キラーコフィン 〜最強、サイコな異世界転生。〜

左右ヨシハル

第一章:目覚め

第1話 死刑執行。


独房に立て掛けられた時計が午前9時頃を指す。

私は目を瞑り刑務官の足音に耳をすませた。


コツ、コツと冷たい床に靴の音が響く。


そしてその音が止んだ。


「〇〇……出房だ」


判決が出てから270日。

早すぎる執行だった。


私は目を開けて2人の刑務官の顔を見た。


「エンドウさん、ムラカミさん」


呼ばれた2人の刑務官は互いに顔を伏せて私に独房を出るように促した。


教誨きょうかい室では、僧侶が私に向けて経を唱えてた。


エンドウさんが私の前に遺言書と書かれた白い紙を置いてくれた。


私はボールペンを手に持ったが何も書く事がなかった。


「コンドウさん。ここには一般的には何を書けばいいのでしょうか?」


コンドウさんは、何も言わずに私から目を逸らした。


教誨きょうかい室は、無音だった。

僧侶、所長の代理者、検察官、検察事務官、医官そして執行作業に従事する3人の刑務官。


誰もが目を黒くして時を待った。

咳払いも鼻をすする音も何も聞こえず目を閉じればそこはいつもの独房と変わらなかった。


教誨きょうかい室での1時間が過ぎて刑務施設長の代理者が私に目を合わせずにまるで音読をするかのように定型文を発した。


「最後に何か言うことはあるかな?」


私は今回、執行作業を行う3人の刑務官に顔を向けた。


「コンドウさん。エンドウさん。ムラカミさん」


私が1人、1人顔を見ながら名前を呼ぶと3人ははっとしたかのように私に顔を見せてくれた。


「お三方にはとても感謝しています。そしてその後のことにつきましては、申し訳ないと思っています」


「………その後?」


エンドウさんが眉をひそめる。

代理者が私の顔を怪訝そうに眺めているのが目の端で分かる。


「ええ。私は今、日本中から忌み嫌われています。その理由はきっと多くの人を殺害したからでしょう。そんな私と同じになってしまうあなた方の今後はきっと……とてもつらいと思いまして…なので死にゆく命ですが今…お詫びを」


私はゆっくり3人の刑務官に頭を下げた。


「同じ?……俺とお前が同じだと?……ふざけたことを……」


コンドウさんは吐き捨てるように声を出した。


「では……」


代理者が目配せして私を前室に移動させようとする。

しかしその言葉を私は遮った。


「コンドウさんにはご家族がいるようですね。私は悪い意味で有名人ですからきっとその近くにいた無関係な人まで危害を加えるかもしれませんね」


教誨きょうかい室は、無音から沈黙に変わる。

私の声は響いた。

まるで冷たい床を革靴で歩く今日のエンドウさんとムラカミさんのように。


「今はインターネットが発達してどこかの網目あみめから情報が漏れ出すか分かりません。世界中では死刑反対の声が大きく19人を殺害した私でさえ死刑をやめるようこの拘置所前までデモをしてましたね」


私の声は"魔力"だ。

一度、話したら皆耳を傾ける。

縛りつけて離さない。


「そんな中、異例の速さで死刑を執行したとなれば矛先を向けられるのは法務大臣でもなく所長でもなくあなた方、3人だ」


私はゆっくりと1人ずつ指を向ける。


「きっとバレる。あなた方3人はどこかでバレる。そして私と同じように皆から後ろ指を差される」


3人の刑務官は額に汗を流しながら代理者と扉を横目でキョロキョロと見ていた。


私は少し笑みをこぼす。


「あ、少し違う点がありました。あなた方と私に違う点は……守る者がいるかいないかです。

コンドウさん。私に言ってくれましたね娘と息子がいる事を。

息子は小学校5年生、娘さんは小学校に入ったばかりらしいですね。

………もう学校には通えない。

ムラカミさんもご結婚おめでとうございます。

しかしお嫁さんはこれから大変だ……あなたと一緒に泥を被ることになるのだから。しかも二度と取ることの出来ない頑固な悪意の泥がね……」


「……なんで」


ムラカミさんは今にも逃げ出したいのかすでに半身が出口の方を向いている。


「新婚で楽しいのは分かりますが死刑囚がいる独房に結婚指輪はいけませんよ」


「あ、」


ムラカミさんは自分の薬指を見て慌てて隠す。


「もうよろしい!!」


私の言葉を遮ったのは意外にも僧侶だった。

その声で我に返った代理者が私の身体を押しながら前室に向かわせる。

顔にはもう話さないでくれと書いてあった。


前室で目隠しをされた。

いよいよだ。


「エンドウさん」


すると手錠をかけようとする手が震えた。


「きっとあなただ。あなたが押したボタンが私の首を締める。想像してください。首の色が変わり血管が浮き出て足を動かして必死に生きようとする私を」


「もうやめろ!」


検察官が声を荒げる。


「うっ」とエンドウさんは片方しかつけていない手錠を離した。


そこで10分ほどの空白があり誰かが私にもう片方の手錠をつけた。


執行室で足を拘束され僧侶が何かぶつぶつと経を唱えている。


首に縄がつけられた。

絞められた縄は少し緩かったがそう思った矢先に縄をきつくされた。


しかし縄をかけられて3分が経っても今だに私は生きていた。

私以外の全ての人間が私のいない所で慌ただしくうごめくのを肌で感じる。


「4人目だったかな名前はクルネさん。まだ高校2年生で陸上の地区大会で棒高跳びで3位だった。その子を殺した時も私の今と同じ状態だったな……でもその顔が面白くって縄を締めるとおしっこを漏らしてね。それだけだったらいいけど脱糞までしちゃって部活動で使うジャージが茶色と薄黄色になってね。それが面白くて30分その場で放置したんだ。そしたらなんでか分からないけど安心したのかな?泣き止んだんだ。だから段ボール箱を蹴った。そしたら足をバタバタ動かしてね。ドラマなんかは嘘っぱちだよ。顔は真っ赤になって目なんてかっと開いてさ。元々彼女は目が細い方でね。ああ、だけどそれが美人なんだよ全体のバランスが良くてね。それなのに目を開いたら一気に不細工になって普通は逆だよね。でも私はどうだろうね。あんまりカッコいい方じゃないから目が開いた方がイケメンになるかもしれない。検察官さん死んだ私のか……お………」


その時、いきなり足場の扉が開いて一瞬、宙に浮いた感覚におちいる。


そして縄が首にめり込む。

吊るされた私の身体を支える縄からギュウと音がする。


過呼吸になったかのように息が吸えなくなって首にとてつもない圧迫を感じる。


意識が遠くなる。

指先から神経がなくなるかのように感覚がなくなりそれが身体中に広がる。


そしてそれが脳にまで達して意識が途絶える。

目も鼻も口も手も足も消えてただ縄が揺れる音だけが脳みその反対側から微かに聞こえる。



ギッ……ギギッ…ギッーーー……










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