井戸を汲むひと

Hiroe.

第1話

日照りと乾きの大地の村に 井戸をひこうと男がいった

風が吹けば砂が舞う イモも育たぬ畑であった


泥水すする村人たちは 男に集いことばを信じた

昼にも夜にも乾きがこわい 人とてヤギとて雄牛とて


村の元気な子どもたちは 男とともに道を歩いた

まなびやよりも水を求めん 幼い足で二里三里


泥水すすれば虫もでよう 顔を洗えば目も痛む

根をはる木々だけ青々と ともに生きんと訴える


日照りと乾きの大地の底に 清らな水脈絶え間なく

天にも届く長さの管を 地中深くへ貫いた


吹き出た水の冷たさよ!


泥にまみれた男の顔に 涙も枯れた女たちに

汚れを知らぬその子らに


貧しい村の男は出稼ぎ 家守りの女は子だくさん

裸足にぼろを纏っておどる 水の恵みに感謝のこだま


日照りの筋も届かぬ場所で 清らな水は待っていた

そこに見えずとも恵みはあると 我を汲めばいのちは尽きぬと


汗にまみれた焼けた肌で 男は汲み上げた水を飲む

求めるものはここにある あるがままに循環している


日照りと乾きの大地の村で 井戸のまつりが夜どおし続く

天には星々きらきらと

天地の豊穣 人の子に


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井戸を汲むひと Hiroe. @utautubasa

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