第3話 魔人

 金属プレートを見ていたからかそのような能力があったからか、サダバクは魔法による探知まで気配に気がつかなかった。

 え?という小さな呟きをしながらも、鼓動は激しくなっていく。

 サダバクの目に映っていたのは、死んだであろうかつての友であった。


「よう、サダバク。ラフトだよ。お前の仲間の」

「……」


 サダバクは目を見開いて無言。ただ、ラフトはどんどんと近づいてくる。ついには、互いが触れられる距離になってしまった。ラフトはハグでもしたいのか手を広げている。

 はぁ、とサダバク息を漏らし―――


 殴る!


 そして、吹っ飛んだ追撃の体勢に入る。ラフトは吹き飛ばされるも、姿勢を整えていた。


「これで生きてるなら本物だなァ?てめぇ、今までどこいってやがったんだ?!」

「あっはっは、仲間と会議?にかな」

「……悲しいよ。生きてたんなら、すぐ会いに来て欲しかった」

「すまんね」


 静寂が数秒程続く。


『本人がこんなこと言うのもなんだが、気色悪いな。しかも、ユウヤの方は全く知らないだろうし、こんなの見せつけられてつまらなくねぇか?』

『まぁ、乙女みたいって思っただけだよ』


 ユウヤ、サダバク、グルミは関係のない話を延々と話し続けていたが、少し面白そうなところで一言二言話す。


「お前を勧誘しにきたんだ。魔人にならないか?」

「俺は魔族側に堕ちる気はない」

「……結構、危ないところなんだ。そろそろどでかいのが始まるんだよ。まだ、魔人になれば間に合う。それに魔族と呼ばれるほど、人材がないんだ。お前だけが頼りだ」


 サダバクはすぐに言葉に割って入り断る。ただ、ラフトは本当に焦っているようで、サダバクの言葉を無視して早口で言葉を紡ぎ続けた。


「……」


 無言。ラフトとは対照的にサダバクは余裕そうな楽観的な表情。


「ふぅ、まぁ俺のスキルで来ないって分かりきってるのに、奇跡が起きないかって来てみたんだが」


 ラフトが独り言を呟いた。手で頭を押さえながら発した言葉は掠れているものだった。


「そういえば、『読書』のアビリティが合ったよな。特定の人物の過去と少し先の未来が見える。今まで、外れたことはなかったよな。自分も含まれてたはずだ。わざと、なのか?」


『や、ややこしくなってきた!』

『集中力切らして、途中で記憶とぎらすなよ』

『分かってるよ。グルミ』

『こういうアビリティは制御が難しくて、ある意味簡単だったりするんだ。あんま、言ってやんなよ。グルミ』

『おぅ、分かった分かった』


「あれは、そうだねぇ。わざとではないと言えるかな。分からないなぁ。お前は俺が先天的アビリティってこと知ってるだろ?」

「先天特有の特殊効果か」


 アビリティというのは謎がまだ多い。いや、スキルだけでも分かっていることは少ない。


「それの影響で従い続けてたんだけど、突然俺は神から加護を貰ったんだよ。正直、その時は驚いたよ。流石に神から加護受けるなんてことは初めてでさ。それで未来の俺は契約をしたようだからまた従って契約した」

「神、ねぇ……」

「そこからは魔人の連中に会ったりで大忙し。でも、お前らの未来は見続けてたぞ〜。そこで未来が変わったのが分かった!おそらく、ユウヤってやつのおかげだよ。もしかしたら、未来変わるかも〜って感じ」

「そうか。都合よく変わるかもって思った訳だな。……でも、俺には妻がいるしな。厳しい。それにグルミや冒険をやめねぇ奴らもいるんだよな」

「ま、そうだよな……駄目、だったかぁ」


 ラフトは上を向いて天を仰いだ。「ただ―――」そうサダバクが言うと、サダバクの方に顔を向け直した。


「久しぶりに会ったし、勝ったら言うこと聞くってことにしようぜ」

「……。はは!やろう」


『これ、実際は負けてて、これ見てる間に急に襲ってくるとかないよね?』

『無い!』


 ラフト、サダバクはストレッチをしたと思いきや、すぐに戦闘となった。

 まずは、殴りと蹴りの純粋な肉体勝負。

 サダバクが一方的に殴られ続けていた。全て分かっている、しかも肉体性能が違いすぎた。


 それが終われば魔法、スキルでの対抗に発展していった。サダバクは戦闘をしながら、ダガーを取り出して詠唱を始めだす。その所作一つ一つから魔術的な何かを感じる。


「『根源に到達せし者に請う。不浄、悪、業を背負う者へ。断罪!何にせむとするぞ。秩序に!』」

「! その魔法」


 ズンッズンッッズンッッッとサダバクの体全体が鼓動する。この間にも戦闘の手をやめない。シャッという音と共にラフトの胴の皮を切った。サダバクが勢いをためてラフトを蹴ると、ガンッと壁にぶつかる音が聞こえてきた。


 身体能力が異様な上がり方をしたと思いきや一気に詰めて、魔法を放った。


「«ネメシス»」


 舌打ちをしながらもラフトは素手でその攻撃をいともたやすく受け止める。バチバチッと稲妻が見えるが握り固めた拳を緩めると治っていた。


「お、やっぱ、神の加護っていうだけあるな」

「いきなりこれは鬼畜以外の言葉はでないぞ。笑ってごまかすなよ〜」

「はは」

「ウッザー」


 何かを思い出したかのようにラフトの顔が変わった。


「帰るかー」

「マジ?まだ、勝負はこれからってとこでか?」

「あぁ、すまないな。……これ覚えてるか?何割!お前は力をだした?」

「はっ、俺は2割」

「俺は8割だー!ふふっじゃあなっ」


 ラフトは移動系の魔法を使って即座に帰る。


『?』

『あぁ、ユウヤは知らんよな〜。昔は仲間内でよく模擬戦闘を繰り返してたんだよ。そん時の言葉だ。なっつかしぃなー』

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