第158話 【才能】検査
「さぁディルク君、こっちへ来てくれるかい?」
カイロンに案内されて、ハルマは部屋の最奥にある祭壇の前にある椅子に座らされる。ハルマの目の前にあるのは丸い鏡だ。曇り一つ無い綺麗な鏡。その鏡は正面に立つハルマの不安気な顔をくっきりと映していた。
「何か心配なことでも?」
「いえ、その……すごく今更だと思うんですけど、これでもし【
「なるほど。確かに君のように後天的に目覚める例はかなり少ない。同じような不安を抱く人はたくさんいたよ。でも心配することはない。きっと君自身のためになるような【
ハルマがずっと不安に思っていたことだった。
もし【
レイハはハルマのためにわざわざリスティリア法国にまでやって来た。これでもしやっぱり【
だからこそハルマはこの国に来てからずっと緊張していた。どんな【
「それじゃあ手を出して。手順は覚えてるかい?」
「最初に血を採るんですよね」
「そう。そしてその血を鏡の前の水皿に垂らす。神への供物として血を捧げ、【
「っ……」
カイロンがハルマの指先に針を刺す。そしてそこから流れ出る血を採取したカイロンはその血を鏡の前に置かれた水皿へと垂らした。
透明だった水がハルマの血と混じって濁る。瞬間、背後にあった機械が動き始めた。
「ディルク君は、この検査にどんな意味があると思っている?」
「検査の意味ですか? 【
「もちろんそれも正しいさ。でもね、多くの子はこの儀式をする前には【
【
「【
「でもレイハさんは【
「確かに使い方はわかるだろうね。でもそれはあくまで基礎的な使い方だ。例えるならば右足と左足を交互に出せば歩ける、みたいなね。魔力を込めれば炎が出る、程度のことしかわからない人もいるんだ。それも人によって変わる。そこで私達研究者や神に仕える者達の出番だ。【
「あんまり期待されると心配になるんですけど」
「いやいや、どんな【
カイロンの言う通りだった。【
「そうですね。もしボクにも【
「おっとすまない。話が脱線し過ぎたね。それじゃあ始めるよ。と言っても、君がすることはもうないんだけどね。検査が終わるまでの間待ってて欲しい。そう時間はかからないはずだからね」
カイロンが機械を操作している間、ハルマは完全に手持ち無沙汰になってしまう。集中しているのか、声をかけれる雰囲気でも無くなってしまった。
部屋を出ても大丈夫なのか、それともここで待っているべきなのか。迷ったすえにハルマは静かに待っていることにした。
下手に動いて集中しているカイロンの邪魔をするべきではないと思ったのだ。
そうして待ち続け、退屈のあまりハルマが欠伸を噛み殺していたその時だった。不意に視線を感じたのは。
部屋の中にいるのはカイロンとハルマだけ。そしてカイロンの視線は機械と繋がったモニターに集中している。ではこの視線はどこから向けられたものなのか。
その正体を探ろうと部屋をキョロキョロと見回し、そしてハルマは気付いた。その視線が正面に置いてあった鏡から向けられているのだと。
だがそこに映るのはハルマだけ。不思議に思っていると、不意に鏡の中の『ハルマ』がニヤリと笑みを浮かべた。
『こっちへおいでよ』
そんな言葉が聞こえた瞬間、ハルマの視界が眩い光に包まれた。
「っ!?」
あまりの眩しさに一瞬目を閉じたハルマだったが、目を開けた瞬間に驚愕する。
そこは真っ白な部屋だった。置いてあるのは二つの椅子だけ。
「いったい何が起きたの。カイロンさんっ、レイハさんっ!!」
レイハ達の名を呼んでもその音は部屋の中に虚しく響くだけだった。
「そんなに怖がることないよ。呼んだのはボクだからさ」
「え?」
声のした方へ目を向けたハルマは奇妙な感覚に襲われる。
確かに目の前にいるのに、正しく姿が認識できないのだ。男なのか女なのか、若者なのか老人なのか、確かに見えているはずなのに判然としない。
「ようこそボクの部屋へ。ボクは君達が神様って呼ぶ存在だよ」
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