迷宮回生〜魔法のある世界に転生した高校生、名声を集めて楽しみながら最強を目指す〜

ともだち

第一章 終わりの始まりを

第1話 浸透

 オルゴールのような音が響く中、男は一人で本を読んでいた。

 ―――昔々、魔神と聖神がいました。

 二体はとても仲が良く、そのうえ絶大な力を持っていました。そして、―――。

 ただ、何が魔神をそう変えてしまったのか聖神と敵対し戦争を起こしました。―――。

 魔神は血反吐を吐き体がボロボロになりながら言った。

「このままで終われるか!こんな、ところで絶対に絶対に絶対に終わらせない!終わらせられてたまるか!」

 聖神は体の端が溶けかけながらこう言った。

「もう終わりだ」

 その後、■■《聖神》は魔神の遺体を各地に散りばめていくのだった。


「はぁ………」


 ◆◇◆◇◆◇


「ふあ〜あ」


 寝ぼけている彼の名前は賀来雄也、の高校1年生。

 父と母との三人家族ではあるが、そんなに金がある訳でもなく、マンションで暮らしている。


「いってらっしゃい。父さん、母さん」

「ちゃんと、食事取ってよ。夏休みで外に出る予定は無いって言ったからには勉強もね」

「それじゃあ、三日間の旅行を楽しんでくるよ」


 両親はドアの鍵を閉めて、沖縄旅行に行った。

 ただ、雄也は忘れん坊で面倒くさがりのため、行かなかった。

 雄也は息をついて充電器からスマホを取り出して、パスワードを打ち込んでゲームをしだした。

 そのゲームの名前は【稀代の英雄譚】である。

 魔法と剣の世界で、迷宮に魅入られた者達が最下層へ向かって深く潜っていくという物だが、ストーリーと設定がかなりまとめられており、ゲームの操作性が抜群だ。


「【稀代の英雄譚】、色々なゲーム機でも出来るようにすのは良いけど、三部作目早く来ないかな?とか気になるなぁ」


 雄也は声を漏らしながらソファに寝そべる。

 ただ【稀代の英雄譚】とは、一作品でここまでの人気を得た―――というわけでもなく、今回の作品で三部作になる。超が付くほどの有名な神ゲーだが、同時に鬼畜ゲーでもある。

 レベルとかでを仕掛けてくるのだ。


「LINEからメールが……『攻略法教えてちょ』?途中で途切れてるのか判断しにくいな」


 友達からのメールだ。相変わらず、主語が抜けているが、友達もこのゲームにハマっているので、十中八九【稀代の英雄譚】のことだろう。


「『金とか集めるものは全部集めとかないと、後々きついぞ』っと……はやいな『集め方分からん』〜?『迷宮潜って戦わずに逃げながら、宝箱を探していけ。このやり方、最初は楽しくないがさくさく進むようになるはず。後、死んでもいいから、回数を増やしていけ』」


 なるべく簡潔に文を書いて友達に送信する。


「そんなことは置いといて、親がいないんだし服洗わんと」


 何事のない日常が過ぎていくと思っていた。




 ―――だが、事件が起きた。


「火事だあ!火事が起きたぞ!」

「え?」


 外から声が聞こえて、急いで確認をするために窓の外に出ると、すぐ真下まで炎が迫ってきていたのが分かった。

 炎の熱波がこちらに伝わってくる。


「熱っ!早く下にいかないと!どういうことだ!」


 火災が発生した部屋がこの部屋の近くだったからか、もうすぐそこまで火がきている。


 突然ではあるが雄也は、‘‘死ぬ’’と思ったことは何度かあった。



 その度に雄也は自ら行動して生き延びていたが、今回は助かりそうにない。

 マンションは下から火事になり、消防士は高層マンションで人員が足りていないし、他の人を助けていて到底間に合いそうにない。

 ただ、それにしても火の回りが早すぎた。雄也の頭の中である言葉が過る。


 ―――欠陥住宅


「くそ、マンションがぁっ!たす…けて……しにたくない!死にたくないっ!死にたくなァいッ!」


 身は焼かれ焦げ始めて、肺は爛れて声が出なくなってきた。

 情けない叫びが、最後の言葉になるなんて―――


 賀来 雄也は享年16歳でその生涯を終えた。


「こんにちは」

「……え?」


 いきなり声をかけられ、振り向けば白髪で蒼色の眼をした女性だった。あったはずの足場が消え、真っ黒な空間に入る。


「可哀想に―――」


 それが最後の言葉だった。

 火事の時と違った熱さと落ちる感覚を味わいながら、意識は完全に覚醒する。


「……そよ風を感じる。もう、痛くない。ってどこだよここっ!?」


 辺りを見回すと洋風の、レンガをふんだんに使った建物が建ち並んでいることに気が付いた。

 教会のような建物があったりと少し興味が湧いてしまうような光景。そして、多少気になるような匂いがする。

 ただ、一本の細長い影があったので、その出処を見てみると、そこにあるのは異様で場違いな程高い、塔が建っていた。

 ―――ゲームのパックにも迷宮の光景が載っていたりするが、あれはなんの意味のない飾りで、目印のようなものだ。


「……ムービーで見た【稀代の英雄譚】の‘‘脳’’の迷宮?どういうことだ?」


 突然の出来事による困惑と恐怖によってユウヤの動悸が激しくなり、どんどん息が浅くなってくる。

 耐え難い嗚咽を何度も繰り返す。

 周りの視線と体に対する違和感を気にし始めて、俯いた後しゃがんだ。


「というか、俺はあの後どうなったんだ?家族は、友人は!?どうなってるんだ?オカシイオカシイオカシイオカシイ!」


 そんな言葉もそんな思考も、知らない記憶が湧いてきて違和感は掻き消されてしまった。

(そういえば、漫画とかだと転生者とかいるよな。いや、ここだと星渡りっていう名称だったな。確か、主人公もそうだった)

 ユウヤは一瞬にして気が抜けた状態になってしまった。

 

「―――おい!ユウヤ?どうした?お〜い、カライ?……ユウヤっ!」

「!?」


 もしかして、自分の名前を呼ばれているのかと思い、驚きながらも顔を上げて見ればゲームによく登場していた人物だった。

 白髪で碧眼へきがんの美少年。


「クイン………」


 クイン―――皆から悪魔とよばれている男だ。

 このゲームはイージーモードなどで地位が変わったり友好関係が変わるのだが、どんな奴にも友人と言ってきては、迷宮に誘う最初のキャラで、それぞれの難易度で違う時刻に呼び出してくる。

 そこで分かる範囲だが、数人を同日に同じ言葉で誘っている。何人餌食になったのかは考察が繰り広げられていた。参考にならないが、2には何故か‘‘同時刻’’別の場所で誘っていた。

 他にも理由はあるが、置いておこう。


「ほら、家に行こうぜ。ユウヤ」


(こいつは友人としか言ってこないから、俺の名前を言われるのは違和感しか感じない。

 声はムービーの時と同じなんだが、感情がのってるしで印象がかなり変わる。

 ―――というか、家?)

 今までの、全ての記憶が流れてきて脳の処理が追いつかず、頭痛がおきて吐き気を催す。


「……そうか、こいつ《体》の記憶が割り込んできて違和感が薄かったのか……普通だったらもっと大慌てだったな」


 ユウヤの記憶に一々混ざってきて壊れてく。そのせいでか思考が定まらない。ストレスが溜まっていく。記憶に齟齬が生まれてしまっている可能性があるので、とりあえずはクインについていくことにした。

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