☆5レビューだらけの防犯装置
夢神 蒼茫
前編
☆☆☆☆☆ 5
画期的な装置! これがあればもう車の盗難なんて怖くない!
☆☆☆☆☆ 5
この発想はなかった! これで車泥棒もイチコロ!
☆☆☆☆☆ 5
ハッハッハッ! 不埒者が運転席でアボーン! ザマァ!
***
とある商品のレビューに、ずらりと並ぶ高評価の美辞麗句。
いや、美辞麗句と呼んでいいのかも疑問なスラングの羅列だ。
若干過激なものも含まれるが、どれも☆5ばかり。
俺が今、ネットで眺めている商品は、『CLOSE』と名付けられた車の防犯装置だ。
一応、車を持ってはいるが、防犯なんぞ鍵かけてりゃ十分だろと考えている。
施錠に加えて防犯装置なんぞ、大げさじゃないか、と。
それほど興味がある商品ではないのだが、なんとなしにネット市場を巡回していると、やたらと高評価なレビューが目につき、商品をクリック。
じっくりと見てやろうかという気になって、現在に至る。
「えっと、なになに……。『これを車にセットするだけで、車がまともに動かせなくなります。解除せずに動かすと、最悪死にます。お取り扱いには注意を!』って、こらこら、そんな物騒なもん、売っていいのか!?」
謳い文句につっこみを入れたところで、不可解な事に気付いた。
その『CLOSE』とやらの商品ページが、現在自分のパソコンの画面に映し出されているのだが、そのページのどこにも商品の実物画像がないのだ。
商品を売りたいのであれば、その魅力についてアピールするのは当然だ。
性能や使いやすさ、そして見た目。どれも重要な判断要素であり、商品を選ぶ際には必ず知るべき点だ。
だが、それがない。
見た目、不明。
使いやすさ、不明。
性能、不明。
ただ、車の防犯装置、と言う情報だけがそこにはあった。
それ以外は何もかも不明だ。
あとは、なんと言うか、抽象的な誉め言葉ばかりのレビューだけだ。
正体不明の防犯装置、本当に情報はこれだけだ。
「いや、おかしいだろ!? これで買うのか!? しかも☆5レビューばっかりじゃねえか! あれか、サクラか!?」
まあ、順当に考えれば、サクラの存在を疑う。
異常に高い評価を付け、レビューではべた褒め。
で、それに釣られて買ってみれば、なんかイマイチだった。
ネット注文では、割と転がっている話だ。
これもその類というわけだろうか。
だが、それでも妙な点がある。
「そうなんだよ。☆5のレビューが大量にあるのは、サクラの存在を疑う材料になる。だが、☆1みたいな低評価が全然ないのはなぜだ?」
消した、あるいは消された可能性も無くはないが、それでも☆5以外一切ないと言う点がどうにも解せない。
特に、サクラに騙されてのパターンなら、それをボロカスに書く輩も多い。
だが、この商品にはない。
☆5の評価しかない。
レビューも商品の事をほめちぎっているものばかりだ。
買え、買え、と催促されているのは分かるが、あまりにも異常すぎてどうにも胡散臭さが出てしまっている。
そして、俺の目に飛び込んできたのは『CLOSE』の値段だ。
送料無料、本体価格7980円だ。
安い。実に安い。
これで本当に車をしっかりと盗難から守ってくれると言うのであれば、安いと言えよう。
実際、車なんて買えば、安めの中古車でも何十万もしてしまう。
上を見ればきりがない。それが車の価格と言うものだ。
それを盗難から防いでくれるというのであれば。実に心強いと言うものだ。
7980円でいけるのであれば、随分と安上がりだ。
だが、やはり商品の情報が少なすぎて怪しむ俺だが、気になる、という勢いそのままに購入画面へと進んでしまった。
そこは情報を打ち込む画面だ。
「えっと、あなたのお車の車種、年式、走行距離、排気口の口径、装備中のタイヤの種類、改造の有無、を教えてください、か。これを書き込めってか? 随分と細かいところまで聞いていてくるんだな」
と言っても、普段頭に入っていない情報だ。
車庫の車の所へ行き、備え付けている車検証明書から情報を入手。
他の情報もすべてチェックして、再び自室のパソコンの前まで戻ってきた。
カタカタカタッと情報を打ち込んでいき、“次へ”のボタンをクリック。
「商品在庫を確認中! 1分ほどお待ちください!」
この文言が飛び出してきた。
まあ、在庫がないなら注文できないし、どうせ遊び半分でやっているんだから、なければなければでいいやという半端な態度の俺。
そんな俺の態度を見透かしてか、画面には“在庫有”の文字が飛び出す。
「おっと、あるのか。んじゃま、購入っと。さて、拝ませてもらおうか、画期的な防犯装置とやらを」
商品の注文を終え、あとはその到着を持つばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます