26.遅くの帰還

 



「──リレイヌ!!!」


 夜。

 すっかりと日も落ちて暗くなった空の下、馬車を降りたリレイヌは、駆けてきたリオルと睦月に目を向ける。なぜかアジェラの姿まであるのを不思議に思いながらふたりに寄ろうとすれば、それよりも先にリックが彼女の前に歩み出た。駆けていた皆が、足を止める。


「こんばんは、シェレイザ様。このような夜分遅くに訪問して大変申し訳ないのですが、少し話の席を取ってもらってもよろしいですか?」


にこにこと。笑顔で告げるリックに、リオルは自然と眉を寄せた。明らかになにかを企てている様子の彼に、自然と低い声が零れ出る。


「……何を企んでいる」


「企んでる? まさか。私はシェレイザ様と話し合いがしたいだけです。ええ、村に捕らわれているシアナ・セラフィーユについて、ね……」


 瞠目したリオルの横、睦月が唸るように「リレイヌに何見せた」と吐き捨てた。睨んでくる二つの紫色を確認したリックは、それを鼻で笑い飛ばしてからリオルへと顔を向ける。どうやら睦月のことはスルーするようだ。吠える人狼少年をよそ、リックはリオルの傍へ。声を潜めて言葉を紡ぐ。


「ヘリートと呼ばれる男性が殺されていました。リレイヌの様子を見るに彼女に近しい人物なのは確か。そして、彼はシアナ・セラフィーユの夫であった……推測するに、禁忌とされているのはリレイヌ本人。あなた方シェレイザは、そんな彼女の存在を隠そうとしている。……違いますか?」


「……中で話そう」


 告げたリオルに、リックは「寛大なるお心に感謝致します」と一言。わざとらしいその礼に、リオルは無言に。なったかと思えば、すぐに踵を返して屋敷に向かい歩き出す。


「リック……」


「大丈夫。悪いようにはしない」


 不安げなリレイヌに微笑み、リックもリオルに続いて足を前へ。歩き出した彼を慌てて避けたアジェラが、忌々しいとリックを睨む睦月をちらりと見てからリレイヌの傍に駆け寄った。


「お怪我は?」


 問われる不安に、それを解消せんと「ないよ」と答える。


「それより、アジェラたちはどうして外に?」


「そりゃあリレイヌさまを待ってたからですよ! 探しに行こうかどうかみんな迷ってたし……」


「……ごめんなさい」


「あ、謝らなくても大丈夫ですよ! リレイヌさまだって外に出たかっただけですもんね!?」


「……うん」


 頷くリレイヌ。しかしその顔に元気は無い。

 明らかに落ち込んでいる様子の彼女に、アジェラはひとりわたわたした。その後ろ、リックを威嚇していた睦月が、「何かあったのか?」と心配そうにリレイヌを見る。


「……なんでもない」


 なんでもないよと、言い聞かせた。

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