アリとくも

君影草(すずらん)

1話完結

「あっ! アリが並んでるぞ?!」


 突然頭上から大きな声がして一瞬歩みを止めてしまった。地面に大きな影が落ちる。(あっこれは危険だ――)そう判断するのに一秒もかからなかった。


 ぐちゃ。


 目の前にいた仲間が横たわっている。動く気配がない。死んだ――。すぐに分かった。


「み、みんな逃げろ……!」


 咄嗟に声を出すが既に遅かったようで、何匹かの仲間が倒れている。一気に仲間が散らばっていく。砂糖を運んでいたアリも、今から食べ物を取りに行こうとしていたアリも。


 ぐちゃ。


 ぐちゃ。


 逃げているけれど、躊躇いなく足が降ってくる。アリの足の速さでは到底逃げられない。どうしよう……どうしよう……。


「と、とりあえず穴に逃げろ!」


 声を張り上げていったものの子供の声にかき消された。


「うわぁ、穴に逃げてやがるっ! 潰そうぜ!」


 ざっざっ。


 近くの穴に誘導をしようとするが、その前に塞がれてしまった。


「アリって踏んだら雨降るんだろ?」

「あんなの信じるやついるのかよ。絶対降らないから!」


 楽しいおもちゃを見つけたように足を落としてくる。こっちは逃げることに必死だって言うのに……。無惨なことをしてくる……。


「ど、どうしよう……逃げ場がないよ……」


 近くの仲間が嘆いている。穴が塞がれた。逃げ場はない。僕たちこのまま死ぬんじゃ――。


 ボタッ。


 ボタッ。ボタッ。ボタッ。


 地面に突然大きな何かが落ちてきた。落ちた場所は丸く、色が濃くなっている。


「うわっ。まじかよ」

「アリ踏むと雨降る噂って本当なのかよ!」

「おい! 早く帰ろうぜ!」


 子供達は逃げるように走ってどこかに行ってしまった。色の変わった地面を歩いてみると濡れている。


「……雨か」


 ボタッと落ちてくるものの正体は水滴だった。さっきまで青かった空は灰色に染まっている。


「ありがとう。また助けてくれたのかい?」


 空に向かって声をかけると、くもの一部が顔の形になった。


「俺らにはこれぐらいしかできないけどな。あーあ、今回もたくさん潰されちまったな。もう少し早く来れたらよかったんだが」

「いや、半分以上は生き残った。ありがとう」


 雲は僕たちを助けてくれる。何度助けられたか分からないくらい。


「またなんかあったらすぐ呼んでくれ。雨くらいいつでも降らせてやる」


 そう言い残して雲の形は元に戻った。ボタッと落ちる雨ではなくポツッと落ちる雨に変わる。しばらくは雨を降らしてくれるだろう。


「よし! もう一回巣を掘り直そう。雨が降っている間が勝負だ!」


 生き残った仲間に声をかける。いろいろな場所に散っていた仲間が戻ってきて潰された穴を再度掘り始めた。


 その向こうには動かない仲間たちが雨に打たれている。


「どうして友達を失うことをしてくるかなぁ……」


 僕は今日も悩むのだった。そして仲間と共に穴を再度掘り始めた。

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アリとくも 君影草(すずらん) @Kimikage_0502

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