ゲームの悪役令嬢、もといその実はただのコミュ障陰キャ奇行種だった美少女の幼馴染(ラスボス)に転生した僕は彼女が闇落ちしないよう見守ろうと思います!

リヒト

第一章

第1話

 光り輝く金色の瞳に烏の濡れ羽色のように輝く黒い髪。

 どこかゾッとするほどの妖しさを持つ美しさに彩られた幼い相貌を持ったまだ齢十にも満たない一人の美少年。

 一目でわかるほどの衣装や装飾品に飾れるそんな少年の美しさは神にまで届くと言って良いだろう。


「……いつ見ても慣れないな」

 

 自分の前に置かれている一つの鏡に映る『今』の自分を見ながら僕は苦笑と共に言葉を漏らす。


「……さて、これが僕が迎える最初の転機か」

 

 たった一つの蝋燭だけが光る石造りの小部屋。

 一つの鏡、一つの台座、一つの巨大な水晶。

 ただそれだけが置かれている小さな小部屋の中に立つ僕は視線を自身を映す鏡から台座の上に置かれている巨大な水晶の方に向ける。


「確かに、抗えぬ魅力を感じるな」

 

 ロキ・クロニクル。

 とある一つのゲームに登場するラスボスへと転生した僕は自身の前にある巨大な水晶へと静かにそっと振れる。

 僕の触れる巨大な水晶。

 そこには一人の美しい美女が囚われているのだった。

 

 ■■■■■

 

 Re:dimyth……通称、Rdm。

 日本国内どころか世界的に爆発的な人気を誇ったとある一つのロールプレイングゲームがある。

 

 かつて、世界を恐怖のどん底に陥らされたとされる悪魔たちが復活した現在において、魅力的な女の子や頼れる仲間たちと共に再び世界を恐怖のどん底に叩きこもうとする悪魔と戦い、その悪魔たちを統べる魔王と呼ばれた男を倒す物語。

 

 魅力的な女の子たちとの間に織り成すサブストーリーに重厚で奥の深いメインストーリー。

 自由度の高い戦闘、綺麗なグラフィックなどによって高い人気を誇ったRdmの売れ具合は凄まじいものがあり、かくいう僕もまた、このRdmにハマった者の一人であった。

 単位がギリギリになるくらいにまで熱中した。

 

 登場するキャラすべてに魅力がある素晴らしいゲームなのだが、その中でも僕が最も好きだったキャラが一人。

 

 それがロキ・クロニクル。

 

 圧倒的な美貌とカリスマ性、悲しき過去に悪魔族の末裔でありその先祖返り。

 物語の全ての始まりであり、後世において魔王と語られることになる魅力しか詰まっていないキャラこそがロキ・クロニクルであり、どうやら。

 僕はそんなロキ・クロニクルへと転生したようだったのだ……まさか、宝くじで十万当たったことに大はしゃぎし、ミスって現在進行形で下っていた階段から落ちて死んだ阿保が大人気ゲームのカリスマ性あふれるラスボスに転生するとは思わなかった。


 もうちょっと他に人選はいなかったのだろうか?

 ロキ・クロニクルのファンだった僕としてはその中身があんぽんたんな自分であるということに何とも言えないがっかり感がある……第二の人生が与えられたことはありがたいんだけどね?

 

「ふぅー」


 とはいえ、だ。

 僕がそのことに気づいたのは生まれたその瞬間であるし、既にロキ・クロニクルとして生きてきて八年。

 自分の境遇に納得する時間も、慣れる時間もかなりあった。

 既に己がロキ・クロニクルであることには受け入れているし、それに対して今更どうこう言うつもりはない。

 

「……やりますか」

 

 そして、僕は自分の闇落ちフラグを折るため、既に行動を起こしていた。


「『悪魔族が栄冠を支えし、王が一族たる余が命ず』」

 

 自分の前にある巨大な水晶へと振れる僕は口を開く。


「『目覚めよ』」

 

 僕の一言。

 それによって巨大な水晶へと罅が入り、そのままゆっくりと静かに音を立てて崩壊していく。

 それによって巨大な水晶の中に閉じ込められた一人の女性が外気へと振れる。


 ショートカットのきれいな白髪に透明感のある白い素肌、

 すべての男を魅力する妖艶で魅惑的な抜群のスタイルを持った美しき躰を何も隠さずにさらけ出している。

 そんな美しき女性の中で、やはり目が行ってしまうのは豊かな乳房よりも背中より生える立派な翼と頭より生える二本の立派な角、そして長く伸びる尻尾であろう。

 明らかに人とはかけ離れた姿を持った女性が今、水晶から解き放たれた。


「……あぁ、長らくお待ちしておりました。我が王」


 ゆっくりと開かれたまぶた。

 まぶたの下に閉じられていた血のように赤い瞳が僕を捉え、その瞳が激情に濡れる。


「私の永遠の忠誠を貴方に」


 思わず吸い寄せられそうな妖艶な赤い唇から美しい声を発するその女性は裸のまま僕の前へと跪き、頭を垂れる。


「あぁ」


 僕はそんな女性の言葉に頷き、彼女へとゆっくり自分の手を伸ばし、彼女の滑らかな髪へと手を置く。


「だが、もうちょいお前は眠っていろ」


「あびゃぁぁぁぁあああああああああああああああああ!」

 

 僕は容赦なく女性へと電撃を流すのだった。

 

 

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