片翼のRebellion
水田真里
プロローグ
一瞬にして光が世界を覆った。音が消滅したその光景の中、周りの兵士は次々と焼け、焦土と化していく。
残骸を残すことすら許されず、最終的には塵よりも微小なものに分解され虚しく消えていく。
銃や剣には闘志を見せ立ち向かっていたものも、本能的に負けを認めてしまう強大な力の前では、ただ立ち尽くすしかなかった。
そこには一人の黒髪の少女。彼女も呆然と前方を見つめ、終わりを予感していた。
終わりはただの人生の終わりなんかでは無い。打ちひしがれる体は自己を喪失し、これまで積み上げてきたものを平然と亡きものに変える。
ああ、やっと終わる。
腰辺りまで伸びた黒髪の少女は目を瞑り覚悟し、全てを放棄した。宝石のように赤い目はもう光を失っていて、小柄な体は抜け殻のように力が入っていなかった。
残り少ない思考で過去を振り返る。
短い時間ではあったが、いい人生だったと思う。
何もかもを奪われ、人形と大差なかった私は兵士として拾ってもらった。優しい大人に囲まれ、娘のように扱ってもらって、過酷な戦争も少しは笑って過ごすことが出来た。
彼らと共に死ねるなら、まぁ悪くないだろう。
頭に流れ込んでくる温かい日々。戦場とは対照的な、それは楽しく美しい日々だった。
思い返すだけでも涙が出て来そうになるが、もうそれをする水分が体には残っていない。
思考はさらに昔へ遡った。
今会いに行くよ。
何年も前に失った家族にそう伝えて、砂のように消えていく体を見つめた。
天地を切り裂く醜い戦争は私たち兵士が何千人、何万人と死んでいこうが永遠に終わることはないだろう。戦火は日を追うごとに勢いを増し、この星さへも呑み込まんとしている。
度重なる魔法で黒く焦げた空。首を上げれば降りかかる大砲、弓、火球。ましてや目の前には自分たちを包む、羽のような光の暴力。
もうこの星は治らないかもしれない。いや、今でさえも汚れ、傷つけられヒビが入ってしまっている。耐えられなくなるのは時間の問題か。
戦場では人間は駒だ。最初に一人1ポイントを与えられる。敵を一人殺せば1ポイント貰え、どれだけポイントを稼ごうが、死んでしまえば全てがパーだ。貯めたっていつどんな時に役立つかも分からない。
ただ捨て駒と使われるその他多数であり、敵陣の最奥にたどり着いてもキャラを交換なんてできない。
魔法の使えない者は特攻隊として死ぬことを前提に戦に駆り出され、強大な力を前に何も出来ないで死んで行った。私もその1人になる。
自分を知っているものは同じ地で息絶え、戦場の一部に変わる。
人は二度死ぬというが、私たちは一度死んだらそれでおしまい。二度も何も誰も自分のことなど知らないし、覚えてなんかいない。
ああ、私をどうかこの悪夢から覚まして。
天国に行きたいなんて傲慢なことは思わない。だから、どうか楽にしてください。
私は1度も信じたことのない神様に向かって、叶わないとわかっていることを口にした。
ああ、タイムリミットだ。
眼前の光は恵みでも希望でもないが、どこか神秘的ですらあった。太陽というものは宇宙からこの星に光のめぐみを与え、生命の源、全てであるらしい。
へぇー、すごいな。
その頭の中の太陽とは真逆の効果をもたらす景色を目に写し、絶望の過剰摂取により精神がおかしくなり始めていた。
ここ1500年間は太陽なんか見えていない。
それはただの幻想だとさえされていた。
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