都会に疲れた僕は、田舎でスローライフを望みます

コーキ

プロローグ

 この夏、僕は七年勤めた会社を辞めた。


 辞表には『一身上の都合』だが、理由は簡単…… 疲れたのだ。


 大学には行く気のなかった僕は、高校卒業後にIT関係の開業三年目の会社に就職した。 仕事内容は、最初はプログラミングの作業。 多少プログラミングをかじっていたし、給料を貰える初の仕事ということもあって、僕はやりがいを感じて頑張っていた。 残業で遅くなることもしばしば…… それでも超過分はしっかり出たし、会社も軌道に乗ってどんどん受注も増える。 このまま行けば将来も大丈夫―― そう思っていた。


 三年目から、プログラミングの仕事に加えて営業回りが追加された。 サボり気味だった営業の先輩が、大きな案件で失敗した挙げ句に唐突に会社を辞めてしまったのだ。 順調に事業を拡大していった会社は規模縮小を余儀なくされ、それでもなんとか立て直そうと皆で必死に頑張った。


 気が付けば、仕事仲間は半分になっていた。 それもその筈…… 一人の仕事量は半端なく、家に帰れない日が月の半分以上。 家に帰ってもベッドに直行するだけ。 残業代もままならなくなり、いつしか『超』が付くブラック企業になってしまっていた。


 一緒に頑張る会社の仲間を思うと辞める事も出来ず、ここを乗り切れば落ち着く筈…… そう信じて頑張っていた七年目の春の終わりに、僕は泊まり込みで働いていた時に倒れて病院に運ばれた。


 過労だった。 頑張り過ぎた結果だった。 労働基準監督署の調査員に聴取をされ、会社にも仲間にも迷惑をかける…… そう思っていた矢先の事。 会社から受けた連絡は、『出勤停止処分』というものだった。


 会社は労基法に則って運営されており、監督署の調査では違反が見当たらないとのこと。 残業は僕が隠れて勝手にしたことであり、会社の備品を勝手に使ったと逆に処分された。


 つまり、僕はとかげの尻尾になっていたのだ。 


 処分明けに出社すると、仲間の誰もが僕とは目を合わそうとはしなかった。


 そこで肩の力が抜けた。


 もう頑張ろうという気力はなく、その三日後に僕は退職届を提出した。




 人間不信になり、家から出られない事もあったが、幸い貯金だけはまとまった額があって困ることはなかった。 今のご時世、家から出なくてもインターネットがあればほとんどの物は揃ってしまうものだ。


 そんな生活を一ヶ月近く続けていたが、これではいけないと勇気を振り絞ってハローワークに出向く。 そこで見つけたのは、住み込みで手伝ってくれる農家の募集だった。

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