ダンジョン絶対プレイヤーキル動画配信宣言！

バトルフィールド

　サタケの左右に二振りのナタが現れた。掴んで構え「聖夜の誓い」へにじり寄る。

「聖夜の誓い」の四名と、サタケが睨み合う。

　サタケは無詠唱魔術を警戒して突撃を躊躇っているように見えた。貰えばノックバックとなり、動きを止められてしまうためだろう。

「詠唱時間ちょうだい」

　深見の言葉に、メンバー三人は軽く頷いた。

　空清の魔術が初手。

　今から大量に壁をこしらえる（ぼ）

　強度は鉄筋コンクリと同程度（う）

　可能な限り多数の防壁を用意（へ）

　壁は四方八方全ての面に展開（き）

　この詠唱は二重に特殊であった。

　好きな文言により望む効果を得られるが、精神力消費が多大な「自由律詠唱」。

　追加の精神力を投じて詠唱を略し、魔術を高速発動する「短縮詠唱」。

　これらの二つを合わせると「一言で何でも出来る」。

　高位魔術師が一言しゃべったら大魔術が発動して周囲は焼け野原になる。一般常識の部類だ。

　瞬間的な火力の高さから「高位魔術師を見つけたらしゃべる前に殺せ」が対人戦の鉄則とされるほどである。

　だが、ほとんどの魔術師は上記二つの技法を使えない。生涯を賭しても、できないものには片方すら覚えられない。

　空清はそんな技法をあっさりと併用した。死に戻りで奥義を極めた深見が伝授したものだ。

　空清の魔術が発動する。

　四名をまるごと包むように、青く薄い防壁が一千枚展開された。

　大魔術発動の前には巻き添え防止にシールドを展開することが多い。

―――――――――――――――――

伊豆屋： 初手シールド？

アタッカーくん：開幕ぶっぱの悪寒

―――――――――――――――――

　深見は数式を読み上げる詠唱を開始した。「短縮詠唱」では精神力が持たないほどの大魔術を使うつもりらしい。

　住吉が言葉を紡ぐ。自由律の短縮詠唱。

　十五糎榴弾の高性能な炸薬って（さ）

　戦車とか平気で壊せるんだよね（っ）

　一万発くらいあれば十分かなあ（さ）

　それから航空支援も必要だよね（と）

　航空爆弾も目一杯落としたげる（し）

　銃弾もたっくさん欲しいでしょ（ね）

　一万発の榴弾が空に現れて、放物線を描きサタケに向かう。

　一万の航空爆弾がサタケの真上に出現して落ちた。

　サタケの周囲を無数の銃弾が包囲する。

　全ての弾薬は魔術による模写で、実物の忠実なレプリカだ。

　多数の榴弾がサタケに突っ込んで炸裂し、体を粉砕する。

　サタケの体は再生を始めたが、そこへ多数の航空爆弾が落達して起爆した。熱線と爆風が放たれて、サタケを焼き続ける。

　再生するサタケに無数の銃弾が発射され、突き刺さり、執拗に殺し続けた。

　魔術によりゴミ山はごっそりと吹き飛ばされる。

　地中に溜まっていたメタンと爆風が反応した。ガス爆発が多数生じて辺りは煙り、何も見えなくなる。あっという間に「夢の島デッドエンド」は火災現場と化した。

　シールドがなければ「聖夜の誓い」は全滅していただろう。

―――――――――――――――――

Shiroko：なにこの爆撃

ウニエル：ケンジ守ってえええ

アタッカーくん：こいつら高位だな

サタケ助からない

―――――――――――――――――

「あと、よろしく……」

　住吉はへたり込んで倒れる。

　深見は頷いて返し、数式朗読のような詠唱を続けた。

　爆風で吹っ飛ばされたらしくサタケの姿は見えない。

　だが、遠くにステータス画面が見えた。

―――――――

サタケ

1,023,186

[ ▓▓▓▓▓▓_ ]

―――――――

　サタケは約十万回死んだ。

　殺し足りない。

　天神は杖を構えて自由律の短縮詠唱を行った。

　天神涼音が星に命じます（さ）

　星々は令を果たしなさい（よ）

　我らが敵たるあのサタケ（う）

　我らが敵を滅するために（な）

　あの者と衝突するように（ら）

　昼空に一つ星の瞬きが現れて、隕石が落ちてくる。

　プラズマを纏う隕石はサタケに直撃した。体が砕けて四散する。

　着弾と同時に光と轟音があって、衝撃波が起こり、ゴミ山にクレーターが出来た。

　破砕されたサタケの肉片は寄り集まり、再生を始めた。

　空に二個、三個、四個と瞬きがあって、一万の煌めきとなる。

　無数の隕石が五月雨に落ちる。直撃によりサタケは破壊され続けた。

　隕石落としによりゴミ山にはクレーターが形成されていく。

「聖夜の誓い」を保護する多層シールドは衝撃波で少しづつ壊れはじめた。

―――――――――――――――――

GT-01：こいつら人間じゃない

伊豆屋：人間卒業おめでとう

ウニエル：ケンジがんがえええ

―――――――――――――――――

　しばらくして隕石は止む。

　隕石落下の衝撃で火災は消えたが、深いクレーターがあちこちにできた。

「頑張って……くださいね……」

　精神力が尽きた天神は前のめりに倒れる。

「聖夜の誓い」の居場所から遠く、ひとつのクレーターの直上に無慈悲なステータス画面が見えた。

―――――――

サタケ

853,627

[ ▓▓▓▓▓__ ]

―――――――

　深見の魔術カメラがサタケを映した。再生のペースは遅い。タイムラプスのようだ。大ダメージのせいで回復が遅くなったのだろう。

　クレーターの底にて、隕石落下で粉微塵にされたサタケの破片が寄り集まる。

　破片は骨や肉となり、身体となった。

　人体標本さながら、筋肉が剝き出しの状態まで再生する。

　全身に皮膚が生え始める。サタケの顔が見えた。平気で人を殺せるようには見えないモブ顔だ。これによりネット上でのサタケ顔バレが確定する。

　サタケの顔に仮面が現れて、体はコンビニ制服で覆われた。

　回復が完了する。

「くそがあああああああああ！　死ぬほど痛いぞクソガキ共！　こんなに痛いのは生まれ変わってから初めてだ！　僕ちゃん、お前ら、皆殺し！　殺す死んでしまえ殺してやる死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね！！」

　サタケはクレーターを駆け上がり、大剣を空に生成して引っ掴み、「聖夜の誓い」に突進する。

―――――――――――――――――

ハイプリたん：あれで死なないとか

有り得るのか

GT-01：理解が追い付かない

アタッカーくん：あかんて

とやまっ子：サタケ来てるぞ

ウニエル：みんなにげてえええ

ええええええええええええええええ

東京都迷宮協会公式： 【緊急連絡】

協会は本件を認識しています。安全の

ため皆様は夢の島デッドエンドに立ち

入らないようにしてください。協会は

調査員を派遣しました。

―――――――――――――――――

　深見は長杖を構えた。

―――――――――――――――――

ふかふか：核撃ちます

―――――――――――――――――

「ゆえに（ゼアフォー）」

―――――――――――――――――

ハイプリたん：は？

―――――――――――――――――

　深見の魔術カメラが上空に転移する。

「聖夜の誓い」の配信は高高度映像となった。

「エネルギーは質量と光速の二乗（イー・イコール・エム・シー・スクエアド）」

　光あれ。