敵を想定してるのやらサッパリな、堅固な要塞に仕上がっちまってる。



 さて、ここからは正面から入った内部についてだが、


「父ちゃん、ついてきてー」


 ベリルが案内してくれるんだと。


 小さな後ろ姿につづいて、正面からは塀の一部に見える建物へ。


「こっからしか禿山んなか入れないかんねー」


 だそうだ。


 入り口は両開きの扉があり、警備の者が二名立っている。


「ごくろーさまー」


 俺らが通りかかると、ビシッと敬礼擬きでお出迎え。いっつもベリルがやってる悪ふざけみたいなやつだ。

 わざわざくだらんこと仕込みやがってからに。


 入り口の先には十字路があった。

 はじめに右側へ。

 その最奥の部屋に入ると、


「「「こんちはー!」」」


 ホーローたちがいた。


 室内を見まわすと、部品の切り出し加工や、ベリルが注文した新しい品の試作をしているみてぇだ。重要なモノをここにまとめちまった感じか。

 魔導ギアや包丁もここで作ってるんだろう。


 奥行きはあるが窓は天井近くだけらしく、室内はランプの灯りで煌々と照らされてる。灯り代が気になるところ。


「旦那っ。オレらにこんなスンゲェ工場こうばを用意してくれて、ホント感激ッス!」

「おう。それもこれもぜんぶオメェらがガンバった結果だ」

「ちゃんと換気しないとだかんねー。ボロい倉庫んときと違って空気めちゃ籠るし」

「おう。気ぃつける」


 作業を中断させちゃあ申し訳ないと、ここらで次の部屋へ。


 次は邪魔にならんよう、そっと扉を開けて外から覗いて確かめる。

 そこでは装飾品作りが行われていた。

 一角にデコラシオ専用の机があり、ベッタリ隣に後家さんが座っている。


「ひひっ。やっぱしだし」


 つうことは、もうアイツは後家さんじゃあねぇのか。たしかデコラシオを引き留めてたヤツだよな。


「なんかねー、ここカップル率高いっぽーい」

「ほう。引退した野郎と後家さんでくっついてんのか?」

「そーそーマジ再婚ブーム。そのうち赤ちゃんブームになったりしてー」


 大変結構なことじゃねぇか。だってのにベリルはムフムフいやらしい笑み浮かべてやがる。


「あんま揶揄ったりすんなよ」

「もっちろーん。眺めて楽しむもーん」

「それもどうなんだ?」

「いーじゃーんべつにー。つーか父ちゃん、ご祝儀とかそーゆーのあげたらー。あーしは、もーあげといたし」


 こんなちんまいのに祝儀もらうの微妙に思わねぇのか? アイツらだって立場上断りづれぇだろうしよ。


「こーゆーのって気持ちの問題じゃーん」

「そういうもんかい。なら、ガキができたらいくらか包んでやろう」


 以降の部屋は似たような広さの作業場が並んでいて、主にサンダルを作っていて……って、おい。

 

「オメェさぁ、いちいち報告しろっつうの」


 知らん間に、品数が増えてんぞ。

 せっせと鱗革で衣服や長靴なんかを縫ってる。んなもん俺がいつ許可した。


「たぶんあれ、ママだし」

「ヒスイが許可したんか。ま〜、だったらいいや」

「むっかーっ。なーんであーしは勝手にしちゃダメなのさーっ」


 それを言わなきゃわからねぇから許しを出してないんだが。つうか普段から好き勝手してるくせに、よく言うぜ。


「んなことよりベリル、服は外に出せねぇぞ」

「それならヘーキー。うちらで売り買いするし」


 なら構わんか。


 さらに入り口の方へ進む。

 すると途中にはいくつも扉が並び、小部屋に分かれた場所があった。


「ここ、サストロさんの部屋ねー」

「それはわかったが、ずいぶん空きが多いんな」

「まだまだ作りたいもんあるし。ついでに作っといたの」


 だから、それを決めんのは俺なんだが……。もう言っても聞かんだろうな。

 さておき、ここまででほとんどの工場は見たはず。だったら左側の建物はなんに使ってるんだ?


「ああーあっちはねー、研修場所とか会議室とか、そーゆー感じ。あと司令室もあるし」

「……ほほう。俺専用の部屋もあんのか」


 思わずニンマリしちまう。

 ベリルのやつ、嬉しい企みしてくれんじゃねぇか。実はそういうの欲しかったんだ。

 と、喜ぶ俺だが、


「いやいや、司令室はあーしの部屋だし」

「は? どう考えても俺のだろ」

「父ちゃんは外。鬼は外ってゆーし」

「聞いたことねぇよ」

「つーか強いんだし。敵来たらやっつけいかないとじゃーん」


 ま、まぁ俺の強さを見込んでってんなら、しかたねぇか。うむ。普通に考えて、こんな奥まったところで指揮なんか取れねぇしな。


 でも見てみたい。

 司令室って響きに、オッサン心をくすぐられちまったぞ。


「おうベリル。ちょっと覗いてこうぜ」

「ダメー」

「いいじゃねぇか。ケチケチすんなって」

「ダメったらダメー」


 ……俺、いちおう領主なんだが。


「てか先にセキュリティについて説明しちゃわなきゃだし。司令室は、まったこんど〜っ」


 とベリルに手を引かれ、外へ連れ出された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る