わたしの幼なじみの話

来栖

第1話

わたしには幼なじみがいます。

名前をHといいます。

わたしの幼なじみはとてもモテるんです。

それも並大抵ではありません。はっきり言って異常とも言えます。わたしの覚えている限り、Hに彼女が居なかった時期は幼稚園の頃から大学生となった今までありませんし、男であるわたしから見てもHの細かい気遣いや洞察力、優しく人を受け止めてくれる人間性はハッとしてしまう瞬間があるほどです。

そんなHがこの度結婚すると言うので、わたしは随分と驚いたのです。

と言うのも、Hはたくさんの女性とこれまでお付き合いしてきたのですが歴代の彼女のその誰もが結局彼と別れてしまい最長でも一年程度しか続かなかったので、そんな彼が大学生の内に結婚するとは到底考えもしませんでした。

しかも話によるとお相手とは1ヶ月しかお付き合いしていないと言うのです。

この段階でわたしは「何かがおかしい」と、そう確信しました。

Hとの関係も、もう20年を超えます。だからこそ解る違和感。彼は今までたくさんの女性と関係を持っただけに少々遊び人の気質があります。二股をかけてひっぱたかれたことも、既に彼氏がいる人を狙いその彼氏が家に押しかけてきたことも、ナンパをするため夜遅くまで粘った挙句誰も釣れなかったことも、そして何かある度にわたしをヤケ酒に付き合わせた事も、二度や三度ではありません。そんな彼が付き合って1ヶ月で結婚?有り得ない。

「お相手は何て名前なんだ?」

わたしはHにそう尋ねました。怪しんでいることが彼にバレないようなるべく平坦を装いながら。

「Kだよ、久しぶりに話したら凄く気が合ってさ、昔はあんなに暗かったのに今じゃキラキラしてて可愛くなってた。直感的にさ、『俺の運命の人は彼女』だって確信して、すぐに告白したよ。」

K…その名前を聞いてわたしは確信を深めました。


わたしには幼なじみがいます。

名前をKといい、彼女とは高校に上がるまで同じでした。勿論、Hとも。

そして彼女には困った性分といいますか…とてもHのことが好きなのです。

それも並大抵ではありません。はっきり言って異常とも言えます。わたしの覚えている限り、彼女がHのことを諦めた時期は幼稚園の頃から中学校までありません。執着とも言える位、恐怖を覚える位彼女はHのことが好きでした。

わたしは尚もKについて語るHを制し、今彼女がどこにいるか尋ねました。

「うーん、多分今の時間なら家にいるんじゃないかな?…どうしてそんなこと聞くんだ?Kのこと狙ってんなら幾らお前でも許さねぇぞ」

そう答えたHはわたしの知るHではありませんでした。わたしの知るHはわたしにこんな事言いません、わたしを脅したりなどしません、わたしのことを『お前』などと呼びません、こんなに怒りで満ちた顔をわたしに向けません。

そこにはわたしの知らない人がいました。

こんな奴があの優しくて、明るくて、軽薄だし女癖は悪いけど友達思いなHである?有り得ない。

尚も問い詰めてくるHに、

「いや、おれも話聞いたら懐かしくなってね。Hが結婚するって言うんだからおれも無関係ではいられないだろ?」

そう言ってなだめすかして、なんとか彼女の住んでいるアパートを教えてもらいました。

さらに幸運なことにHはこの後バイトがあると言うのでわたしは一人で彼女の元を訪ねることができました。




彼女は大学から2駅ほど離れたやや寂れた街の古いアパートに住んでいました。

わたしがHに教えられた住所へ近づくほどに嫌な予感といいますか…肚の奥がぐるぐると捻れるような不気味な感覚が強くなり、そのくすんだクリーム色の外壁と沼のような緑色の屋根が目に入る頃には吐き気すら催していました。

それでも、わたしにはHがおかしくなったのはKのせいであるという確信がありました。

…わたしとHとKが中学三年生の冬です。わたしとHは近隣でも特に学力の高いA高校に進学を希望し、わたし達ほど学力の無かったKはD高校に行くと調査書に書いていました。この頃わたしはKがHを想っていたことなどすっかり気が付いていましたし、その想いがとても暗いものということにも気が付いていました。

A高校は私立高校なのでKよりも早くわたし達の決戦の日は迫り、わたしとHはよく勉強会を開き2人で高めあっていました。

そんな中、唐突にHが体調を崩しました。受験日のほんの3週間のことです。最後のスパートを共に掛けているとHが急に倒れ、41度の高熱を出しました。わたしもHの家族も大慌てで、H自身「受けられないかもしれない…」とうわ言のように呟いていました。

Hが回復したのは倒れてから1週間後でした。

わたしが合格祈願の為にHの分も合わせて、お守りを買いHの家に届けると今までの体調不良が嘘のようにHはケロりとして、焼肉弁当を食べている所に出くわしました。

わたしは安堵感からHとHの母親の前で泣いてしまい。イジられたのを覚えています。

わたしがHに別れを告げ、彼の家から出たときです。

わたしの目に、Kの姿が映りました。

Hの家の前の広いとは言えない道路の真ん中に立ち、わたしが握っているお守りをじっ…と凝視してきました。

何か異質なものを感じましたが、最近合わなくなったとは言え幼なじみです。

「どうしたんだ?Hならもう熱も下がって、今は元気にしてるよ。こっちは心配したってのにアイツ焼肉弁当食べてたんだぜ?全く…心配する身にもなって欲しいよ…」

わたしはHのことを心配してKは訪ねて来たのだと思いこのようなことを言ったと思います。

しかし、彼女の反応は予想とはまるきり違うものでした。

「…邪魔しやがって」

わたしは一瞬、彼女の言った言葉を飲み込めませんでした。

「邪魔しやがって」

彼女はもう一度言いました。

今度は先程よりも強く、わたしを恨みの籠った目で睨みつけながら。

深い黒一色の艶やかな長髪を振り乱し一心不乱に。

「邪魔しやがって!!!!!」

3度目、ここが住宅街ということなど気にもとめずに彼女は烈火の如く怒り、わたしに怒声を浴びせました。

「ふざけんな!後少しなのに!テメーはいつもそうだ!邪魔でしかない!なんだ!?恨みでもあんのか!死ね!死んじまえ!」

殺意。

わたしは確かにそれを感じました。日本に生まれ育ったわたしにとって初めて感じる明確な殺意。

疎遠になっていたとは言え、幼なじみから向けられたそれにわたしは肚の奥がぐるぐると捻れるような不快感が体を包み、尚も何か叫んでいるKを置いて逃げ出してしまいました。

結局、わたしもHも受験には成功し、わたしはあの日以来Kに会わず高校へと入学しました。


つまり、今わたしの目の前でムッツリとしている204号室の扉の奥には五年ぶりに会うかつて幼なじみだった人が居るはずです。

わたしの吐き気は既に臨海に達しており、今日は昼食を食べずに来たことに感謝しておりました。

わたしは逃げ出したいとすら思い始めて来ました。あの日のように。

しかし、Hがおかしくなるときは必ずKの影があります。無関係では無いことは確かです。

わたしはHのギラギラとした目を思い出しました。

あんな顔は彼には似合いません。軽薄で人好きする優しげな笑顔だけが彼の顔を彩ることができます。

わたしは意を決し扉をノックしました。

コン コン コン…

わたしの心象とは相反して安っぽい木製の扉は軽い音を響かせました。

確かに室内に聴こえるはずが、反応はありませんでした。

コン コン コン…

建付けの悪い扉の蝶番がカチャキチャと音を立てます。

反応はありません。

コンッコンッコンッ

次は先程よりも強くノックしました。

安っぽい木製の扉はカタカタと鳴き、不服を訴えます。

もしや不在なのか…?

わたしは存外な安堵感に包まれました。

不在なら仕方ない、出直そう…

三度の肩透かしを食らったわたしの覚悟は呆気なく霧散しわたしは帰ろうとしました。

ふと、先程の音が頭の片隅で違和感を叫びました。

…幾ら建付けが悪いとは言え、ノック程度でカチャキチャなんて変な音がなるのか?

違和感は徐々に膨らみます。

わたしはその違和感を否定して欲しくて、ドアノブへと手を掛けました。

冷たい金属の質感がわたしの手のひらにじんわりと広がりわたしは自分が冷や汗をかいているのを覚えました。

息を吸い

吐きます

ガチャッ

扉はわたしの覚悟を笑うように抵抗もなくわたしを招き入れました。

昼過ぎだと言うのに薄暗い廊下、そしてその先の磨りガラスがハマった扉が見えます。

わたしはその先に踏み込むことを決めました。

無論、不法侵入が犯罪であることはわかっています。しかし今のわたしにそんなことは些事です。

もしKが潔白であるならばどうしよう、などとも考えません。わたしの頭の中には別人のようなHの顔とあの日の憎しみに満ちたKの顔だけがありました。

せめてもの良識として靴を脱いで間口を上がります。

一歩

ざりっとした廊下の感覚が足に伝わります。

二歩

ギイっと床板がなりわたしの心臓は縮み上がりました。

三歩

わたしの体はすっかりと薄暗闇に飲み込まれました。

四歩

やっと扉まで半分ほどまで辿り着きました。

五歩

磨りガラス越しに薄くテーブルの影が見えます。

六歩

やはり人の雰囲気はありません、変な話ですがその不用心さが心配になってきました。

七歩

テーブルの上に何か乗っているようです。ぬいぐるみか何かでしょうか?そうだとしたらぬいぐるみを常に見える位置に置くなんて存外に可愛い趣味をしているものです。

八歩

ノブに手が届きます。ほっそりとした黄銅色のノブは埃が薄化粧を施していました。

玄関を開けたときよりは余裕を持って扉を開け…


そして言葉を失いました。













合わせ鏡と言うのでしたっけ?

一組の鏡を向かい合わせに配置し無限に続く回廊を生み出す、怪談噺としては有名な舞台装置がテーブルの上に十字を作って二組鎮座しておりました。

ですが、わたしの意識を奪ったのはそれではありません。

鏡でできた十字のその辻に置かれた、ポテッとした人形。「ぬいぐるみ」などと思った馬鹿は誰でしょう。

三等身ほどにデフォルメされていてもわたしにはわかりました。

H

彼を象った人形がそこにはありました。

わたしは決してオカルティストではありません。

“あの日”以来むしろオカルトが嫌いになっています。

ですので、詳しくは解りません。

ですが、コレが何かは解ります。

呪い

その言葉がストンと降ってきました。

「まじない」でも「のろい」でもなんでもいいのです。

ただ、その類の良くないものでありHがおかしく成っている原因であることだけは確定的でした。





たっぷりと息を吸い、ゆっくりと吐きます。

わたしはオカルティストではありません。

しかし、コレを何とかしなくてはいけないことは解ります。

わたしは神職ではありません。

しかし、合わせ鏡とはどのようなものなのかは知っています。

わたしは…


わたしはHの親友です、幼なじみです。

ですから、彼にこのような事をするKを許せません。


昔に聞いたことがあります、

十字路とはこの世ならざる者がよってきやすいということを。

合わせ鏡とはその奥に幽世の存在を移すということを。

人を象った人形には魂が宿るということを。

つまり、コレは合体技のような装置なのでしょう。

呪いの合体技。

常人の思考回路ではありません。

しかし、彼女は常人ではない。というだけのことでしょう。

そこまでしてHに振り向いて欲しいという願いは、今まさに成就しようとしています。ですがまだ未完成です。

Hは「結婚する」と言っていました。

「結婚した」ではありません。

つまり、まだ間に合います。

わたしは唇を軽く噛み、覚悟を決めました。








覚悟等と気取っても、やることは簡単なことです。

コレを構造しているものはそれぞれでは単純なものです。

わたしはまず、鏡を手に取ろうとしました。

西日がカーテンの隙間から溢れるのを見てこの鏡達が綺麗に東西南北を示していることに気が付きます。

まず、西を構成する鏡を取ります。

鏡の中にはHの横顔が移ります。東の鏡と協力し、無限にHを移す鏡。気持ちの悪いそれを手に取ります。わたしは鏡の中のわたしとなるべく目を合わせないようにしながら鏡を振り上げ、そうして力一杯床へ叩きつけました。

カシャんと音を立てガラスが辺りへ飛び散ります。

陽を受けオレンジに煌めくガラスは場違いな美しさを醸しました。

次に手に取ったのは東を任された一枚です。

相方を失った鏡は、たった一人のわたししか閉じ込めることができません。

振りかぶって壁に思い切り投げつけると、鏡は自らの能力を失いました。

三枚目は南を配す鏡です。

北を向いたHの背中を移す鏡の回廊にはHの顔と背中が交互に映り込んでいます。

わたしはその光景に違和感を覚えました。

無限に映る、Hの顔、Hの背中、Hの顔、Hの背中、Hの顔、Hの背中、Hの顔、Hの背中、Hの顔、Hの背中…

ぞわりと背中が泡立ちました。

“わたしが映っていない”

わたしはH人形の前から後ろに設置された南の鏡に手を伸ばしています。

つまり…

つまり、わたしが映っていないことは有り得ないのです。

伸ばしたわたしの手も、覗き込んだわたしの顔も、鏡の回廊にはありません。

ただ無限にHが映るのみです。

わたしは瞬間的に理解しました。

この鏡は「Kの見ている視界」だと。

そうでした、

彼女は昔から、

Hしか見ていませんでした、

彼一筋でした、

高校に上がるまで彼女は常にHのすぐ側に居ました、

わたしの隣ではありません、

他の誰の隣でもありません、

ただただHだけを、

彼だけを常に見ていました、

気が付きました、

なぜ“あの日”彼女はあんなに怒ったのか、

わたしでした。

彼女から、KからHを遠く連れ去ろうとしたのは、

Hと共に彼女とは別の道へと進んだのは、

彼女からしたらわたしは“邪魔でした”

いつも、いつも、

わたしには幼なじみがいます、

名前をHとKといいます、

KからすればわたしがいるからHを独り占めできません、

“Hの幼なじみ”という席は彼女だけに許されたものではありません、

Hを誘えばわたしも付いてきます、

わたしを遠ざければHも遠ざかります、

だから彼女はわたしを憎んだのです、

激怒したのです、

殺意を、向けたのです。



気付けばわたしは鏡を叩き割っていました。

砕けた破片、そのひとつひとつがわたしを写します

合わせ鏡で無くてはただの鏡のようです。


たっぷりと息を吸い、ゆっくりと吐きます。


最後の一枚、Hの正面に置かれた、鏡。


わたしはそれを手に取り正面から見据えます。

わたしがいました、

Kが、いました。

“あの日”と変わった姿をしています。

髪は以前よりも長く黒く艶やかになっていました。

身長も伸びていました。

黒い半袖のワイシャツと濃紺のスキニージーンズが彼女によく似合っています。

Hの言っていた通り、たしかに久しぶりに見たKは美しくなっていました。

“あの日”と変わらぬ、憎しみに満ちた目をしています。

“あの日”よりも強い殺意は鏡越しにも冷や汗が止まりません。

わたしはゆっくりと振り返りました。

Kと目が会います。

「…邪魔しやがって」

まるで“あの日”の再現です。

「邪魔しやがって」

わたしの手の中の鏡を睨みつけながら。

「邪魔しやがって!!!!!」

わたしは鏡を叩き割りました。

Kが絶叫します。

「まただ!またお前は!なんで私の邪魔ばかりする!?私とHの邪魔なんだよ!いつも!いつも!いつもいつもいつもいつも!!昔っからそうだ!なんでHには私だけじゃないんだ!なんでお前まで付いてくるんだ!なんでお前がHの隣に居るんだ!私でも!私でも良いだろう!」

彼女の吐く言葉はまるで質量があるかのような圧力でわたしに襲い掛かります。


パンッ


乾いた音が部屋に響きます。

Kの頬が紅く染まり、呆然とした顔をします。

わたしの手のひらが彼女を打ち据えました。

「Hを…おれの親友を何だと思ってる…」

わたしの心に怒りが広がります。

「前もこんなことしたのか…」

中学三年の冬、Hは突然倒れ高熱に魘されました。そのときの苦しそうな顔が目に浮かびます。

「だから、あのときも『邪魔しやがって』って言ったのか…」

“あの日”Hの家の前で見たKと今わたしの前でわたしを見据えるKの顔が重なります。

「おれがどんな思いでHを心配したか知らないで…」

突然倒れたHが、もしかしたら死んでしまうのでは無いかと呆然自失となった記憶が蘇ります。

「おれがどんな思いでお前を見ていたか知らないで…」




わたしには幼なじみがいます。

名前をHとKと言います。

Hは女癖が悪いですが、明るくて優しくて友達思いの良い奴です。

KはそんなHのことがずっと好きです。彼女の目には常にHが映っています。Hが新しい彼女を作る度にわたしは彼女の愚痴を聞きました。何度も何度も。

わたしは…

わたしはそんなKが好きでした。

KはHしか見ません。

Kの愚痴を聞くわたしの顔など興味すらありません。

KはHを「見る目がない男」と言います。

KはHを「勿体ないことばかりする男」と言います。

KはHを「女癖ばっかり悪くなって、可愛げが無くなった」と言います。

Hが新しい彼女を作る度にHのあだ名は増えていきます。

KはHとの恋を諦めません。

わたしは…

わたしは、Kを諦めました。

“あの日”憎しみに満ちたKの目を見たときに。

泣きそうになるのを必死に我慢するKの目を見たときに。

わたしは“あの日”理解していました。

Kが言っていたのです、「高校はHと同じ所に行きたい」と。

Hは、天才というやつでした。

わたしは、秀才というやつでした。

Kは、凡才というやつでした。

だからKは苦しみました。

Hの隣に並ぶことはできません。

Kは苦しみ、悩み、実行しました。

Kのアパートに来たとき悟りました。

中学三年生の冬、Kが何をしたのか。

なぜ受験の3週間前などというタイミングでHが倒れたのか。

なぜHの家の前にKが居たのか。

なぜわたしが“邪魔をした”のか。




Kは尚もわたしを睨みます。

しかし、呆気に取られたようにその目からは覇気が抜けていきます。

「…」

Kは目を伏せました。

啜り泣く声が聞こえます。

わたしは、どうすることもできず立ち尽くしていました。

Hはわたしの親友です。

非の打ち所ない良い奴ですが、欠点がひとつだけあります。

おれの初恋の人を泣かせたことです。

Hはきっと気付いているんでしょう。

KがHを好きなことを、わたしがKを好きなことを。

あの気遣いが上手い親友のことです。

全て知った上で気付かないふりをしてくれているんでしょう。


わたしは口を開きます。


「久しぶりに…3人で集まらないか?」






電話で呼び出すとHはすぐに駆け付けました。

第一声で、

「すまなかった」

と謝ってきたのを見て、わたしは確かに呪いを解けたのだと思い安堵しました。


結局、HはKに謝らせませんでした。

「女に頭下げさせたら男が廃る」なんてカッコつけて。


結局、わたしはKにフラれました。

「どうしても諦めきれない」と言われて。


結局、Kの恋は実りませんでした。

「人の気持ちを弄ぶのは許されないことだ。」と叱られて。


結局、わたし達は幼なじみに戻りました。

「言いたいこと言い合ったんだから。あとは仲直りするだけだ」なんてHがカッコつけたので。


Hは相変わらず軽薄です。

KはHを諦めないでしょう。

わたしは…

わたしも、諦めることは辞めにします。


三つ子の魂百まで、

わたし達は結局中学三年生のままでした。

Hが女性を引っ掛け、それにKが怒り、わたしがKの愚痴を聞き、偶にHが持ってくる厄介事の尻拭いをする。

わたし達は何も変わっていませんでした。



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わたしの幼なじみの話 来栖 @Yorihisa-Okuniya

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