第19話 強くならなきゃ


エフティアと特待生部屋の居間のソファーに並んで座っていた。


「アル君――」

「うん」

「――わたし、

「うん」

「ひっ、ひどい!」

「それで、レディナとは……どうだった」

「それが――」


エフティアは力を振り絞るように話し始める。

彼女のまくしたてる声に圧倒されつつも、要点は理解した。


「喧嘩したけど、仲直りはできたってことだね」

「うん……」


エフティアは「ばかみたい……」と言葉を漏らし、自分の膝に置いた拳を見つめている。


「強くならなきゃ――」


拳が強く握られる。


「――ばかなのも、中途半端なのも、いやだ」


エフティアは立ち上がった。


「アル君、付き合って!」

「わかった、今日は授業もない。エフティアが望むなら、一日中やれる」


「一日中!!?」

「うん。倒れるまで、やろう」


「やったああああぁぁぁっ!!」


エフティアは、レディナが忘れないように着せてくれたであろう制服をスカートから豪快に脱ぎだすと、下着姿になった。


「エフティアっ! エフティアっ! 隣にひとがいる!」

「はっ……ごめんなさいっ!」


「いいから早く服を!」

「はい……レディナに注意されてからちゃんと気を付けてたのに……家だと忘れちゃうぅ……」


恥じらいがあるのに、衝動に身を任せて周りが見えなくなるところが彼女にはある。レディナはきっと、彼女の日常を支えてくれていたのだろう。




薄暗い森の奥深く――熊のような大男が地面に重ねられた3人の男の上に座っていた。


「――退屈だ、俺はこの退屈をどうにかして解消しなくちゃならねぇ」


そう言って、側に立っている女に話しかける。


「知らないわよそんなこと」


言いながら女は、退屈そうに適当な岩に腰かける。


「あたしはこんな森からはさっさとおさらばしたいけどね」

「いいや、まだだね。俺の直感は当たるんだ――もうすぐすげぇやつが来る。それまでは待つさ」

「凄いやつって?」

「殺し合いができるやつさ」

「その勘って当てになるのかしら」

「あぁ、もちろん」


大男は自信たっぷりという様子だったが、女の方はため息をついた。


「……まあ、どちらにせよ回収屋が来るまで待つしかないけど」

「そういえばおせぇな。ま、俺は別にいいけどよ」


男は夜空に浮かぶ月を見上げ、大口を開けて笑う――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る