魔法少女ストロベリアの苦悩【完結】

ゲー魔ー導師

ストロベリア参上!

「ねえ、何で大人ってセッ○○が好きなの?」

 幼い私のとんでもない一言で、お母さんはお茶を吹き出したっけ。

「ま、苺(まい)~? どこでそんな言葉を覚えたの~?」

「先生がね、言ってた! 保育園のすみっこでね~!」

「忘れようね~」

 ぐしぐしと頭を撫でられ、私は幸せだった。

「苺は頭がいいからね~。だからそんな、変な言葉を覚えちゃいけませんよ~」

「は~い!」

 当時の私は、母の心配がよく分からなかった。


 昔、母がよく褒めてくれた。


 あの頃の私は純粋で、母が喜ぶと自分も嬉しくなった。母の笑顔が自分の生き甲斐だと、信じて疑わなかった。

 だが、時の流れというのは残酷である。

 母はやがて、あまり笑わなくなった。

 そんな母を見て、私は、もっと頑張らなきゃと思うようになった。



 そして現在。

 私は制服姿で、戦闘の真っ只中にいた。白を基調とした、襟とスカートが緑色の制服。ついでに、肩が出るよう改造されている。

「苺さん、そこです!」

「名前で呼ぶんじゃないわよっ!」

 ツタの絡んだ杖を、地面に突き立てながら叫ぶ。

「今の私は『魔法少女ストロベリア』!ちゃんとこっちの名前で呼んで!」

 直後に私の足元から、植物の根っこのような触手が地面から飛び出す。

 根っこはまるで意思を持っているように、目の前の標的へと向かっていった。

『アアァァァ、ヴウエェェ!』

 そこにいたのは、ゾンビのような何か。


 多くの人が想像するゾンビとは少し違うかもしれない。肌は灰色に腐り、ボロボロの衣服を着ていて、ベトベトした液状のなにかを撒き散らす人型存在。人の三倍くらい体積があって、呻き声を出している。

「穿てっ、あいつを!」

『オゥォオ、ウアィアアァ!』

 こちらへ走ってくるゾンビを迎え撃つように、根っこが標的の肌を貫く。

 ウネウネとした動きとは裏腹に、鋼鉄のような固さを誇るのが根っこの特徴だ。

『ガアアァッ!』

 胸、肩、腹、脚。次々と伸びていく根っこが、ゾンビに穴を空けていく。

 そして頭を刺したところで、ゾンビは動かなくなった。

『ガ、イォィアエェ……』

「おやすみなさい、ゾンビ野郎」

『オ……ガ、アァァ』

「ああもう、さっさと黙れ! 気味が悪いわよ!」

 声を出し続けるゾンビにうんざりして、私は口に根っこをねじ込んだ。


 戦闘終了からしばらくして、白い防護服を着た人たちが私たちを迎えにきた。

「清掃部隊には自分から指示を出すので、苺さんは帰って大丈夫です」

 戦闘中、私と一緒にいた男が淡々と言う。


 私と違って、彼はかなり特徴的な格好をしていた。

 年齢は私と同じくらい。黒いジャケットとズボン、白シャツを身に纏っており、首もとには蝶ネクタイを付けている。

 ちょっと高級な見た目は、この戦場に釣り合わない。それよりも、オーケストラの指揮とかをやってそう。

 ただ特徴的なのが、前にして手錠がかけられている両手。紫に輝く両目、それにかかる前髪を払うことすら面倒くさそうだ。


 ツーサイドアップのピンク髪をほどきながら、私は肘で彼を小突いた。

「アンタ、他に何か無いの? よく頑張ったとか、人類を守ってくれてありがとうとか」

「そうですね、もっと丁寧に戦ってください。一人で行くのは危険です」

「んなっ! 頑張ったのにそれは酷くない!?」

「口が滑りました。お詫びとして、後でマカロンでも買いましょうか」

「ふ、フンッ。分かればいいのよ」

 縛っていた髪を両方とも戻すと共に、私の身体が淡い光に包まれる。

 光が収まると、私の服装は学校の制服へと変わっていた。ついでに、髪色もピンクから黒へと戻った。


 私の名前は小堂 苺(こどう まい)。

 ピチピチの高校三年生を演じつつ、裏で激闘を繰り広げる魔法少女である。

 とはいえ実は、私も元々普通の女子高生。

 今話題の魔法少女には、壮絶な誕生秘話があるのだ。


 秘密結社みたいなものだから、世間に私の名は広まってないけど。

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