第22話:ホムホムってすごいっしょ?

「ね、センセっ。ホムホムってすごいっしょ?」

「すごいね!」

「暴漢に襲われてもあんなに冷静にやっつけるし、あたしびっくりしちゃった」

「へぇ。なんで穂村君ってそんなに強いの? なにか格闘技でもやってたとか?」


 ヤバ。先生が俺に興味を持ってる。

 早くこの場から逃げなきゃ。


「あ、いえ。じゃあ報告も済んだし、俺はこれくらいで」


 俺が後ろを向いて立ち去ろうとしたら、急に手首をぎゅっと握られた。


「んもうっ。まだセンセと話し中なんだから、もうちょっと待ってよ!」

「おっと」


 急に引っ張られて、思わず体制を崩した。

 危うく笑川に抱きつきそうになったぞ。


「ホムホムって空手やってたらしーよ」

「へえ、そうなんだ」


 笑川が代わりに答えちゃったよ。

 先生も妙に納得してるし。

 本人である俺が話す間もなく、どんどん会話が進んで行くのが怖い。女子の世界って、こんな感じなのか!?


「そう言えばセンセ。この前言ってた素敵な男性……ホト君だっけ? 彼とはその後どうなん?」

「笑川さんそれ訊く? それ訊く?」

「なになに、センセ嬉しそうだよっ? ホントはめっちゃ訊いて欲しいんじゃん?」

「うん、さすが笑川さん。訊いてくれる?」

「もち聞く聞くっ! 教えてっ!!」


 ちょっと待てよ。

 笑川のヤツ、めっちゃ目がキラキラ輝いてる。

 なんで女子って、こう恋バナみたいなのが大好きなんだよ。


 その話をするのはやめてくれ!

 めっちゃヤバい気しかしない。


 なんか冷たい嫌な汗が背筋を流れるのを感じる。

 俺は女子二人の横で固まってしまっていた。


「この前私が変な男に絡まれてたらさ、ホト君が助けてくれたんだ。毅然としていてカッコ良かったよぉ」

「へぇー! ふわりちゃんが好きな彼ってカッコいいんだね」

「そうだよ! カッコいいんだから!」

「へえ、いいなぁ~!」


 目の前で自分が絶賛されている。しかも絶賛している人たちはそれが俺だって気づいていない。

 これはもう嬉しいと言うより、拷問を受けてるのかってくらい恥ずかしい。バレたらどうしようという恐怖心も半端ない。


 そんなことで、俺はきっといたたまれない表情をしていたんだろう。

 俺を見て勘違いした笑川が、フォローしてきた。


「あ、ホムホムごめんね。ホムホムもめっちゃカッコ良かったからね!」

「あ、いや。俺別にそのホト君って人に嫉妬してるわけじゃないから」


 でもこんなふうに気を遣ってフォローしてくれるなんて、なんだかんだ言って笑川ってやっぱいいヤツだ。本物の陽キャってやつか。


「でも偶然だねぇ。あたしもセンセも、おんなじように変な男から守ってもらうなんてことが続くなんてねぇー」

「うん、ホント偶然! ……ん?」


 ──ドッキィィィ!


 二人揃って俺の方に顔を向けてる。

 キラキラ輝く4つの瞳が俺を見ている。

 そしておもむろにふわり先生が呟いた。


「そう言えば、穂村君と彼って、なんとなく似てる……のかな?」

「いや、似てないでしょ」

「なんで穂村君が即答するのよ。ホト君に会ったこともないくせに」

「あ、いや……」


 しまった。否定したい気持ちが強すぎて、つい口走ってしまった。


「なんとなくですよ」

「ん、そっか。でも穂村君っていつも前髪長いし、メガネしてるし、イマイチ顔がよくわからないのよね。だから似てるのかどうかもわからないわ」

「そうだホムホム! メガネ外して前髪上げちゃえ!」

「うわ、やめれ!」


 いきなり横から笑川の手が伸びて来てビビった。

 手で払いのけて最悪の事態は避けたけど、なにすんだよ笑川!


「いいじゃん~。ちゃんと顔見せてよぉ」

「やだよ」

「なんで?」

「見せるほどの顔じゃないからだ」

「いや。あたしはホムホムって案外イケメンだって睨んでてさ」

「そんなことないって」

「じゃあ見せてくれたらはっきりするじゃん。見せてよ」

「やだってろ」

「いいじゃん、減るもんじゃなし」

「笑川お前、セクハラおやじかよ?」

「んもうっ、ケチっ!」

「ほらほら笑川さん。そこまでにしようね」

「はぁーい……」


 ふわり先生がそう言ってくれたおかげで、笑川も渋々ながら諦めてくれたようでホッとした。


 それから俺と笑川はふわり先生と別れて教室に戻った。


***


 その日の放課後。笑川から「一緒に帰る?」って聞かれたけど、俺は「帰らない」と即答した。

 ちょっと申し訳ない気もするけど、ストーカーからの防衛というミッションはもう果たしたのだから許してくれ。


 彼女は残念そうな顔をしたけど、無理強いは良くないと考えたのだろう。

 案外素直に「わかった。じゃ、また明日!」と言って、別々に帰っていった。

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