おしまい
「……真っ白な部屋……」
「…………」
「苺さん? そこに座ってるのは、苺さんで合ってますか?」
「…………」
「そこの二人は、家族ですか? それとも……」
「…………」
「隣、失礼します」
「…………」
「やっと見つけました」
「…………」
「大変だったんですよ、ここに来るまで」
「……帰らないわよ」
「それでも良いですよ」
「…………」
「…………」
「……」
「その人は、お母さんですか?」
「……それが何よ」
「優しそうな人ですね」
「……そうね」
「そっちの人は、苺さんが好きって言ってた人ですか?」
「……だったら何よ」
「イケメンだな、と思って」
「……奏揮にも、そういう感性あったのね」
「僕だって人間なので」
「…………」
「…………」
「行っとくけど、帰らないわよ」
「さっき聞きました」
「じゃあ何でずっと居るのよ」
「苺さんと話してたいからです」
「……バカじゃないの? 私と」
「やっとですね」
「は?」
「やっと僕の方、向いてくれました」
「……何それ」
「目と目が合ったら、嬉しいじゃないですか」
「そんな訳ない」
「僕は嬉しいですよ」
「そんな訳ないって言ってるでしょ!」
「……」
「私、アンタに何もしてない! 何も返してないの!」
「苺さん」
「私はアンタを見捨てたの! それで好きな人と過ごして、なのにその人は、私を好きじゃなくて! 滑稽でしょ! いくらでも笑えば」
「いい加減にしてください」
「これ以上、苺さんを馬鹿にするのは許しません」
「……………………へ」
「苺さんはいつも一生懸命で、人のために頑張れる、凄い人なんです」
「……奏揮、アンタ頭どうかした?」
「事故に巻き込まれても、前向きに生きていますし」
「そんな立派な人間じゃないわよ」
「頼んだら、一緒に戦ってくれる優しさもあります」
「……まあ、私にしかできないことだったし」
「活躍は見事でした」
「奏揮と比べて派手だから、そう見えるだけ」
「その力を無闇に自慢しない、謙虚なところも素敵です」
「結構したし、謙虚じゃないわよ」
「苺さんの素敵なところ、僕はいっぱい見てきました」
「……素敵なんかじゃ」
「だからそれ以上、苺さんを馬鹿にしたら許しません」
「…………何よ、それ」
「……」
「勝手なこと言わないで! アンタが見てるのは妄想よ! 良いところばっかり言って! 悪いところは見ないフリして!」
「別にそんなことは」
「こんな私だから、アンタは見捨てたんでしょ? 使えないって、役に立たないって……価値が無いって!」
「悪いところも言えますよ」
「はぁ!? そういうことじゃ」
「調子に乗りやすいところ。不安を隠すところ。大丈夫なフリをするところ」
「な、何よ。いきなり」
「何もできないって、自分を責めるところ」
「や…………」
「素直になれないところ」
「……やめ」
「夢中になったら、周りが見えなくなるところ」
「やめて」
「……」
「……嫌いに、ならないで」
「なりませんよ」
「嘘。なんでよ。こんな、欠陥品なのに」
「欠陥品だと思ったことはありませんけど」
「でも」
「良いところのほうがいっぱいあるから、とは言いません」
「……」
「でも僕は、苺さんの悪いところ、嫌いになれませんよ」
「……何言ってんの」
「調子に乗ってる苺さんと話すのは楽しいです。虚勢を張ってたら、支えたくなります」
「……」
「苺さんの隣にいると、色んなことが起こります。それを、苺さんと一緒に過ごすのが楽しいんです」
「……何よ、アンタ」
「……」
「そんなこと言うくせに、私に会ってくれなかったじゃない」
「それは、苺さんが話を断ってたから」
「知ってるわよ……」
「…………」
「……」
「隊長に頼んで、苺さんを部隊から外させてもらったんです」
「……は? 何で?」
「苺さん、学生生活で忙しそうだったので」
「それはそうだけど、休むほどじゃ」
「他人と付き合ったり、自分について考えるのも、学生の仕事ですよ」
「……まあ、そういう意味では忙しかったけど」
「……」
「私、戦わなきゃいけないんじゃないの」
「本来は」
「ならやっぱり、こんな私なんて」
「でもそれは、隊の仕事です。僕は、隊なんかの仕事より……今の苺さんの使命を、優先してほしかったので」
「隊なんかって。奏揮、アンタ失礼すぎない?」
「良いんです、僕と苺さんしか聞いてませんから」
「ふふ、何よそれ」
「あはは……」
「……え、じゃあ何? あの日、木曜日、あれからアンタがあの部屋に来なかったのは」
「苺さんから用事がない限り、あそこには来ない。と、思い込んでいたので」
「私に失望したからじゃなくて?」
「何でそんな考えに至るんですか」
「だって私、何度も奏揮を断って、それで」
「断ったから何ですか」
「それに一度も、そんなこと言わなかったじゃない」
「電話で伝えようとしたのですが」
「私が忙しいって言うから、伝えれなかった?」
「その通りです」
「……ええー。 じゃあ奏揮は何も変わってなくて、私が勝手に落ち込んでただけ?」
「言い方は悪いですが……」
「何なのよ、もーっ!」
「本当に、何なのよ……」
「バカみたいじゃない」
「苺さんは馬鹿では」
「いーや、バカよ。ずっと頑張ってきて、良い人になろうとして、勝手に失敗して」
「……」
「こうやって一人で閉じ籠って、周りを巻き込んで。本当にバカ」
「……まあ確かに、苺さんはお馬鹿さんかもしれませんね」
「んな! ここにきて裏切り?」
「でも、そういうところも」
「好きだ、って?」
「そうです」
「……ああもう! バカ! 私はバカ、奏揮もバカ! バカばっか、バーカ!」
「言いすぎです」
「はぁ。馬鹿馬鹿しくなってきちゃった、こうやって悩んでるの」
「悩むのも大切なことですよ」
「学生の使命だから?」
「そうです」
「ねえ、奏揮」
「何ですか」
「私、これからどうしたらいい?」
「苺さんがやりたいように、やったらいいですよ」
「……一緒に行こうって、言ってくれないのね」
「僕は苺さんに付いてくだけですから」
「一生ここにいるって言っても?」
「僕も一緒にいます」
「はは、やっぱり奏揮もバカね」
「そうでしょうか?」
「うん。だから、もう、大丈夫」
「……本当に、大丈夫ですか」
「大丈夫よ! 一緒にいてくれるんでしょ?」
「できる限りは」
「じゃあここに残る意味はないわ。来たくなったら、また来る。ほら、奏揮も立ちなさい!」
「本当の本当に、大丈夫ですか」
「……うん。二人と別れるのは、辛い」
「……」
「でも私は、もう、終わらせたい。終わらせないと、次は来ないから」
「……そうですね」
「だから、ほら行くわよ! この手、離してもらえると思わないでよね!」
「期待してます」
「……うん、私も」
完全だった部屋が、砕ける。
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