その時レッドカードが提示された。

幽々

その時レッドカードが提示された。


 その時、ホイッスルが高らかに吹かれた。


 鳴らされた少年は不服を隠そうともせず審判に詰め寄り、何か文句を垂れ流している。


 審判はそんな少年の文句も様子も無視して、毅然とした表情で胸ポケットに手を入れる。


 瞬間、胸ポケットから赤い色が閃く。


 間も無くして、レッドカードが少年に提示された。


 すると、父兄用に設置されたテントから、大柄な男が一人、大股でこちらに向かってくる。


 男は真っ直ぐに、審判の方に向かってくる。


 審判は、向かってくる大柄な男の事を、毅然とした誇り高い表情で、見つめていた。


 審判の左頬には、火傷の大きなひきつれの跡があり、鼻からは血が流れ始めていた。


 男の姿に気付いた少年が、苛立ってボールを軽く蹴った。


 男が黙って近づいて来ていた。

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