間もなく核攻撃が開始されます
深見は核爆発の魔術を発動させた。
白光。
エネルギーの奔流がダンジョンを塗りつぶす。
核分裂エネルギーはサタケを蒸発させた。
熱量に存在を否定され、サタケは一瞬の間に五十万回もの死と再生を繰り返す。
核分裂エネルギーは大気の原子を励起して火球へと姿を変える。核の炎はサタケの再生を妨げた。火球の中でサタケは十万回ほど消し炭にされる。
火球は膨張。熱線を放射しつつ、一瞬で直径二キロメートルに広がる。TNT火薬換算二十キロトン出力。
高熱を伴った爆風がダンジョン全体に広がった。熱線と爆風によりサタケは十万回死亡する。
エネルギーは拡散した。火球は消滅する。
爆心点は空気が吹っ飛ばされたせいで真空となる。そこに多量の空気と粉塵が流入した。
不気味な重低音と共に巨大な原子雲が生まれ――――動画が停止する。
◇◆◇◆◇
「Dungeon Typhoon」のステッカーを側面に貼ったワゴン車が、昼の高速道を突っ走っている。満席。全員が戦闘要員だ。
ワゴン車の後部席には巽タツキがいた。青年起業家風の精悍な顔つきのタツキは、手に持つタブレット端末を注視していた。
左右に座る仲間もタツキのタブレットを覗き込んでいる。
タブレットには「聖夜の誓い」の配信が映っていたが、先ほど止まってしまった。
「玉砕か何かか? そういうのは止めてくれ!」
苛立たしくタブレットを連タップするタツキに、右横の青年が声を掛けた。
「タツキさん、これってマジで核なんスかね?」
「だろうな。杖からの魔力放出はあった。放射線環境の迷宮なんて初めてだが、とにかく行ってみるぞ」
エンジン全開で「夢の島デッドエンド」へ向かうワゴン車の中、タツキはタブレットからコメントを打ち始めた。
―――――――――――――――――
ハイプリたん:深見
ハイプリたん:生きてるのか
ハイプリたん:なんとか言え
GT-01:自爆で全滅だって
ハイプリたん:黙れ
―――――――――――――――――
配信が再開された。
深見の魔術カメラはきのこ雲の中に入ったらしく、黒い靄ばかりが映っていた。
不意に映像がクリアになり、地面に転がる「聖夜の誓い」の四人が映った。深見が魔術でカメラの視界を確保したようだ。
◇◆◇◆◇
「聖夜の誓い」を守る多層シールドは核爆発で大幅に枚数を減じつつも、メンバーを保護した。
だが、きのこ雲形成が始まったあたりで、多層シールドの最後の一枚がぱきんと音を立てて割れて消滅する。空清が倒れた。
「聖夜の誓い」の三名は精神力切れで倒れ、戦闘不能となる。
深見は杖を頼りによろよろ身体を起こして詠唱を始めた。上空の魔術カメラが動いて索敵を行う。
深見のいるところからずっと遠くにサタケのステータス画面があった。
―――――――
サタケ
10,236
[ ▓______ ]
―――――――
諦めの表情となった深見は、足から力が抜けたように倒れる。
やっぱりだめ。分かってたけど。
そう思うと起き上がれない。
深見は意識が遠のくのを感じつつあった。精神力切れだ。
気を失う間際、深見は心中で仲間の三人に「ごめんなさい」と詫び、サタケに殺されて死に戻る自らの運命を恨んだ。涙がこぼれる。
わたしはまた死に戻って、また、みんなを道連れにしちゃうのかもしれない。
「心が、折れそうだよ――」
そう呟き、深見は意識を失った。
魔術カメラに映るサタケは皮膚ずる剥けの大やけどで、再生が追い付いていない。
「あああああああああ痛でえええええええ! 傷が、治らない! 治らねええええ! あのガキ俺に何をした! 俺が何をした!! いでええよおおおお!! どこだガキども、出てこい! ころす、ごろじでやるううう、ああああああああ!!」
悪人サタケの悲鳴に、善なるチャット欄が盛り上がり始めた。
―――――――――――――――――
アタッカーくん:効いてるぞ!
伊豆屋:深見は伝説になる
Suzu原:PK野郎をやっちまえ!
ミニゴリラ:深見様もう一発
サタケキラー:サタケ〇ね
ユグドラ大好き:召されろクソ
正義の下っ端:杉谷さんの恨み
天羽君は永遠:〇んでください
ミユ様信者:逝っちゃえ♡
―――――――――――――――――
だが。
「そうだ僕ちゃん真似してやる! 核報復だ! うおおお死んでしまえええ!!!」
サタケの咆哮があって核爆発が生じる。
再び、ダンジョンは核の光に包まれた。
サタケの核報復により「聖夜の誓い」側の配信画面が真っ白になる。
数秒後、動画プレイヤーは真っ黒に変わり「ライブストリームは切断されました」との表示が出た。「聖夜の誓い」の配信は強制終了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます