繋がってきたものの果てに立つ
今日のところは解散となった。
城の第
ただ、母さんはエミシさんとユズリハさんとの三人で、街へ出掛けていった。昔馴染みってことで、積もる話があるんだろう。……あんまり呑みすぎないようにね?
かくして、僕とカレンとショコラは宿へと帰還する。
まだ時刻は昼過ぎだったけどさすがに気力を使い果たしてしまったので、部屋でゆっくりすることにした。明日からはいろいろと忙しくなりそうだし、気持ちも落ち着けたいし。
「ショコラ、
「がふっがふっ」
「なかなかいい感じかあ。でもやっぱり『
「わふっ、ふすう……」
ルームサービスのミルクにご満悦のショコラ。張り詰めた空気にだいぶ我慢させちゃったから、これくらいはね。
「はい、スイ。私たちも」
「ありがとう」
差し出されたハーブティーを飲みながら、深く息を吐く。
「カレンのことは、なあなあになっちゃったね」
「ん……でも、こちらの意思表示はした。なにより、それどころじゃない」
「改めて思い返すと、結婚だのの話を先にしたのは、あの時しかタイミングがなかったからなんだろうなあ」
もしも逆だったとしたら——こちらが
まあ、いったん忘れよう。リラさんを例に出して脅してきたクニザエ=オオナギアは『
むしろ気になったのが、長老会の中で一度も僕らと言葉を交わさなかった人——メイシャル=ファズアジクさんだ。最後まで、あの人がなにを考えているのかまったくわからなかった。……少なくとも、血統主義の一派には属していないようだったけども。ただ無口だっただけです、というのも違う気がするしなあ。近いうちにエミシさんなりユズリハさんなりに尋ねてみよう。
そんなことを考えながら、ソファーに身を委ねていた。
すると僕らの目の前に、霞のように。
人影がふたつ、ふわりと浮きあがり像を結ぶ。
「やあ」
「
妖精王のみならず、妖精女王も。
僕らは反射的に立ち上がる——カレンはそれだけでは済まなかった。
「
「ええ、ありがとう……ありがとうね」
駆け寄り、そのまま彼女をぎゅっと抱き締める。
「大丈夫よ、もう落ち着いているわ。……わたしが取り乱している場合ではないものね」
「ごめんなさい。僕が記憶を思い出させてたせいで、逆につらい思いをさせてしまったかもしれなくて」
「なにを言うんだい。ぼくらは感謝してるんだ。きみに出会わなければ、
僕が謝罪すると、
促し、ソファーに座ってもらう。ハーブティーを新たに二杯、カレンが持ってきてくれた。それを飲んでひと息ついた後、
「
城の中枢で時を止めたまま在る、始祖のエルフ——綿貫アリスさんについて。
「中学生の頃に出会って、仲良くなったの、確か。でも、学校生活の思い出はほとんどないわ。わたしの記憶が欠けているからではなくて、中学生になってすぐ、こっちに転移してしまったから」
僕は十八歳だった。高校も卒業してたし、十九になる直前だったし、大人みたいなものだ。でも、中学生かそこらで、おまけに今よりももっと文明が進んでいない未開の世界なんて——ハードモードにもほどがある。
「あれからもう、二千年も経ってる。おまけにわたしたちは
「わたしたちが
「
そんな彼女の肩を、夫である
「くぅーん……?」
「ショコラちゃん、心配してくれたの? ごめんね、ありがとう」
鼻先を近付けてきたショコラの頭を撫でながら、
「ずっとずっと……存在すらも抜け落ちてしまっていたわ。スイさんのおかげで思い出せてからも、もう二度と会えないものだと懐かしんでいたわ。でも、お兄ちゃんや他のみんなは残念だったけど……アリスの顔を見ることができた。そしてあの子はまだ、生きてる。わたしたちはまた会えるかもしれない」
向き直って、姿勢をただして。
膝の上でぎゅっと拳を握り、
「だから、お願い。力を貸して。魔王は恐ろしくて、きっと途方もなく強くて、あなたたちの身も危険かもしれない。でも、それでもわたしは、アリスのことを諦めきれない。わたしたちにできることならなんでもする。だから……」
「ええ、もちろんです。わかってます」
僕は頷いた。
隣に座ったカレンと一緒に、
「僕らは、あなた方が他人だと思えない。同じ日本人で、異世界に転移してきて……おまけに
「ん。私には、
「血だけじゃない。僕らが出会えたのは、縁だ。すべてが繋がってて、だから僕らはそれを守りたいと思う」
ミントが生まれていなかったら、妖精たちが写真に撮られることもなかった。
ショコラの祖先となった子がいた。アルラウネという種も
そして、なにより。
父さんが異世界に来て、母さんと出会って、僕が生まれて。
ただでさえ高かった魔力は、日本に行って、戻ってきたことで——分不相応にずば抜けた規格外のものとなって、この身に宿っている。
もし、僕の
それはきっと、この時のためだったんだろう。
決意とともに、カレンの手を握る。
愛しい人。いつでも隣にいてほしい人。もう二度と離れ離れになりたくない。二千年前の魔王なんかに、この幸せをめちゃくちゃにされてたまるか。
カレンだけじゃなく、母さんも、ショコラも、ミントも、ポチも、おばあさまも、シデラのみんなも——この世界で出会い築いてきたすべてのものを、壊されてたまるものか。
※※※
だから僕らは、世界を救う。
——————————————————
第九章『天空の城、エルフの仔』でした。
次回からは第十章です。
『仔の叫び、世界の涙』と題してお送りします。
綿貫さんを救うため、未来を掴むため、スイたちは頑張ります。
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また書籍版も発売中です。そちらも手に取っていただけたらと思います。素敵なイラストに加えて書き下ろしパートもあるので、webで読んでいる方も是非。
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