第4話
☆☆☆
翌日の朝、結はドォンという大きな物音で目を覚ました。
窓の外はまだ暗くて時刻がわからない。
枕元に置いて寝たスマホを手にとってみると、午前5時ということがわかった。
さっきの音はなんだろう?
寝ぼけた頭で上半身を起こすと、明日香と由香里も目を覚まして置き出した。
「さっきのは?」
明日香が眠そうに目をこする。
「わからない。行ってみようか」
3人はパジャマ姿のまま部屋を出たのだった。
☆☆☆
3人が部屋を出ると同じように音で起きた美幸と静かが、隣の部屋から出てきたところだった。
男子の部屋は2階の奥にあるので、まだ姿は見えない。
「今の音聞いた?」
美幸が3人の誰にともなく質問してきたので結と明日香が頷いた。
「どこから聞こえたんだろう?」
廊下から窓の外を確認してみると、外は暗くグランドには街灯もなくてなにも見えない。
ただ豪雨であることがわかる激しい音がしているだけだ。
女子5人で1階へ降りてくると、そこで男子と合流できた。
男子も全員いるみたいだ。
「今先生と運転手さんが様子を見に行ってくれた」
大河が手短に状況を説明してくれた。
どうやらさっきの轟音は建物の外から聞こえてきたものだったみたいだ。
広い玄関先で待っていると、2つの懐中電灯の朱里がこちらへ戻ってくるのが見えた。
2人とも透明な合羽を着ていて、傘は差していない。
雷が鳴っているためだろう。
「門の前に木が倒れていた」
先生からの報告に生徒たちは顔を見合わせた。
「外に出れないんですか?」
聞いたのは結だ。
「すぐには無理そうだな。随分と太い木が道を塞いでる。この分じゃ途中の山道がどうなってるかわからないな」
スマホの電波も届かない山奥で閉じ込められてしまったということだ。
全員の顔に不安の色が浮かんでくる。
「すぐ、管理会社に知らせましょう」
運転手の言葉に先生は頷き、事務所へと足早に向かう。
その後ろ姿を見送りながら、結は先生に送られてきて死体写真のことを思い出していた。
期限は24時間。
食後に送られてきていたから今日の19時にはタイムリミットになるはずだ。
不安が顔に出ていたのだろう、大河が声をかけてきてくれた。
「きっと大丈夫。管理会社に連絡が取れればすぐにでも木は撤去されるよ」
「……うん、そうだよね」
結の不安は別のところにあったのだけれど、頷いて見せる。
しかし、それすらも裏切られることになってしまった。
「電話が通じないんだ」
しばらくして事務所から出てきた先生がさすがに青ざめた表情で告げた。
隣に立つ運転手さんもうつむき、どうすればいいか悩んでいる様子だ。
「電話が通じないって、なんでだよ」
いつものように怒った声色で言ったのは哲也だ。
大きな音に起こされたことで、ずっと不機嫌そうにしている。
「おそらく電話線が切れたんだ。さっきの倒木のせいかもしれないし、別の場所で同じように倒木があったことが原因かもしれない」
理由はわからないけれど、とにかく管理会社にも連絡が取れないし電波もないということがわかった。
全員が黙り込み、豪雨の音だけが激しく続いている。
どこか遠くで落雷の音が響いていて、それが徐々に近づいてくるかもしれなと、結は内心感じていた。
☆☆☆
「こんなところで孤立とか、シャレにならないんだけど」
3人部屋へ戻ってきたところで明日香が不機嫌そうな声を漏らした。
思っていることはみんな同じみたいだ。
「この天気がいつまで続くかだよね。食べ物はしっかりあるだろうけど……」
結の不安は電気や水道までが止まってしまうことだった。
いくら食料があっても、それらを調理することができなければ状況は更に悪化していく。
「もう、ほんとに嫌になる」
明日香はそう言いながら由香里へ視線を向けた。
由香里はさっきから自分の布団を丁寧に畳んでいて、会話には参加してこない。
クラス内でも孤立している由香里が、いきなり林間学校でクラスメートと同じ部屋になるのは相当しんどいはずだ。
結も明日香もそのことには触れてこないでいたけれど、由香里を見ていれば嫌でもわかることだった。
「勉強が始まるまで豊のところに行こうかな」
3人でいることが気まずいのだろう、明日香は伸びをしながらそう呟いた。
結は小さく頷く。
しかし、由香里は反応を見せなかった。
自分へ向けられた言葉だとは思っていないからだろう。
そのくらい由香里はクラスで孤立している。
明日香はなにも言わない由香里を睨みつけてから、結へ笑顔を向けた。
「じゃ、行ってくる」
明日香のその言葉は今度は完全に結だけに向けられたものだった。
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