せめて愛しき身体を抱いて眠れ
ブロッコリー食べました
第1話 理想の男
「夢かな、これって」
「いたんだ。やっと、見つけた!」
感動のあまり心の声が口を突いて出た。
その男は夢のように美しく、清楚で可憐。そして、きっと……。
「あのっ! すみません」
蛍は男の背中に向かって躊躇なく声をかけた。
「はい」
機敏な動作で男は振り返り、柔らかな笑みを浮かべて応えた。
「何でしょう?」
「おおっ!」
胸の奥から湧き上がる歓声を蛍は抑えられなかった。
正面から改めて目にする男の美貌に心拍が尋常ならざる速さで暴れ始めた。じっと見つめられたが最後、並みの女なら卒倒しかねないだろう。男でさえも色を覚えるレベルだ。
しかし、今は暢気に卒倒している場合ではなかった。
蛍は姿勢を正し、はきはきと大学名と氏名を告げ、単刀直入に本題に斬り込んだ。
「誠にぶしつけな質問なのですが」
言葉を選んでいる余裕はない。ついに、探し求めていた〝理想の男〟と遭遇したのだ。二十余年の長きに亘る魂の彷徨に終止符を打つ時が来た。それが、今だ。
この千載一遇の好機を逃してはならない。何としてもチャンスの前髪を掴め!
自らを鼓舞し、勇気を振り絞って蛍は続けた。
「私はあなた様に就職したいのですが、もう既に決まった人はいますか?」
三月初旬。
此処は、翌年の新卒者を対象とした合同会社説明会の会場である。
新学期には四年生になる蛍もグレーのスーツに身を包み、履歴書類を携えて参加していた。
蛍の質問を受けて男は一瞬戸惑ったような表情を見せながらも、すぐに営業スマイルに戻って淀みなく返答した。
「当社をご希望でしたら、こちらの整理券をお受け取り下さい。もちろん内定者はまだ出ていませんよ」
「いいえ! 御社にではなく、あなた自身に。つまり、あなた様に永久就職させていただきたく存じます」
「……はい?」
初めて、男の顔から完全に笑みが消えた。
加えて、性向においては更なる難問を呈す。
しかしながら、このメビウスの輪の如く捻れた異形の本質を理解し、蛍を男と看做して恋人になってくれる粋狂な〝受け〟など果たしてこの世に存在するのかと自問したところで、その可能性はゼロに等しく、望まざる諦念を強いる『絶望』の二文字が何度も脳裡に浮かんでは消えた。
そんな煩悶を抱えながら長ずるに及んだある日、蛍は不思議な夢を見た。
目覚めた後も夢の中で聞いたことは一言一句
兎は蛍に言った。
『あなたの遠い過去世は月の女神の
それから永き時を経て、あなたは人に生まれ変わる。
闘技場、そこがあなたのステージ。拳闘、それがあなたの生業。あなたはグラディエーター。いつ果てるとも知れぬ過酷な闘いの日々を送る。但し、死を以ってのみ、それを終わらせることができる。最期は猛獣と闘った。
それから幾度も生まれ変わり死に変わりを繰り返し、時に男として生き、時に女として生きた。
そして今世、ようやくあなたはめぐり逢う。真に探し求めている人と。それは、そう遠くない未来——』
蛍はこれを夢のお告げとして心に
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