南方戦争19
『んん??』
最初にそれに気がついたのはE_66304だった。
『『重層結界』』
(本体が、というのは考え難い。あそこを襲撃したとしたら、もっと護衛の機械兵とのドンパチ音が響くはず。機械兵をものともしない強者なら、それこそ衛星ごと吹き飛ばすレベル。ここまで無音なんてあり得ないよね。となると)
E_66304は宙を見上げた。そして思う。ああやっぱり、と。
遥か上空、■■■■■の影響の有無のちょうど境目に造られた中継衛星。全長数キロメートルはあるその巨体の一部に、丸々とした穴が空いていた。
そういえば、この戦場にはもう一人あれを壊せる奴が居た。そのことに思い至り、E_66304はミロクを睨み付けた。
『しょうがないし、直しに行くかぁ。この戦場、あとは頼んだよ』
『承知致しました』
九機の少女が一斉に頭を下げる。
『E_66304がログアウト致しました』
接続断絶から0.05秒。戦場からE_66304が姿を消した。
「おん?」
傭兵は剣先に感じた感触の違いに頭を傾げた。先ほどまでと同様にE_66304の本体へと攻撃を仕掛けたら、機械とは別の感触。そう、結界のようなものに弾かれた感触が伝わってきたからだ。
『マイマスターの言い付けにより、此れより
加えて先ほどまでのプレイヤーとは明らかに別の存在が動かしている目の前の機体。
(こりゃなんかあったな。んで、あのE_なんたらが離れなきゃいけねぇ事態となると、、、)
「お前らぁ!!攻め時だ!!!あの機械女どもは今回復出来ない状態だ!!嘘だと思うんならオルジア系列のサイトに入ろうとしてみろ。もう一度言うぞ、攻め時だ!!!」
「「「「「おおおおおおおおお!!!!」」」」」
事態が把握できたプレイヤーたちが、一気に盛り上がる。確かに硬い。だが、幾人かは攻撃が通るプレイヤーは居る。回復しないのなら、勝てるんじゃないか?そんな空気が場を支配した。
『結界等のスキルも考慮していただかないことには判断しかねるのではないかと、、、』
『いえ、元々マイマスターはこのプレイヤーらを楽しませることを目的として降りられた。ではここは何も言わないことが吉?』
10機の機械の少女たちの疑問は、プレイヤーたちの熱気によってかき消された。
──────────────────────
「おや?」
次に気がついたのはデザイアだった。受信機を取り込むことで中継衛星からエネルギーを無断でちょろまかしていた彼女にとって、この状況はかなりまずいものだった。
「どうかしたか?虫ケラ。回復が出来なくなったりでもしたのか?」
根を突き刺されていたデザイアが、吸収されて消える。
総数が、1499体に減った。
「この俺に喧嘩を売っておいて、まさか回復出来なくなったから逃げます、などと言うつもりはないだろうなぁ?」
「ええ。勿論ですとも」
吸収され尽くせば消える。ではどうすれば良いのか。
「『蠱毒・致死毒八種』『蠱毒・阻害毒十四種』『蠱毒・枯渇毒七種』」
死ぬ前に殺しきれば良いのだ。
デザイアは自身の扱える毒を互いに喰わせ、より強力な毒へと変貌させていく。キリシマ本体へと突き刺し、確実に殺す為に。
今までのように、毒で枝や根を払ったりはしない。例え直後に切断されるとしても、多少の耐性がついてしまう。ただでさえ今までの蓄積でキリシマは毒へかなりの耐性をつけているのだから。
迫り来る蔦、枝、根を避け、躱し、時には後方から撃ち消させて進んでいく。
一体、一体と自分が消えるのを感じつつ、キリシマへと駆ける。
「あら、開戦以来の対面ですね」
「不本意ながらな」
そして、再びお互いに姿を視界に捉える。残りの距離はもう20メートルもない。あと数歩でデザイアがキリシマへと肉薄する。
ズンッ!!!!!
盾になるかのように、根が一斉に地面から突き出し、デザイアを串刺しにしようとする。
プシューー、、、ジュワァ、、、
「良いのか虫ケラ。俺を殺すための毒なんだろ?」
「ええ。その為に数種類用意していますので」
根は全て散布された毒によって腐敗し、それによって開けた道をデザイアは闊歩する。
「では、終わりにしましょうか」
「ああ。俺もいい加減虫ケラの相手は飽きたからな」
微笑みを浮かべるデザイア。睨み付けるキリシマ。静止していた二人は、風で葉が揺れる音を皮切りに行動を開始した。
デザイアはキリシマへと駆け、キリシマはデザイアへと根や葉、枝等を仕向ける。
そして、、、
ドスッ!!!!!
3体のデザイアがキリシマに貫かれ、、、横から迫っていたデザイアが、キリシマへと両腕の針を突き刺していた。
「ふふ、あはは、あははっ!!!!」
じわじわとキリシマへとデザイアの毒が駆け巡っていく。
「どうです?この毒は。虫ケラに殺される気分は?あははははは、、、なんだか負けフラグが立っている気がするのは私だけでしょうか?」
勝利し、愉悦にひたり高笑いをする悪役。自分の現状をそう評価したデザイアは、一つ疑問を抱いた。
「奇遇だな。虫ケラと意見が合うのは癪だが、俺も同意見だ」
キリシマにとってまだ未知の、自身にとって最上級の毒を二種受けて、何故まだキリシマは不愉快そうに此方を見つめられるのかと。
「ああ、成る程。
1攻撃毎に微弱ながら樹皇人が蓄積する個人への耐性。例え弱くとも、1500体もの同一人物からの攻撃を受け続ければ、確かにこの現状はあり得なくはない。デザイアはそう考えた。
「そんな単純な理屈にも気付けない虫ケラが、俺の邪魔をするな」
いつの間にか3体のデザイアを吸収し終わり、自身を突き刺すデザイアを蔦で拘束していたキリシマの、片方の手のひらからつぼみが出来る。
「折角だ。虫ケラ。お前から奪った不味いエネルギー、お前に返してやろう」
デザイアへと向けられたつぼみが、少しずつ花開いていく。
エネルギーの放射。それならばポータルで復活できてしまう。何故それを?デザイアは思考する。他の自分と共有し、思考し、それに気付く。
後方にいた自分が、文字通り拘束されている自分の後ろにしか居ないことに。同様に、森の中にいる自分も、拘束されている自分の背後以外は全て吸収されていることに。そして、自分の背後に、設置した仮設ポータルがあるこに。
「あら、してやられましたね」
デザイアはエネルギーの奔流に呑まれながら思う。次は勝つと。
───────────────────
「なんで此処にいるのかな?」
「ポータルが壊されてしまいまして」
デザイアの返答を聞き、E_66304は頭を抱える。
「はぁ。しばらく射出は出来ないから、カメラからの映像だけで我慢してて」
「ご迷惑をおかけします」
ワルーレン大陸を見下ろす中継衛星の中、デザイアは珍しく苦笑いを浮かべた。
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