蘭摧玉折

@Detakunkun

前編

 行きたい大学に受かった。だが、そのことを喜んでくれる人は誰一人いなかった。両親は医学部に行けなかった私には興味を失ったのか、今までの束縛が嘘のように消えた。その代わり、その束縛は高校当時の私よりも優秀な弟に向いた。そのせいかは分からないが弟からは時折怒りの眼差しを向けられる。友達も地味で暗い私にはできなかった。むしろ、誹謗中傷の的だった。


            私は自由だ。


 大学に入ってもそれは変わらないと思ってた。でも違った。クラスというくくりがないからなのかはたまた学年の人数が多いからなのか周りの人間関係は今までと同じに見えて中身は結構ドライだった。もう一つ、今までと違うことがあった。

「あの...私、森本明日香っていいます。よければ、このあとの授業を一緒に受けませんか?」

こんな私にも話しかけてくる奴がいたことだ。

「えっ......あっああ小田島おだしまマキと言います。いいですよ。」

「授業始まって一週間経ちましたけど友だち出来ました?」

「私人と関わるのが苦手で全然ですね。」

「ごめんなさい、嫌なこと聞いちゃいましたね。」

「いえ、平気ですよ。」

「なにか趣味とかありますか?私は、スポーツをよくしますね。」

「趣味ですか」

「映画をよく見ますね」

「映画ですかいいですね。どんな映画見るんですか、何の映画が好きですか?」

「ジャンルはバラバラですね。」

「好きな映画は、コーヒーが冷めないうちにですね」

「あぁ去年、〇村架純さんが主演をしていた?」

「そうです。あなたも案外見てるんですね。」

「いえ、テレビで予告をちらっと見ただけでそんな見てないですよ」

「ふふっそうですか。」

「そういえば、この後サークルの紹介をホールでやるらしいけど一緒に見に行きませんか?」

「いいですよ。」

 サークルを見て回ってるときはとても楽しかった。ただ一緒に見て回って、あれいいなこれいいなと言い合っているだけなのに、ここまで心が躍るものだとは思わなかった。多分一緒にいてこんなに心が躍る人のことを

「どうですか?目ぼしいところありました?」

「はい!逆にどれに入ろうか迷ってるぐらいです!マキちゃんはどうですか?」

「マ.....キちゃん?」

「あぁすいません!急になれなれしかったですよね!」

「......ふふっ、いいですよ。明日香ちゃん。私はこの映画鑑賞会がいいかなって思ってます。」

「ありがとうございます。いいですね。映画が趣味と言ってましたしね。」

 この後私は映画鑑賞会、明日香はバレーサークルに入った。映画鑑賞会は私にとってとても居心地がいいサークルだった。週に一度、メンバーが持ってきた映画を見て談笑をするサークルだった。談笑をするのは、私には少しハードルが高かったがそれでも楽しめた。明日香は私以上に楽しめたようで、活動のなかでの楽しかったことを私によく話してくれた。

だけど、この関係も長くは続かなかった。明日香はサークルを通してどんどん友だちを増やしていき、その数が増えるたびに私たちは関係が薄くなっていった。

 そんなある日

「明日香ちゃん、久しぶり!」

「あっ!マキちゃん!久しぶり」

「明日香ちゃん、この後一緒に」

「よーっす、明日香ー」

「あっゆうちゃん!」

「紹介するね!この人私の彼氏の広瀬優太君。ゆうちゃん、この人は私の友達のマキちゃん」

「明日香の彼氏の優太です。初めまして」

「初めまして」

「んで、マキちゃん さっき何言おうとしたの?」

「いや、何でもないよ」

なんだろう、この感情は。まるで押してほしくないボタンの縁を指で撫でまわされてるような感覚は。これが嫉妬というやつなのか?なんで?私と明日香は友達なんだ、彼氏彼女の関係じゃない。何を嫉妬すると言うのか。

「じゃあ、マキちゃん。私達この後一緒に授業だからまたね」

「うん、またね」

明日香がどんどん遠ざかっていく。明日香が一歩踏み出すたびに胸が苦しくなっていく。少し距離ができた。

「明日香?」

「どうしたの、ゆうちゃん?」

「マキちゃん?だっけ。あの子地味で暗くない?」

あぁそうだろうな。お前はそういう奴だと思ってたよ。お前は今までの奴らと同じ匂いがしていた。いつも言われてきた私への攻撃。普段なら深く傷つくところだが、なぜかこの時だけはほっとした。

「もう、ゆうちゃんったら。たしかにそうかもしれないけどマキちゃんはいい人なんだよ?」

明日香が笑いながらこう言うまでは。なんで?明日香はあいつらと同じ匂いはしなかったのに、なんで?そんなこと言うの?私達友達なんだよね?なんでそんなに笑っていられるの?そんなことを考えているうちに明日香は消えていた。


          明日香なんて嫌いだ。

 

 私はまた自由になった。そこからの日々は退屈だった。なんとなく授業を受け、なんとなく単位を取り、なんとなくサークルの活動をし、なんとなく進級した。

「僕と付き合ってください」

これが彼との馴れ初めだった。

「えっ.....私?」

「はい!」

「いや.......君誰?なんで?」

「一年生の立花シオンと言います。大学のサークルの新歓で一目惚れしました。」

正直、このとき私の頭の中には今思えば最低な思考が巡っていた。こんな地味で暗い私を小田島マキを見てくれる人なんていなかったから。だから、この差し伸べられた手も振り払おうと思っていた。

「立花君、とりあえず顔上げて」

「立花君、私はほぼ初対面の人からの告白にうなずけるほど軽くない。せめて、ちゃんと段階を踏んでから言ってほしかった。」

「すみません。昔から思い立ったらすぐ行動に移しちゃうところがあって、僕の悪いところですね。では失礼します。」

彼は笑顔でそう言った。

「.........待って、私は改善点を言っただけでフってはいないわよ」

「え?じ.....じゃあ」

「でも、OKもしてないわ」

「........どういうことですか?」

「私がさっき言った改善点を踏まえて、もう一回告白してってことよ。」

それを聞くと彼は目をキラキラさせながら言った。

「分かりました。では、まずは僕と友達になってください。」

「はい。」

ここから始まる私のハル

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