第21話 家族会議とスキル

 ヴィザムを倒した翌日。俺は女子寮で明莉を待っていた。


「お待たせ、和真」


「おう、昨日の今日で悪いな」


「ううん。大丈夫だよ」


「それじゃあ、早速行こうか」


 女子寮まで来たのは明莉を迎えに行く為であった。これから家まで明莉を連れて戻って行く。


 家に帰ってリビングに来ると、既に父さんと母さん、美琴が揃っていた。俺と明莉が座る。

 すると父さんが涙目になる。


「和真、もしかして、そうなのか?」


 大体言いたいことは分かった。だが勘違いだ。


「いや、違うぞ。勘違いだお父さん」


「そう、そうなんだな……」


 涙目になっていたお父さんが平常に戻る。もしここで勘違いされたら母さんまで巻き込み、話が本当に進まなくなっていただろう。


「それで、ここに集めた理由って何?」


 明莉が質問してきた。俺は事前に家に集合とは言ったが説明はしていない。


「実は、今後について話し合いたい。そしてこれは、明莉を含めた家族会議だ」


「家族会議……」


 みんなの表情が真剣になる。

 

「それでどういうことを話したいんだ?」


「ダンジョンに関することとこれからのことについてだ。まず父さんと母さんはレベルはどれくらいある」


 父さんと母さんは驚いた表情をする。


「「レベル7だ(よ)」」


 レベル7か。普通よりちょっと強いくらいだな。だけどこれから、レジダンのメインストーリーのことを考えてたら全然足りない。ヴィザムのようなイレギュラーだって考えられる。

 俺の考えた結論は1つ。


「お父さんとお母さんにはダンジョンに行ってレベルを上げて貰いたいんだ」


「えっ!?」


「和真、どうしてなんだ?」


 母さんは驚き、父さんは俺に問い掛けてくる。

 それは口にするのは難しい。ストーリーが平常通りに進まない可能性が出てきたのだ。メインストーリーには危険なことがこれから沢山起こってしまう。しかしこのまま伝えても余計に混乱を招くだけだ。

 ただ伝えられる本心もある。


「家族が大好きだからだ」


「「!?」」


「これからきっと危険なことが起こり続ける、そんな気がするんだ。お父さんだって知っているだろ、探索者の悪い所」


「嗚呼、知っているさ。和真だって、知ってしまったんだろ」


「うん」


 俺達は10層から帰ってきた後、10層で起きたことを話した。ヴィザムと戦ったこと、俺が魔剣を手に入れたこと。そして……Dクラスのことも。


「だからこそ、言える。自分を守れるくらいには強くなって欲しいんだ」


 家族が大好きだ。だからこそ、何かあってからでは遅い。最強になっても確実に家族を守れるとは限らない。


「俺が最強になっても家族を失ったら意味無いんだ。喜んだり、話すことが出来なくなってしまうから」


「「……」」


「守られるんじゃなくて、守り合って欲しいんだ」


 俺は強くなって欲しい説明をした。後は父さんと母さん次第――っ!?


「和真、そこまで考えていたんだな!!」


「和真、貴方は本当に可愛い息子よ!!」


 なんか泣き始めてしまった。俺は了承してくれれば良いかなって考えていたから、泣くなんて思ってもみなかった。


「俺は探索者に、復帰する!!」


「私も貴方と共に、復帰するわ!!」


 物凄い熱意だ。体が熱くなりそうになる。


「あ、ありがとう。お父さん、お母さん」


 これで父さんと母さんは探索者への復帰を了承してくれた。これから父さんと母さんは強くなっていくだろう。


 さて、次だ。


「明莉はスキルを覚えたか?」


「うえっ!? いや、覚えてない」


 明莉は急に話し掛けられたので驚いた。そりゃさっきまで家族に説得していたからね。


「何か習得するかで迷ってるのか?」


「うん、私に合ってる属性が何か分からないから」


 スキルには属性がある。明莉が迷っているのはどの属性が自分と相性が良いのか分からないのだ。明莉は主人公だ。極めれば何でも使えるだろう。

 俺は1つの提案をする。


「それなら今使える属性スキルを全部覚えて、ダンジョンで使ってみたらどうだ?」


「今ある属性スキルを……うん、分かった! 今から覚えるね!」


 善は急げと明莉は早速スキルを覚えるらしい。こればかりは実戦を繰り返して、何度も使ってみるしかない。ダークナイトと呼ばれていた俺も、試行錯誤を重ねて強くなった。きっと効果はある。


「覚えたよ」


「それなら少し待っていてくれ。ご飯作るから」


「ん? どうして?」


「この後ダンジョン行くからだ」


 善は急げって言うだろう?




 俺と美琴、明莉の3人は4層にいた。俺達が何故4層にいるのか。それはここに出現するコボルトが素早いからであった。


「よっ、ほい」


「お兄さん! 私段々慣れてきました!」


 4層は草原。見晴らしが良くて、敵も味方も分かりやすい。故に見つかりやすいのだ。

 俺と美琴は絶賛、青い体をした二足歩行の狼であるコボルトに襲われていた。爪や武器を使って俺と美琴に攻撃してくる。その攻撃を避け続けていた。


 もうこれをして3時間は経過している。俺は武器を持っておらず回避するしか出来ない状態だった。美琴は一応槍を持っているが回避に専念している。最初は【パラソルガード】を使っていたが、成長は早いみたいだ。

 そして明莉は、


「【ファイアーボール】!」


 杖から火炎の球が発射する。火炎はコボルトの1匹に当たり、その身を焦がして消滅した。


「【ウォーターボール】!」


 今度は水の球が発射する。コボルトに当たり遠くへ吹き飛ばした。見た限り消滅して魔石になっていた。


「明莉さん! お願い」


「うん。【ウィンドボール】!」


 風の球が美琴のコボルトに向かっていく。当たると風がコボルトを切り刻み、コボルトを倒した。


「和真君はどうする?」


「切り上げるか」


「【アースボール】!」


 土の球が俺のコボルトに向かっていく。ちょうど頭に当たり、コボルトの頭を大きく揺らした。白目になったコボルトはそのまま倒れると消滅して魔石となった。


 この通り、俺と美琴は回避の練習。明莉はスキルに慣れて、自分と相性が良い属性を見つけることを目的にしている。

 もう数時間やっているから回避の方は慣れてきた美琴もそうだろう。


 俺と美琴は明莉に近付く。俺はMPポーションを渡した。


「はいこれ」


「ありがとう」


「明莉さん、スキルには慣れましたか?」


「うん。だいぶ慣れた感じ。あともう少ししたら決めるかも」


「別に焦らなくても良いぞ。それまで回避の練習するから」


 俺の発言に美琴は顔を青くした。何、別に大丈夫だろう。


「お兄さん。それ本気で言ってる?」


「別に、大丈夫だろ」


「大丈夫じゃない! 鬼、悪魔、お兄さん!」


 最後は罵倒じゃないのか。でも見ていた限りちゃんと回避出来ていたぞ。


「いや、もう疲れているから。回避は身に付いたから!」


 美琴が必死な表情で俺を見つめている。ぐっ、ここまでされると流石に俺も考えないといけなくなる。


「じゃあ槍で受け流しとか【パラソルガード】を使って良いぞ」


「やった!」


「だけど自分から攻撃するのは無しね」


「分かったよ!」


 美琴はすっかり笑顔になった所で明莉に発言する。


「明莉も遠慮なくスキルの練習をしてくれ」


「うん! 感覚が掴めそうだから頑張るよ!」


 明莉は元気よく答えてくれた。

 俺達は練習を再開する。




「【ライトボール】!」


 光の球がコボルトを貫いた。


「【ダークボール】!」


 闇の球がコボルトの頭を吹き飛ばした。


「【ボルト】!」


 雷がコボルトの全身を焦がした。

 コボルトは例外なく消滅し魔石になった。


 訓練は一先ず終了にした。美琴は俺が文句を言えないくらい回避が上達した。受け流しや【パラソルガード】の使い方も上手になった。

 俺はダークナイトの時と同じくらいに回避は上達している。


「明莉はどうだ?」


「私は『炎属性』を使っていきたい」


「相性が良いのか」


「うん。炎属性のスキルが合っていると思う。それと、【ホープアップ】と同じようなスキルも覚えたいかな」


「バフ系か。良いと思うぞ」


 明莉の覚えるスキルは炎属性とバフ系で良いだろう。

 これで全てが終わって、やりきった表情をしている明莉。


「じゃあ次は明莉の番だな」


「えっ?」


「明莉も回避の練習して貰うぞ。サポートに美琴が入るから大丈夫」


「えええっ!!?」


 明莉は驚いた。助けを求めるような視線を美琴に送る。


「ごめんね、明莉さん」


「そんな……」


「頑張ろうな」


「鬼、悪魔、和真の人でなし!!」


 明莉にも体で回避を覚えて貰った。終わった時の明莉の表情はとても忘れられそうにない。

 終わった時、明莉と美琴はかなり疲れていた。本当にお疲れ様である。俺も、流石に疲れていたのだった。





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