第15話 推し

「でさ~!…って聞いてる?」

「ん?ああ、ごめん。ちょっとネットの記事みてた」


「藤本…俺と話してる時にスマホばっかり見ないでよ!」

「面倒臭い彼女かお前は」


「面倒臭いか?」

「せっかく2人でいるのにずっとスマホ見てる彼氏が悪いな。ごめん」


「良いよもう。…許す」

「いや何でだよ。私はお前の彼氏じゃねぇよ」


「で、何見てたの?」

「いや最近さ…推しが出来たんよ」


「ええ!?何、誰!?アイドル!?」

「そんなに驚くことかね」


「だって芸能人とか全然興味無かったじゃん、藤本」

「なーんかこの人は見てるだけで癒されるっていうか…」


「ほほう」

「恋する気持ちを少しだけ味わえてる気がする」


「んなぁ!?」

「何て声出してんだ」


「恋するって!恋してるのか!?」

「だからそれは秘密だって…そう言えば結局山田は好きな人いるの?いないの?」


「え。急にどうした」

「いや、前は好きな人いないって言ってたけど…その後好きな人いるっぽい反応してたし」


「あ、ああ…結局藤本が遮ったせいで俺の好きな人について語れなかったやつね」

「いや。絶対私の場合は茶化しちゃうからね」


「茶化されるのは嫌だけど…どうしても聞きたいなら教えても良いけど?」

「え。別にそこまでじゃないからいい」


「えええええええ!!?」

「まぁ、好きな人がいる事は分かった」


「ずるいなぁ。藤本が好きな人いるのかどうかすら俺は知らないのに」

「いないよ」


「!?」

「声も出ない程驚いたってか」


「いや秘密っていうから…てっきり…」

「…ふふ。知ってた?女子高生って好きな人がいる方が多いんだよ」


「そ、そうなんだ」

「うん。でも恋バナになった時『藤本は?』って聞かれて『別にいないよ』って言った時のあの空気感が分かるかい?」


「いや知らんけど」

「大半は『え~勿体なーい!恋しようよ!』みたいな人達なんだけど」


「けど?」

「深読みして『え~絶対いるでしょ!何で教えてくれないの?』って言われる事がある」


「おう…それは」

「な?面倒臭いだろ?本当にいないのにそれを証明できないじゃん?」


「悪魔の証明ってやつか」

「へぇ!よく知ってるね。山田のくせに」


「くせには余計だろがい」

「だから恋バナになったら毎回『秘密』で通してる」


「でもそれはそれで、しつこく教えてって言われねぇ?」

「ふふふ…ここでも私の必殺技が出るのだよ。山田くん」


「ほう。それは?」

「『何か進展があったら聞いてね』だ!」


「そ、それは…!」

「な?恋してるようにも聞こえるし、今は好きな人すらいないとも取れるから嘘をついた事にはならない!」


「天才がここに…!」

「でも人の話を聞くのは好きだからこれで恋バナに混ぜて貰える」


「お前…」

「何だその目は!恋をしていない人間は恋バナに参加しちゃいけねぇってか!?差別だ差別!訴えるぞ!」


「いや落ち着けよ」

「落ち着いた」


「で、今の推しは一体…」

「急に話戻すじゃん」


「結局誰か聞いてないからな」

「えっとね…この人」


「…あ。この人あれじゃん。最近よく出てくる」

「そう。女優さん。このクールビューティな感じがかっこいいし可愛いよなって」


「ふーん」

「え。興味失せてる。何故」


「男だと思ったから」

「ああん?女が女を推しちゃダメなのか?差別か?訴えるか?」


「いや一言も言ってねぇよ。どんな人がタイプなんかなって思ったら女の人だったから参考にならんなぁと思っただけで…」

「でも綺麗だと思わん?」


「まぁ…」

「この間のドラマでやってた役がさぁ!まだ若いのに全然上司役とかで…」


「…」

「でさ~!…って聞いてる?」


「ん?ああ、ごめん。ちょっとネットの記事みてた」

「…ループしてますな」

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