019
〈ウェーイ⤴⤴⤴wwwサフラちゃん見ってるぅ〜wwww?〉
〈今ァお前の犯罪行為がネット上で拡散されまくってまぁ〜すwwww〉
〈二度と娑婆に出られないようにしてやるから覚悟しとけよぉwwww?〉
「な……ぁっ……!」
〈いやぁ〜ごめんねぇ?最初から全部聞いてたんだわ〉
〈『有毒女傑』の本性がこれかぁ……〉
〈おっぱいでっかいからサフラの方を信じてたんだけどなぁ〜おっぱいでっかいからなぁ〜〉
〈やっぱメイちゃん
〈人死で草を生やす人間のクズ。ダンハブ民の鑑〉
〈ムジナも俺たちが生やした草葉の影でギャン泣きしとるやろなぁ……〉
〈で?今どんな気持ち?????ねぇどんな気持ち?????〉
〈恋敵殺し損ねて想い人殺してまた恋敵殺し損ねて床に這いつくばるのってどんな感じなんすかwwwwねぇ教えてくださいよwwwwwねぇねぇねぇwwwwwwww〉
〈みんなイキイキしとる〉
〈まあね?完全簀巻き状態で詰んでる犯罪者見たらね?〉
〈そりゃ煽るよね。だっておれたち……〉
〈ダンハブ民だもんげ!〉
〈ていうかテンペスト号さんバチギレで笑う〉
〈そりゃ(自分と大事な人の命狙ってきたんだから)そうよ〉
〈あのパワーでの全身拘束とか抜け出す手段ないだろ〉
〈口と目以外どこも動かせなさそう〉
日本時間ではド深夜も良いところにもかかわらず、下手をすればマリママ攻略時にも迫る数の視聴者たちが、一斉にサフラを煽り散らかしている。尤も、雪崩となって自分の頭上に降り注ぐそれらを情報として理解することは、今のサフラにはほとんどできていなかったが。震えることすら不可能ほどガチガチに拘束されたまま、「あ」だの「う」だの少し呻いたのち、サフラは視線をもう一度メイへと向けた。
「……な、なんでっ私が来ること分かって……!」
「や、半分は偶然だよ?」
すぐにも何かしらのコンタクトはあるだろう、というか明日にでも『パイオニア』事務所に殴り込みに行こう……とか思っていた矢先に、サフラの方から仕掛けてきたというだけの話で。
「寝室に入られる直前に気付いたから、咄嗟にカメラを起動してみた。そしたらあんた、何故かコレをマリと勘違いしだすし、ちょうど良いから殺人未遂の自白でもしてもらおうと思ってたんだけど……」
ダイニングのソファで寝ていたマリとタイミングを合わせるための時間稼ぎが、まさかサフラのもう一つの罪までも白日の下に晒してしまおうとは。まあメイにとってはお陰様で、“ムジナ死亡の責はメイにもあるのでは”という風潮を払拭できたのだが。
「……なんで、カメラなんてベッドに……っ」
真っ当と言えば真っ当なサフラの問いに、メイの笑みがややも苦笑の形に変わる。そこがある意味で、一番の幸運だった。
「やぁー……
〈草〉
〈どんな時でも記録を残そうとする配信者の鑑〉
〈サフラが深淵層に落としてくれたお陰だな!〉
〈サフラちゃんとことんまで自分の行いが跳ね返ってきてて憐れだね♡〉
〈いやでも正直、メイちゃんのベッドが膨らんでたら“あ、マリおるな”ってなるよ……〉
〈わたしも実際見たらそう考えちゃうと思うわ〉
〈それはそう〉
「いや、いくら仲良くなったからっていきなり同衾はしないでしょ」
〈は?〉
〈どの口がオブ・ザ・イヤー金賞受賞〉
〈散々やっとったやろがい!!!!〉
〈深淵層生活一日目から同じ空間で寝とったやろがい!!!!〉
〈アレで同衾してないは無理あるよメイちゃん♡〉
「あのねぇ……極限状態で雑魚寝するのと安全な場所で一つのベッドに一緒に入るのとでは、話がぜんぜん違うってー」
もちろん、追々は一つの寝所を共にすることにもなろうが……今日からいきなりベッドインは、それこそ性急というもの。そういうわけでマリにはひとまずソファ(わりと気に入った様子ではあった)で寝てもらっており、結果的にはそのお陰でこうしてサフラを捕らえられたのだし、そもそもこれは自分とマリのあいだの話なのだから、外様にごちゃごちゃ言われる筋合いはない。そんな心持ちで、メイは殺到するコメントどもを切って捨てた。
「はーい、じゃあとりあえず対探局に通報するから、配信はここまでねぇ。みんな証人になってくれてありがとー」
〈えー公開処刑はー?〉
〈この配信を終わらせるなんてとんでもない!〉
〈え!?今から抵抗できないサフラを深淵層ボスを一撃で屠ったその拳で痛めつけるんじゃないんですか?!?!?!〉
〈痛めつける(絶命)〉
〈こいつ極悪人だしちょっとくらい殺しても怒られへんやろ〉
「怒られるわい。わたしまで加害者になっちゃうでしょうが」
もちろんメイにも、一発と言わずぶん殴りたい……あわよくば半殺しくらいにはしてしまいたい気持ちも大いにあるのだが。それをやると自分まで罪に問われてしまう。ダンジョン外での
だからメイは、手を上げることはなく。代わりに言葉で引導を渡す。動揺と混乱と絶望でぐちゃぐちゃに歪んだままのサフラの顔へと。
「あんたのお陰で深淵層を踏破できて、分かったことがあってさ」
一つは、多田良メイというこの体が、自分で思っている以上に人間離れした存在であるということ。
もう一つは、そのわりに、必要以上に臆病であったこと。
恐れていた深淵層のモンスターたちにも、自分の拳は十分に通用した。フロアボスだって、マリと協力して倒すことができた。戦う前から、彼らの殺意や害意に怯えすぎる必要はなかったのだ。
そしてそれは、『パイオニア』内での人間関係でも同じこと。メイはムジナの好意やサフラの敵意を疎みながらも、正面から跳ね除けることはしなかった。気怠げな眼差しで逃れ逃れ、いつか『パイオニア』からも逃げちまえばいいと考えていた。その気質が必ずしも欠点であるとは、メイ自身も思ってはいない。だがしかし、此度の一件において悪い方向に働いてしまったこともまた事実であった。
「わたしたぶん、ビビり過ぎてたんだよね」
サフラのことも。サフラに直接、告げることも。その結果がこの、面倒くさい騒動。代償は腕一本。足掻いて足掻いて得られたものは、この騒動がなければまみえることもなかった大事な相手だというのだから、なんとも因果な話で。そのマリと逢えたという一点においてのみ、メイはサフラに感謝していた。だから一つだけ、譲歩してやる。
「……もう一回言っとくけど、ムジナについては悪かったよ」
「っ!そうよ!!あんたがっ、あんたのっ──」
「こんなことになる前に、きっぱり振っておけば良かったね。それだけは、ごめん」
「っ」
心底憐れむようなメイの表情は、目の前にいる女と、もうこの世にはいない男にも向けられたもの。それを感じ取ったサフラが言葉を失い、そしてまた、メイの表情がころりと変わる。憐憫すら消えた、心底冷たい蔑如のそれに。
「──サフラ。あんたさ、マジで面倒くさい。二度とわたしの前に顔見せんな」
心の底から同調したマリが、サフラの顔面スレスレで嵐のように床を打ち鳴らす。ヒュッと息を呑む音を最後に配信も、一連の騒動いやさ事件も幕を閉じ。メイが呼んだ『対
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