第2話 借金
ユウヤは自分の家を見て思わず、
「ボロすぎ」
と、呟いてしまった。
今までの綺麗な建築物とは違い、寂れていて明らかに年数が経っている木造の建物。
床も木で出来ているようだが、そこからは軋む音がしてきて、いつ壊れるのか分からない。
「金は無いけど、下水道はあってよかったな。トイレとかは使ってるだろ?」
「……まぁ、そうだけど、やっぱりボロいんだよ」
「けど、いくらボロくてもさぁ、ここにも家賃は掛かるだろ?そういえば、借金の金貨100枚はどう返すつもりなんだ?」
急にクインが借金の話をしだした。
この体が何か事業で失敗した訳ではなく、親が借金をして逃亡して残された俺に課せられたものだ。
おそらく、クインならば払えなくないが、そういう奴じゃあないだろう。
お気に入りでも油断すれば………
しかも、金貨の価値が上がってきているようで、かなり厳しい状態と言えるだろう。
ただ、借金をしているなら口実が出来る。
「………今やってる仕事を辞めて迷宮に入ろうと思うよ。危険はあるけど、大金を得れるかもしれないし、何でも叶える
「まぁ、それしか、ユウヤに道は無いよな。俺がユウヤの武器を買ってやるよ」
クインはどのモードでも金持ちで、色々と奢ったり金を払ってくれる奴で、そこはゲームの時となんら変わっていないようだ。
クインが金を返せなんて言えば、ユウヤはそんなことが出来ないので、この友人関係はクインの気分次第ということになっている。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「銅貨四枚か。下から三つめの貨幣だっけ。鉄銭と銅貨の間が思い出せない。いや、気にするのは今じゃない。この短剣と青銅の短剣を買おう」
ユウヤが手に持っているのは、刃渡り二十センチほどの鉄と青銅の短剣である。
青銅は護身用の短剣で、鉄の方は戦闘用兼解体用にする。青銅の短剣は鉄の短剣の予備だ。
クインも雄也のために武器を考えていたらしく、装飾はされていないが、無骨で決して安くはない槍を携えてきた。
「ユウヤ、初心者は槍の方がいいんじゃないか?」
「…ん、あぁ、槍は不遇だから使わない」
「?」
「…槍、不遇、理解―――「できないよ」
クインがめっちゃ食い気味で割り込んでくる。
こいつ、そんなに槍が好きだったか?逆に罵っていた時の方が多い気がする―――そんな考えがちらつくが説明をしていく。
「ん〜、最下層の魔神の武器が槍だから流派が少ない、らしい。いや、聖神が槍で殺されたんだっけかな。後、流派に入る条件も厳しいし」
「戦争でも使ってるけど」
「あくまで、伝承から考えてるだけだよ。まぁ、俺の考えだと槍は結構強いから均等にしようとしつるんじゃない?」
「それじゃあ、それを封じ込めた聖神が持っていたとされる短剣とかは優遇されてるのか?」
「…されてはいるよ。けど、槍の次に不遇」
「悲しいなぁ。俺、槍の神器が好きだったのに」
「え?何か言った?」
「ううん、なんでもない」
クインは本気で落ち込んでいるらしく、首をさすりながら目をうろつかせている。ゲームではこんなことは一度も無いからかなり貴重だろう。
―――ゲームではこういう説明もクインにしてもらっていたので、違和感がある。そういえば、この伝承が出てきた最後に、育てきった主人公でさえ勝てない敵が出されていた。最後の最後で負けイベである。
そのエンディングの条件は、霊薬『エリクサー』か指輪の『エーテル』を持つことだった。
『エリクサー』だけなら強い奴を回復させたとかで済むんだが、『エーテル』は魂を昇華するという説明がされている強化アイテムとなっていたはず。
そう考えている内に気まずいのか、クインが話掛けてきた。
「なぁ、近くの防具屋で何か買うか?」
「…いや、今はまだ大丈夫かな。速さをなるべく落としたくないんだ」
「それだったら、皮装備なら大丈夫だろ」
「…こっから防具屋の名札とか見ると『祝福済み』とか書いてるだろ?これって、頑丈になる代わりに素早さを低下させるんだ。買うなら防具作ってるところで直接購入だな」
そう言って、そそくさと武器屋から出ていく。
目標地点は冒険者ギルド。
傭兵などの職業以外に迷宮に入るには、資格を取りやすい冒険者にならなければいけないからだ。
「冒険者ギルド行くけど、一緒についてく?」
「あぁ、俺も登録しようかな」
「…そうか、分かった。市民表を出しとけよ。登録に必要だからな」
会話せず冒険者ギルドに向かって歩いていたが、クインの様子がおかしくなる。
「どうしたの?クイン」
「いや、ユウヤの反応がいつもより遅いのが気になっただけだよ」
「…あぁ、ちょっと(思考が定まらないことを言っていいのか?それか、今の俺は混ざっていることを)………寝不足なだけだよ」
「そっか」
クインはすごく落ち込んでいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
冒険者ギルドは酒場と連結しているらしく、昼間なのに酒の匂いがキツイ。
「登録に来ました。クインとユウヤです」
受付嬢の仕事は異常なまでに早かった。
ユウヤ達が市民表を渡すと、即座に金属プレートに写し込む。
ゲームではランク等級やレベル、ステータスまで載っていて、それが随時更新されていくシステムだったはず。
「ここに指を置いてください」
雄也が四角い箱のへこんでいる部分に指を置くと、クインも真似をして置く。
すると一瞬、金属プレートが淡い光を放った。
魔力吸収をする際に現れる光らしく、金属プレートが魔力を微弱に吸い続けて、いつでもどこでも見られるようになる。
「はい、登録を完了しました。再発行をする際は有料になるので、気を付けておいてください。今は、ちょうど研修をする時間ですので、よろしければどうぞお使いください。あちらの廊下を通った先の部屋で受けられます」
「はい、ありがとうございました」
「クイン、色々とありがとな」
寝不足だと何か変なことをするかもしれないとクインに色々と任せてしまったので、雄也は感謝を告げたのだ。
「いいってことよ!」
紐がついてるので肩に掛けて、色々と見てみる。
――――――――――
職業:無 レベル《段階》1 スキル:無 アビリティ:
状態:魂の解離
名声1 カライ・ユウヤ
――――――――――
スキルは後天的な能力、アビリティは固有、もしくは先天的な能力の事だ。ゲームでは主人公とか決まったキャラしか出なかった。
「へぇ〜」
(状態:魂の解離、原理は分からないがもっとも天に近い状態―――ディスってないか?老人に後少しで死にますねと言うレベルでクソだぞ)
ただ、そのことで冒険者ギルドに言いつけることは出来ないので怒りを抑える。
「ステータス、いや、等級すらない。どういうことだこれは?迷宮は階層で強さがなんとなく分かるけど、外の魔物に対応出来ないだろ。いきなり、計画、破綻するかも……」
「なぁなぁ、名声ってなんだ?」
「…名声は成長度を表してるから集めた方がいいやつだな。尊敬とかされると増えるよ。自分の
これが武器を持たずに護身用の短剣を持つ(レベルを上げようとしない)理由だ。雄也達が研修を受けに行こうとすると、一人の男が絡んできて大声で喋りだした。
「ハッハハハ!お前みたいな弱っちい奴来てもすぐ死んじまうぜ。なぁ、みんな!」
「そうだ!そうだ!」
「遊びじゃねんだぞ!」
あまり歓迎はされていない様子だ。
ただ、有り難い。序盤で名声を早く集めることは難しいから、ここで宣言か何かをすれば注目をしてくれることでユウヤは彼に感謝すらするだろう。
しかし、クインの方はかなり切れている。
「うざいんだけど」
「何がウザいんだけど……だよ!」
「―――」
「―――――!」
うはっ、クインが色々と喋ったらいけないことバンバンいっちゃってるよ、と内心で笑いながらもそれを堪えて宣言を始める。
「…うんとそんなら、一番いい方法は………皆さ〜ん、注目!はい、私、カライ・ユウヤは!今まで人類、いや、エルフやドワーフでさえ到達出来なかった五十階層に行くことを宣言します!」
「アッハハハハ!ばっかじゃねえの?」
「おっ、言うじゃねぇか!いいぞいいぞぉ〜!」
冒険者ギルドは大盛りあがりだ。
急いで名声を集めたいと思っていたが、意外と早く集まりそうである。
「ははっ、それじゃあ、俺は未来のスターに教えを説いてやろうかなっ!」
「うるせぇ!顔見るとイライラすんだよ」
連続で突っかかってきた男の顔に拳をお見舞いすると、四つん這いの姿勢になる。
鼻血がダラダラとたれている。
「ふがっ……ぁっ…ぁ!」
少し者だけが引いてるが気にしない。ユウヤは名声を得られて最高潮、他の者は面白い奴を見れて最高潮である。
「―――これで名声は15か。意外と基準が緩い。うん、後でこいつらは噂流すかもしれないし、いい感じだ。じゃ!さよなら!クイン、いくよ」
「あっ、ああ!」
研修の場所であるギルドの訓練場に向かう。
クインは雄也の事を心配しながらも、ソワソワしている。
「五十階層を目指すって本当か?後、急に人殴ってさ、そんなに怒ってたのか?大丈夫?」
「…まぁ、本当だよ。それに、そうだよな。(なんで俺、殴ったんだっけ)ごめん。変なことしちゃったよ」
「……俺も言い方が悪かったな。まぁ、スカッとしたしいいな。あんな事なんか」
五十階層――それは主人公が一部作で到達出来る最高地点だが、本当は過去にもいるらしく、一つの迷宮に一つ石板が置いてあって、迷宮のどこまで行ったのか載っているのだが、誰かが【稀代の英雄譚】の物語の数ヶ月前に消したようだ。
普通の人は、四十一階層まで行ったことしか知らない。
「お前らは研修を受けにきたのか?」
話しかけてきたきたのは、褐色の肌にスキンヘッドで筋骨隆々な大男。
「はい、そうです」
「それじゃあ、他の研修生がいるあそこに行け。俺が指さしてるところだ」
訓練所と書いてあるところの手前に指をさす。
お礼をした後に部屋へ入ると、椅子と机がおいてあり、すでに座っている人がかなりいた。
「案外、人が多いね」
「そうだな。俺が知ってるのと違うところがあるだろし、頑張ってこう」
「―――こんにちは。君も冒険者成り立て?」
次に話しかけてきたのは、鋭い爪と尻尾がついている亜人の女の子。
これだけでも珍しいので忘れないような見た目をしているが、整った顔立ちで色白の肌、翡翠の眼とラピスラズリ色の髪などで非常に美しい容姿だ。
しかし、白髪の女性には及ばない。
「何か用ですか?」
「いやぁ、竜人の友人がいなくてね。他の亜人はいるけど、団体だから入りにくくて……えへへ」
「それで、あわよくばパーティに?」
クインが嫌味な事を言ってきた。大丈夫かなと考えつつ、竜人の方を見てみるとそんなに気にしていないような様子だった。
「そうだね!私はニィナ」
「…ユウヤだ。よろしく………どっかであった?」
「いや、ないですよ」
「そっか」
「それじゃあ、これからは友達だ!これからよろしくね。友人っ」
一瞬、クインに得体の知れない恐怖を感じた。
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