笑顔の秘密と甘いミルク
末千屋 コイメ
第1話
教会にサキュバスのシスターがいる。
町に住む人々には周知の事実だが、稀に旅人がなにかを勘違いして訪ねてくることがある。
その度に私が対応していては聖務に専念できないし、正直言って面倒臭い。だからと言って当のサキュバス――
「これで今月八人目ですよ」
「神父様ぁ、この人なにも悪いことしてないんやないの? 聖書で殴って良かったやの?」
「大丈夫です。神の御名において、私は私を許します」
気絶した男を担ぎ上げて、道に転がしておいた。こうしておけば、町の人が察して宿屋に運んでくれる。
サキュバスには精力が必要。そこは間違っていない。だが、性行為をする必要は無い。精力の意味を理解していない者ほど、性行為を迫ろうとする。ここは神聖な聖堂だというのに、まったく……。
だからって庭で盛られても面倒臭い。けいも
私と二人きりの時は油断しているらしく、子どもに「シスター、ツノと翼と尻尾見えてる」と言われていた。
この際見えていようが見えていまいがどちらでも良いが……、勘違いした男が来るのは困る。
「どうしてこうも旅人が訪ねてくるのか」
「さっきの人もウチをサキュバスってわかってるみたいやったやの。
「違いますよ。サキュバスだから簡単に無料でヤレると思われているだけです」
「ウチの魅力やなかったやの……!?」
と、けいは妙なところで落ち込んでいる。さっきまでふんすふんすと鼻息を荒くドヤ顔をしていたというのに、すぐに落ち込む。まあ、元気だから良いか。
サキュバスだからといって簡単に股を開いてはくれないはずだ。野良サキュバスならそうかもしれないが、きちんと営業権利証を持ってサロンを開いてるサキュバスには代価が必要になる。
もしかして、教会にいるから慈善事業で性欲発散できると思われているのか?
だとすると厄介だな。けいはサキュバスだが、一切性交渉させていない。精液の代わりに牛乳を手にしている娘だ。
「けい。今でも私の精液欲しいんですか?」
「神父様のせーえき貰えるやの? ウチのナカにたっぷり注いでやの」
「あげるわけないでしょ」
「ひどいやのー!」
どうやら欲しいのは欲しいようだ。
寝込みを襲うのがサキュバスのはずだが、けいは添い寝するだけ。むにむにしていて抱き心地が良いので、抱き枕にピッタリだ。逆さ吊りにすると言ったから恐れていて襲わないのかもしれない。
そうこうしている間に聖務日課の時間だ。
決められた時間に祭壇に向かわねば、私は司祭なのだから。
聖務を済ませ、熱心な信徒との交流も終わる。事務仕事を片付ける前にけいに指示しておかないとな。
「マンドラゴラに肥料をやっておいてください」
「わかりましたやの」
「それと、またお前目当ての旅人が来たらすぐに戻ってきてください。宿屋に連れ込まれでもしたら面倒臭い」
「神父様、ウチの心配してくれるやの?」
「いえ。お前が他の男から精力を抜くのが許せないだけです」
「やーん! 熱烈なアプローチやのー!」
両手を頬に添え、顔を真っ赤にしながらけいは出ていった。
はて? 私は何かアプローチをしたか?
庭のことはけいに任せておけば良い。私は事務仕事を終わらせよう。
特にエクソシストの報告書に早急に目を通して処理をしてやらないといけない。
これが終わったら、けいの相手をしてやるか。
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