ジャパニーズニンジャ
私がやりました!
お前は誰だ
ここは川口。
埼玉県南東部に位置し、東京都北区に接する市。
インフラに娯楽、全て揃っているが故になにも無い。
大都会にあぶれ、だがなおもその煌びやかさに憧れた者達が住まい繁栄してきた都市である。
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若い男二人がファミレスの中で会話する。
「なぁ最近流行ってる例のアレ知ってる?」
「もしかしてニンジャネットワーク?」
「そうそれ」
ニンジャネットワーク。通称"NN"と呼ばれるそれは突如として出来た謎のネット掲示板。目的や経緯は不明で、あまりの謎ゆえにテレビなどでも特集され、若い世代を中心に爆発的に伝播していった。表向きはただのネット掲示板。だが、本当にただのネット掲示板であるなば、ここまでのトピックにはならなかっであろう。
理由があるとすれば、それは一つの噂だった。
『掲示板に書いたお願いをニンジャが叶えてくれる』
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昔は栄えていたであろう商店街。ただでさえ人のいない通りを横に抜けて、換気口や配管が黒くなったビルとビルの間を通れば、誰も寄り付かない光合成も出来ないような路地裏へと辿り着く。そこで二人の男は密談をしていた。
「金さえ払えばなんでもやってくれんだろ!?」
依頼人の兼田小五(35)。低身長に薄毛、加えて腹もでているが、顔は良い。医者と医者の間に生まれ、自身も医者になるべくエリート街道を歩む。医者になった現在も、その年齢の平均では頭一つ抜けている腕を持っていた。当然、この場にいていいような人間ではなかった。
そんな兼田が焦燥と期待の入り交じった声を発した先には、大男がいた。
黒のツナギを上下に目出し帽を被っている。身長は190cmはあるだろうか、肩幅も広くリーチも長い。ツナギをもってしても隠しきれていない筋肉。明らかに只者ではなかった。そして、その中でも一際異様なのが、背中に背負った刀。模造刀か本物かは分からなかった。
「依頼は?」
大男は低い声で言う。
「川口の仲町に森前会っていうヤクザの事務所があんだ!そこの前を通っただけなのに酔っ払った組員に殴られたんだよ!理不尽だろ!?どうせ警察沙汰にしたって俺の望む結果にはならねぇ!こっちが妥協しなきゃいけねぇんだ!そんなの許せるわけねぇ!!そもそもなんで俺なんだ!!」
兼田はその時の痛みを思いだし、怒りのあまり早口で捲し立てる。大した語彙力もなく、地団駄を踏むその姿を何も知らない人間が見れば、人の生死に関わる職に就いているとは思わないだろう。
「依頼は?」
大男は低い声でもう一度言う
「復讐だ!同じ、いやそれ以上の痛みを喰らわしてやってくれ!」
大男は依頼内容を正確に把握すると「わかった」とだけ告げてその場を去った。なお、詳細な金額、依頼の結果についてはNNにてメッセージを送るとの事だった。
そう、表向きはただのネット掲示板。だがその実は、金さえ積めばどんな依頼もこなすなんでも屋集団と繋がるためのツールに過ぎなかった。
そもそもなぜ兼田は、こんなにも胡散臭いツールを信じ、金を積んでまで復讐するのか。人は時に合理性や倫理観を捨てる。誰しも心に鬼を棲まわし、金棒を見つけた瞬間、人の形を保つのを諦めてしまうのかもしれない。二匹の鬼が去った後で、形を保った小さな生物達は密かに宴を開くのだろう。
*
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深夜2時、飲み屋などが少なく昼や夕方に比べれば、活気を失った仲町。携帯を忘れたがためにわざわざ事務所に戻ってきていた、森前会組員の金子は、正面入り口の前に、如何にも怪しい人物がいるのに気がついた。
(今時ツナギに目出し帽かよ、どっかの組の偵察か?心当たりはねぇが)
金子は思案する。近くに仲間はいないため、サシになる。体格的にもこっちが不利。そして一番の懸念点といえば…
(あの刀は本物か?だとしたらヤバイな。それでもここは俺らの島だ。好き勝手はさせねぇ)
金子は覚悟を決めると、その場にあった手頃な石を二、三個拾い上げ右手に握る。そして油断を誘うために、あえて挑発的な態度で話しかけた。
「よぉでかいの、こんな夜遅くにウチの事務所になんの用だ?」
向こうからの反応はない。だが完全に臨戦態勢に入っているのが分かってしまう程には、殺気が溢れていた。
距離にして5m。足の速さに自信があった金子は、先制攻撃にでる。
何も言わずさっき拾った石を全力投球すると同時に逆方向にダッシュする。あの軌道なら確実に当たる。完璧なやり逃げだった。
だが、相手を侮り油断していたのは、金子の方だった。
ガタンッ!と重い物が落ちる音がして後ろを少し振り返れば、刀を捨て身軽になった状態で大男が追ってきていた。
(足速すぎだろ!追いつかれる!!)
もうすでに大男は真後ろにまで迫っていた。もうやるしかないと思った金子は奇襲に出た。
「くたばれやぁぁ!!」
足を止め、右に振り返る勢いで左足のハイキック。狙うはテンプル、豪快に振り抜いた。
しかし、結果は残酷だった。
(はっ?)
大男は俺の左足を右手で掴んでいた。ガードするのではなく、掴んでいたのだ。それは渾身のハイキックが見切られたという事を意味していた。その瞬間、明確に力の差を悟ってしまった。そして大男は容赦なく右手に力を込める。
「いてえぇぇぇえぇ!!!!」
金子は人生一番の叫び声をあげるが場所が悪かった、もしここが普通の住宅街ならば、その悲鳴に誰かが気づき通報してくれる可能性もあったが、最悪にも全力で走り逃げて来たのは駅近くだった。高い防音性を備える家が多いこの場所で、金子の叫び声はエアコンの送風音にかき消されてしまうのだった。
激痛走る左足を抑え蹲りながら、大男を見上げる金子。その瞳に恐怖の色を滲ませながら問いかける。
「お、お前何物なんだよ.......いったい何なんだよ!!」
三秒間をおいて大男はゆっくりと言った。
「アイムジャパニーズニンジャ」
右手が振り上がったのを最後に金子の意識は途絶えたのだった。
ジャパニーズニンジャ 私がやりました! @We_are_natural
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