第7話 2層
今日は1人でダンジョンを攻略しようとしていた。元々ソロでどんどんレベルを上げようと考えていたんだ。
それでダンジョンは2層だ。2層も1層と同じく岩肌に囲まれた洞窟のようだった。ただ、壁や地面が1層よりも茶色かった。ここにはゴブリンが出てくる。
初めての人型。ファンタジーの定番キャラであることもあって戦いたいと心の底から思っていた。
そう、2層に行くまでは良かったんだ。
「あれ? 和真君?」
「あっ、ほんとだね。やぁ、和真」
「さっきぶりですね、和真さん」
俺は後ろを振り返る。そこには明莉、比奈、竜之介がいた。
……何故ここにいるんだ? レベルが上がったからか。じゃあなんでこんな再会が早いんだ!? そもそも竜之介まだレベル1だろ!?
「なんでここにいるか聞いても良いか?」
「愚門だね、レベルを上げる為だよ」
「レベル1はスライム狩りが定番じゃないか?」
「心配いらないよ。スライム相手だと少々物足りなくて、下に降りてきたんだ」
「そこで私と明莉さんに合流したんです」
「私も偶然比奈ちゃんと会ったんだよね。こんな偶然あるんだね!」
偶然が重なった結果がこれだというのか。本当は1人でやりたいんだけど、なんか昨日と同じメンバーだから断りづらい。
取り合えずパーティー組むことになった。
パーティーを組んだ後、一同は俺の案内に従っている。こちらも人が多くてモンスターがリスポーンしない。
俺が向かっている先は勿論、隠し部屋である。
俺達は隠し部屋に到着した。中には緑色の体をした怪物、ゴブリンが5体いた。武器を持っている個体と持ってない個体がおり、武器は棍棒だった。
「怖いですね……」
「そうだね」
「僕から行くかい?」
「いや、一番は俺だ」
多分行っても勝ててしまいそうだけど、先に俺が行けばゴブリンの動きが分かるメリットがある。レベル2でステータスの心配があるが、明莉と比奈を先に行かせるのは気が引ける。
だから、俺が行くことにした。
俺が部屋に入るとゴブリン共が一斉に反応する。ゴブリンは突撃してきた。
ゴブリンを切る。飛び付こうとした者は突きで貫き、地面にいる者は切り伏せた。首は確実に切っていく。
棍棒持ちは突きで貫いて、首を切り落とした。
俺はゴブリンを倒した。……嫌悪感は無い。最初はあったと思うが、目が合った瞬間に消えた。ゲームの感覚になったのか、それとも殺し合いだと理解したからか。
俺はどっちもだと思う。
「「……」」
「次は僕が行くよ」
スライムの隠し部屋と同じく30分でリスポーンする。
竜之介が入っていった。ゴブリンは俺の時と同じく襲い掛かったが、竜之介は冷静に対処していく。俺と違い突きは使用せず全て切り伏せた。突きを使うまでもなかったのだろう。
なんか嫉妬する。数分後にはゴブリンは倒されていた。
「……2人共、出来るかい?」
竜之介が明莉と比奈に声を掛ける。人型と戦うから嫌悪感を心配しているのだろう。
「大丈夫!」
「……私も大丈夫です!」
2人共覚悟を決めたようだった。竜之介もうん、と頷いた。
30分後、ゴブリンが再びリスポーンした。
「比奈ちゃん。【ホープアップ】!」
「明莉さん、ありがとう。やあああぁ!!」
明莉がスキルを使って比奈を強化した。比奈はゴブリンを突き刺したり、切り傷を与えていく。明莉さんもゴブリンの頭に杖をぶつける攻撃を見せた。
俺と竜之介よりは遅いがゴブリンを倒すことが出来た。……ただ、
「はあ……はあ……はぁぁ……」
少々張り切り過ぎた。
「私、怖いんです。ゴブリンと戦っている時、そう感じてしまったんです」
比奈が口を開いた。壁に寄り掛かり座り込んでいる。
怖い、かあ。比奈は恐怖を感じたんだな。
「比奈ちゃん」
「すみません。暗い話をしてしまって。……私だって、探索者目指しているのに」
どんな言葉を掛けたら良いんだろうか。俺の言葉は届かないような気がする。だって俺、何事もなくゴブリン倒したし。
ここで彼が動き出した。
竜之介は比奈の目の前まで来ると、視線を合わせる為にしゃがんだ。
「……正直、自分が怖かったかどうか、分からない。だけどね、比奈さんの言っていることは間違いじゃないよ」
「えっ?」
「誰だって怖い時は怖いんだ。それに僕達はモンスター相手に戦わなきゃいけない。無理もないよ」
比奈が顔を上げる。竜之介のことを見つめていた。
「私は、どうすれば……」
「立ち向かっていくしかない。探索者はそれを何度も乗り越えてきたんだ」
「私、1人じゃ……」
「1人じゃない」
竜之介が比奈の手を両手で握る。比奈は目を見開いた。
「僕がついてる」
「っ! 竜さん。ありがとうございます」
比奈は頬を赤く染めながらも微笑んでいた。明莉も安堵の表情をしている。竜之介は満足すらしていそうだ。
――良かったんじゃないか。こういうのも。
「比奈ちゃん、私もいるよ」
「明莉さん!」
明莉が竜之介と比奈に近付いて和んでいる。
……これは空気を読むべきか。しかしずっとパーティーを組んでいられる保証は……
「和真君?」
目線を合わせるんじゃない。ここは1つ言っておかないとな。
「……暇だったら相手するさ」
「……ありがとうございます」
比奈が俺に微笑んでくれた。こんな返答をした俺にも感謝するとか、優しいな。
比奈は立ち上がる。
「もう一度やりましょう。ゴブリンと戦わせて下さい!」
「大丈夫なのかい? また怖い想いをするかもしれないよ」
「大丈夫です! 1人じゃないですから!」
すっかり明るさを取り戻したようだ。これは比奈の芯の強さなんだろうな。
付き合ってやるか。
「皆さん頑張りましょう!」
「「おおおお!」」
恥ずかしいからやめてくれないか!? 竜之介と明莉結構ノリノリだな!?
俺も、腕上げてるんだけどさ。
俺達はゴブリン部屋を周回……ゴブリンを倒し続けた。
比奈は徐々に動きが良くなっていた。竜之介の言葉が響いたのだろう。勇気を持って立ち向かった結果、恐怖に打ち勝ったんだ。
解散するまでに俺は【アイテムボックス】でドロップ品を回収。
レベルは上がらなかった。明莉と比奈、竜之介のレベルは上がったのだった。
解散した後、俺は家に帰宅した。そして今は夕飯の時間だった。
「お兄さん凄い! ゴブリン倒せるなんて」
「切れるまでは慣れだな、多分」
俺が感じたのは最初だけだった。比奈のようになるかもしれないからな。
「私もダンジョン行きたい!」
「ぶっ!!?」
「「和真!?」」
美琴の発言に俺は麦茶を吹いてしまった。最悪だ。父さんと母さんが台布巾を渡したり、ティッシュが来たりした。
「ごめんお兄さん、驚かせちゃったかな?」
「驚いたぞ。そんなにダンジョン行きたいのか? 言っておくが危険だぞ?」
「知っている。それでも私は、ダンジョンに行きたい!」
美琴の瞳を見る。真っ直ぐ俺を見つめていた。本気なんだと理解した。
「良いぞ。ただもう少し時間をくれ」
「良いの! ありがとうお兄さん! それでいつまで待てば良いの?」
「俺が美琴を守れて安定するくらいのレベルだ。そのくらいになったら連れて行くさ」
美琴とパーティーを組む、楽しみが1つ増えた。
俺もレベル上げ頑張らないとな。
ーーーーーーーー
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
よろしければフォロー登録と☆☆☆から評価をお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます