第二章
第1話
「え?変わらず冒険者になってこい、ですか?」
「あぁ、そうだ……彼女たち二人が冒険者になることで世間のことも知れるし、世界の過酷さをも知れる」
「ですが、つい最近。ここに侵入者が訪れたばかりであります」
マキナ様を狙った侵入者を僕が撃退してより一週間。
僕はウェルリンク公爵閣下
「理由はまず二つ。一つは君を信頼しているということ。二つは二度目の襲撃はないであろうということだ」
「……お待ち下さい、ウェルリンク公爵閣下」
今回の件はマキナ様の闇落ちにも深く関わってくる話なのである。
「何かな?」
「ウェルリンク公爵閣下は問題ないのですか?自分は己を拾ってくれたマキナ様を守ると共に自分を受け入れてくださったウェルリンク公爵閣下を守ることも神に誓っております」
「既にいる私の護衛が信用ならないかね?」
「自分が彼らを全滅させるのに一分とかかりません」
「ふっ……傲慢。されど事実か」
「申し訳ありませんが、その通りにございます」
少しばかりの笑みを浮かべたウェルリンク公爵閣下の言葉に僕は頷く。
「だが、頼む。マキナを連れて冒険者ギルトへと向かってくれ」
「……ッ」
頑なな態度を崩さないウェルリンク公爵閣下を見てようやく僕は悟る。……そうか、あの生け捕りにした侵入者は情報を吐いたか。
危険なのはマキナ様ではなくウェルリンク公爵家並びにその当主であられるウェルリンク公爵閣下であるということに。
説得は無謀、かな。
「それでは、レイロアラ侯爵家にはご留意ください……既に両者の関係をつなぐものは薄くなっているという事実を受け入れてくださいませ」
このままウェルリンク公爵家に滞在し続けることが不可能であると半ば悟った僕はウェルリンク公爵閣下へと提言を述べる。
レイロアラ侯爵家。
それは亡きマキナ様の母であり、ウェルリンク公爵閣下の正妻であられた公爵夫人の生家に気をつけるよう僕は告げる。
「……ッ!……っ、そう、であるな。覚えておこう」
僕の言葉にウェルリンク公爵閣下は苦虫を噛み潰したような表情で頷く。
「自分のような人間が提言を受け入れてくださり感謝いたします……ウェルリンク公爵閣下」
ここからこのウェルリンク公爵家で大規模な政治的動乱が起こる。
ドロドロの政治闘争にマキナ様を巻き込みたくはないのだが、それでもここでウェルリンク公爵閣下を失うわけにもいかない。
次期当主とされているマキナ様の兄上は現在、海外へ留学中。
親戚筋は当然いるので当主の座に誰を就かせるかで困ることはないが、誰が適任で、新体制後のマキナ様の扱いはどうなるのかなどと言った話はマキナ様にとって有害だ。
最大限僕も出来ることは残しておくが……それでも最後はウェルリンク公爵閣下次第だろう。
「心よりご無事を祈っております」
「あぁ、もちろんだ……君には俺の娘を、頼んだ」
「もちろんにございます」
僕は絞り出すような切実たるウェルリンク公爵閣下の言葉に頷くのだった。
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