10-2 雲
拠点内にある花壇の側の、ちょこんとしたベンチに一人で座っていた。
ここ最近はずっと忙しかったから、いざ暇になると何をしたらいいのかわからない。思いついたのは花と行き交う人をぼーっと眺めることくらい、というわけだ。
「ねえ、ニルはどう思ったの?」
ただ色とりどりの花があるだけの花壇に向けて、人目を気にせずそう言った。
(驚かなかったといえば嘘になる)
ニルは以前とそう変わらない口調で答える。
(だが、やはりお前はお前だと私は思った)
「そっか、そうだよね」
「お前は昔からずっとおかしな奴だ」と言っていたくらいだから、当然か。
(お前はやはり、何も思わないんだな)
ニルは口調を変えずに、でもどこか悲しそうに言った。
「うん、思わないよ」
今回のことで、私の精神の構造がみんなと違うことがなんとなく分かった。
ニルの言葉にある悲しさは理解できるし、その悲しさがどこから来るのかもよく考えればわかるのだけど、ニルが悲しそうにしているからと言って私は何も感じない。
きっと、普通ならつられて悲しくなったり辛くなったりするのだろう。
「わたし多分ね、それを自分で何となく分かってて、でも無意識に隠そうとしてたんだ。だから病院でイロハにうっかり変なこと言っちゃった時、慌てて嘘をついたんだと思う」
(そうか)
そして私がわからなかったんだから、ニルはもっと知らなかったはず。
(よかったじゃないか。自分の不明な部分を不安に思わなくて済む)
「うん、嬉しい」
あの時ハルは、「大好き」と言ってくれた。でも彼女はきっと、私の異常性を知らなかった。
もしも私が別の人を殺していたら、その後ハルは私になんて言うのだろう。
考えても仕方ないか。
空は晴れていた。気持ちがいいけど、快晴と呼ぶには少し雲がかかっていた。
「ニル、何か思い出した?」
不意に思い出して聞いてみる。前回の質問からそれなりに時間が経っているし、ここは少しでも進捗が欲しいものだけど、
(……いや、何も)だめだった。
「うーんしょうがないね」
割と色々あったと思うけど、それでもだめか。
彼女は一体どんなヘンテコな探し物をしているのだろう。
「見つけた」
不意に、背後からはっきりと声が聞こえた。
行き交う人が多いし私のことじゃないと思ったけど、その人はわざわざベンチを迂回して私の前に立った。流石に私のことだ。
「ユリア・シュバリアスだね?」
女の子というか、女の人だった。すらっとした体型で高身長。可愛いよりも美しいとかイケメンという言葉が似合いそうな顔立ち。胸のサイズはまあまだ許せる。
肩章は常衛部隊のものだった。ここにいるのは珍しい。というか一等兵だ。慌てて敬礼した。
「はい、そうです。失礼ですがあなたは……?」
「すまない。私はペトラ・クローディエ。先日魔物に破壊された壁を守っていた境護班の者だ」
先日の、ってことは、私たちが受けた緊急任務のことか。
お礼とか言ってくれるのだろうか。
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