第81話 レクティ、レイハと親交を深めようとする
ギルドで出会ったレイハとレクティは、ギルド職員であるフルムレアからの説得もあって一時的にチームを組むことになった。
しかし――。
「…………」
「……あー……」
レイハとレクティは仲を深めようと大衆食堂へとやって来たのだが、二人の座る席は異様な空気に包まれていた。
原因はレクティの前に座るレイハのせいだ。会話を拒絶するかのような冷たい雰囲気。とても話しかけられる雰囲気では無かった。
だがチームを組む以上、少しでも相手のことを知る必要があった。息を合わせるためには互いのことを知る必要がある。前衛なのか後衛なのか、剣を使うのかそれとも魔法を使うのか。冒険者の依頼の中には命がけのものも多い。相手のできることを知っているのと知らないのでは違いがありすぎるのだ。
もっともレクティがレイハのことを知りたいと思うのはそれだけが理由ではないのだが。
「とりあえず何か頼むか? 腹減ってるだろ」
「必要ないわ」
「取り付く島もねぇな。あー。じゃあれだ。あたしが好きに頼むから食べたいのあったら食べてくれよ。すんませーーん!!」
レクティが店員を呼んであれこれと好き勝手に注文をする。その様子を見ながらレイハは深くため息を吐いた。
「どれだけ食べるつもりなのよあなた」
「おっ、普通に喋ってくれたな。あたしけっこう食うんだよ。っていうか食わなきゃ力出ないだろ」
レクティがポンポンと叩くのは机に立てかけるように置かれた大剣だ。身の丈ほどある大剣を振るのはかなりの力がいることだ。食べなければ力が出ないと言うのは本当なのだろう。それにしても食べ過ぎだとレイハは思うが。
一度会話が始まったのをきっかけにここぞとばかりにレクティは畳みかける。
「あらためてあたしはレクティだ。よろしくな」
「……私はレイハよ。別によろしくするつもりはないわ」
「つめてーなー。これでも冒険者としては先輩なんだぞ?」
「ただ歴が長いだけでしょ。そういうこと言いたいならせめてA級冒険者になってからにして欲しいわね」
「耳が痛いこと言うな」
今のレクティはまだB級冒険者。そしてレイハから見ればA級以下の冒険者などみな同じ。いや、もっと言ってしまえばA級冒険者も同じ。A級冒険者でようやく足元程度に認められる。
かなり傲慢で尊大な考えではあるが、この世界における最高戦力である勇者パーティと肩を並べて戦い続けてきた。レイハの中の強さの基準はかなり引き上げられていた。
「不服? なんならその身に叩き込んであげてもいいわよ。身の程ってものを」
「……ぷっ、あははははははははっ!」
「何がおかしいのよ」
「いや、お前思ったよりもガキっぽいんだなって思って」
「…………」
「っと悪い悪い。別に馬鹿にしてるわけじゃないんだ。ただあんまりにも言い方が面白くてな」
かつてレクティがレイハを見た時に感じたのは無慈悲な氷の鬼だった。あの時の冷たさは以前として残ってはいるが、こうして相対してみればそれだけではない何かを感じられる。言ってしまえば年相応らしい少女のような一面を見た気分だった。
「そんな感じだからギルドでも孤立してたんだな? もっと愛想良くしないと友達できないぞ」
「……その言い方誰を思い出してムカつくから止めてくれる?」
「っ!」
ゾワッと背筋に怖気が走る。物理的に周囲の温度が下がったような気すらした。否、実際に下がっていた。レイハの前に置かれていた水が凍り付いていたからだ。
レイハも無意識に凍らせてしまっていたのか、少しだけばつの悪そうな顔をしてため息を吐く。
「そもそも現行の制度が悪いのよ。一人じゃB級冒険者になれないなんて。無駄の極みだわ」
「まぁそう言うなって。おかげでこうやって知り合えたんだしな」
「私は別に望んでない」
「でも、一人より二人、二人より三人の方ができることも増えていいだろ」
「それは弱者の理論でしかないわ。誰かに頼らなければいけない強さなんて本当の強さじゃない。そんな強さじゃ何も守れない……私が守らなきゃいけないの。坊ちゃまのことを」
「坊ちゃま?」
「っ……なんでもないわ。それより食べるならさっさと食べたら? せっかくの料理が冷めるわよ」
深く追求するべきではないと思ったレクティはレイハの言葉に甘えて食事を始める。机の上いっぱいに広げられた料理の数々があっという間にレクティの腹の中へと消えていく。
「すごい食べ方……」
「お前は食わないのか?」
「結構よ。もう少ししたら家に帰るから」
「家……レイハもコルドに住んでるのか?」
「……少し離れた場所にね。じゃなきゃわざわざコルドにギルドに行ったりしないわ」
「あ、そりゃそうか。あたしはここに住んでるわけじゃなくて、一時的な拠点にしてるってだけなんだけどな。けっこういい街だよな。まぁ寒いのが難点か」
「何言ってるのよ。寒いからいいんでしょ。この街の冬なんか最高よ。一面雪だらけで美しくて。冷たいって最高よね」
「いやそれはもう冷たいとかそんな次元じゃないだろ……変わってるって言われないか、お前」
「……余計なお世話よ。というか、そんな話をするために私はここに来たんじゃないわ。あなたが一緒に依頼を受けてくれるっていうから来たの。それ以外の話は無駄。蛇足。邪魔」
「はいはい、わかってるよ。で、何の依頼を受けるんだ?」
「ゴブリンの討伐か盗賊の捕縛、もしくは殲滅の依頼」
「ふーん。でもそれがB級相当の依頼なのか? 盗賊の方はともかく、ゴブリンの方は普通にC級でも受けれるような依頼だと思うけどな」
「情報によればゴブリンの方はキングゴブリン、クイーンゴブリンを擁する大規模な群れらしいわ。そして盗賊の方は最近勢力を拡大してる中規模盗賊団」
「なるほどなー。確かにそりゃB級相当……って、もしかしてそれを二人で受ける気なのか? 中規模盗賊団ってことは五十人くらいはいるだろうし、ゴブリンの方なんか百匹以上いるだろ」
「それがなにか? 嫌なら名前だけ貸してくれればいい」
「そういうわけにも……あー、わかったわかった! 付き合うよ。そんな話聞かされて放っておけるわけないだろうが」
「そう。好きにすればいいわ。依頼を受けるのは明日よ。明日の朝ギルドの前に集合で。それじゃ、私は用があるから帰るわ」
「あ、おい! なんだよー。もうちょっとくらい付き合ってくれたっていいだろ」
さっさと食堂を出て行ってしまったレイハに向かって不服そうに呟くレクティ。しかしその表情はすぐに笑みへと変わった。
「でも……やっと会えた。ずっと……ずっとずっと探してたんだ。あー、明日から楽しみだな」
思いも寄らなかったレイハとの再会にレクティは心を弾ませながら目の前の料理を平らげるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます