第31話 ホクホクの再開

 大人部門も終わりそうで、サダバクと名前不詳の剣士が戦闘をしていた。サダバクは魔法だけを使用しており、剣士は自身の腕のみ。

 縛り戦闘をしているのだろう。


「サダバク達、凄い戦いだ。サダバクはなんとか近接技を使わないで、剣士は距離をめちゃくちゃ詰めてってる」

「どっちも本気出してないから分からないわね」


 サダバクはすんでのところで剣を避けながら魔法を放ち、剣士は判断を間違えばただでは済まない魔法を叩き切る。

 鬼のような気迫を剣士は纏っている。


「今、気付いたんだが、技以外音声に補正かけられてないからほとんど聞こえん」

「まぁ、聞こえるのは違反か判断する審判だけでいいでしょ。わざわざ、戦闘以外の話聞かれたら嫌な人だっているしさ」

「うーん」


 そう話していると、サダバクの戦闘は終わった。


「サダバクの負け、か……。また会ったら笑ってやろっと」


 最後にユウヤとエスタントアの戦闘だ。エスタントアはいつもとは違ってぬいぐるみを持っている。

 観客も少し困っているような声が聞こえてくる。


「よろしく」

「うん」


 まずは殴り合い。エスタントアは見た目に変化が訪れずカンキョウを使ってないと感じていた。しかし、ユウヤは服の内側の皮膚にカンキョウが纏わりついていたのが見えた。


「ユウヤさんは共鳴を使わないんだ? 初めて繋げてきた時みたいにさぁ、自爆技として終わるのも面白いと思わないの?」

「生憎、そういう悪ノリは種類によるタイプなんだ」

「そう、残念」


 ユウヤはカンキョウを使ったにしては簡単に腕を切ることが出来た。


「?!」


 ユウヤは四方を結界にで閉じられる。


「これ、ぬいぐるみの効果なの」

「エッグいの最後に持ってくるなー」


 エスタントアが一瞬、結界を解くと同時に殴る。

 しかし、わざわざ傷を負った意味が分からない。


「傷を負うのが、トリガーか?」


 ドロドロとエスタントアから鼻血が垂れるのが見えた。(遺物にしてはデメリットが大きい。呪具か)ユウヤはそう考えガス欠になるのを待つ。

 基本的に呪具とは長くは使っていられない。軽い呪いでも精神を蝕んでいくからだ。


 エスタントアは殴り続けるが、ユウヤは一瞬にして足を掴み押し倒して殺した。


 ◆■◆■◆■


 終わって試合場から出る。


「あっさりすぎる。絶対、わざとそのぬいぐるみ使ったでしょ。なかった方が強いって!」

「なーんのことだか。まぁ、死ぬのには興味ありますけど、わざと負けるなんてことしませんってー」

「ぐぬぬ、おちゃらけやがって」

「それで、優勝賞品はなんだったの?」

「経験値を増やすっていうのだけど、怪しいから金貨にした」

「勿体なー!」


 (正直、ゲームとかでもほとんど経験値増加なかったのによくわからん奴の試薬品とか危険以外のなにものでもないが、言えねー)


「俺は金貨の方が嬉しいよ。先の金より今の金。金貨10枚、それで十分」


 ユウヤが金貨10枚という大金を喜んでいる中、エスタントアは別の方向を向いていた。

 気になってユウヤが顔を上げる直前に肩をトントンと叩かれて声をかけられる。


「よっ、エスタントアとユウヤ」

「あ、ハンスかよ」

「なんだよ。会えなかったのにその言い方さぁ。試合した仲じゃんか」


「別に仲いいってわけじゃないの?」


 会話をしていると、エスタントアがそう聞いてきた。微妙な事でありユウヤとハンスは言葉に詰まる。事実、仲がいいかといえば仲がいい方だ。しかし、試合観戦で盛り上がっただけで、日常で一緒にいてどうかなどは全くもってわからない。


「……仲、いいよ。たぶん」


 ユウヤがエスタントアの一言を否定した。ハンスが意外そうな顔に変わる。


「うぃ〜」

「あはは……」


 ハンスが手を出したので、ユウヤも乾いた笑いをしながら手を出してハイタッチをする。その後はハンスとエスタントアが軽い会話をして、闘技大会の個人戦で戦うことを約束した。

 ユウヤは(正直、手応えあるやついなかったから行くかな?)と考えながら――


 気づけばユウヤの周りに人混みができていた。


「サインくださーい」

「試合、一人で凄かったです!」

「なにこれ……」


 エスタントアは逃げようとするが二位ということもあり、ユウヤとともに人混みに紛れてしまった。

 サダバクが人混みの多さからユウヤとエスタントアを見つける。


「帰るぞ。ユウヤ、エスタントア」

「早く、早く、転移魔法」

「プリーズぅ!」


 シュンっと一瞬にして冒険者ギルドに転移する。

 すっかりと夕方になっていて、何もすることはないので各自で家に帰る。

 ユウヤは闘技大会から支給された飯を食べながら帰る。


「――ベッド硬い」


 ◆■◆■◆■


 起きて身支度を整えクレナに挨拶を交わした後、冒険者ギルドに行く。

 クインとニィナが居た。

 久しぶりの再開。


「よぉ」


 ユウヤからの最初の一言は「光る指輪どした?」だった。クインがえっ?という反応をしている。


「今?」


 確かにクインの指を見ると、目立っていた指輪はない。だが、流石の言葉にニィナからもツッコミが入る。


「実際、トレードマークが消えるのって戸惑うでしょうが、今ではないかと……」

「まぁ、それもそうか。よぉ! クインとニィナ!」

「久しぶりですね」

「久しぶり」


 ユウヤが挨拶をすると、クインとニィナからしっかり挨拶が返ってきた。ユウヤは口角が上がっており、二人が戻ってきたことを嬉しがっている。


「親への説得、大変だった?」

「大変、大変。さっき指輪の話したけど、今はそれで作られた分身なんだよね。それくらいしか許されてはない」

「ニィナは?」

「友人は俺が終わってから、すぐに説得出来た」

「どんな感じだったん?」

「厳しかったけど、嵐みたいにすぐ去った」


 クインがすぐに説明をしてくれた。ニィナは喋らないのかとユウヤは気になっていると、顔を逸らしていて少し赤くなっていた。


「どうして、ニィナが喋んないんだ?」

「あぁ、友人の説得に俺も参加したんだが、少し言葉選択をミスったみたいでな。拗ねてんだよ。まぁ、話にくいってほどのことじゃないし、聞きたいことがあるなら全然バッチコイだ」


 (正直、共鳴を使ってないが、嬉しんでそうなんだがなー)とユウヤは考える。

 悩んでいる時にユウヤが迷宮に誘い、魔人の時に一緒にいた三人組が冒険者ギルドに来た。


「よぉ、ユウヤ」

「こんにちはー」

「……」

「おう、皆おはよう!」


 コウジナははきはきとした挨拶、ライミは非常に軽い挨拶、ユナは何回か普通に話していたがクインなどがいるからか恥ずかしがって会釈のみだった。

 クインがユウヤに関心の目を向ける。


「友人が出来たんだな」

「そっちほどじゃないよ」

「まぁ、そうなのか? うーん、まぁ、そうかな。たぶん」

「クインって、友人とめっちゃ言うからねー」


 あははーと軽い談笑だが、楽しいひと時だ。

 そこから、また時間が経つとエスタントアがやってきた。


「おはよう。ユウヤ、って誰? ……もしかして、話に出してたクインってやつとニィナってやつか」

「まぁ、そうだな」


「それじゃ、今いるってことは迷宮いけるんでしょ? 迷宮行こうよ」

「どうする?友人」

「私は大丈夫だし行こっか」


 四人パーティーを組んでから、迷宮に向かった

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