第4話 職場研修

 翌日、さっそく研修が始まった。

 会議室には俺と先輩の2人きりだった。


(2人きりの空間、気まずい……)


 昨日話してて思ったが、先輩は何となくぶっきら棒に感じる。それに全く笑わなさそう。

 俺の苦手なタイプだ。

 何となく気まずさを感じていると、先輩が口を開いた。


「これから研修やるけど…、ところで、翼は生えてるのか?」

「え?」

「……背中に意識を集中しろ」


 俺の背中に翼なんて生えてるわけ…。

 そう思い、背中に意識を集中した。すると…





 バサッッッッ






 大きな音を立て、俺の背中から大きな翼が生えた。白く、大きな翼だ。


(は!?!?!? 生えた!?!?)


 背中から聞こえるはずのない音に驚き、俺はパニック状態だ。


「¥_{™%:)*¥!?!?!?」


 俺が驚いて奇声を上げると、「少し黙ってくれ」

 と先輩に怒られてしまった。


(いやいやいやなんで!? いつの間に…!? 改造手術でもやられたか!?

 それとも、あの、みのも〇たの仕業か!?!?)


 俺がてんやわんやになっていると、先輩は至って冷静に、


「取り敢えず翼が生えてるのは分かったし、これから外に出て飛ぶために訓練するから。ついてこい」


 そう言って、部屋の窓を開け、

 なんと先輩は窓から飛び降りてしまった。


(いやいやいや、待て!!!!!

 ついてこいって、飛び降りれるわけ無いだろ!)


 俺は慌てて、窓から下を覗き込んだ。

 ここから下まで相当な高さだ。

 こっから飛び降りたら間違いなく即死だろう。

 俺は慌てて窓から…ではなく階段から外に向かった。



 5分後。

 階段から降りたせいで少し時間がかかってしまい、先輩を待たせてしまった。

 しかし先輩は、

「窓から飛び降りても、もう死んでる訳だから関係ない」

と言っただけで、不機嫌になるわけでもなかった。

(優しいのか、優しくないのか分かんないな…)

 先輩がどんな人なのか、結局良く分からない。




「じゃあ、さっそくだが始めるぞ。まずは翼を動かしてみろ。手足を動かす要領で。」

「いや、そんな簡単に言われても…。」


 いきなりの先輩の無茶な要求に戸惑っていると、先輩は少しため息をつきながら、


「………背中に意識を集中しろ。」


 とアドバイスをくれた。

 俺は先輩の通りに、背中に意識を集中した。

 すると、意外と簡単に翼が動いた。

 多分、神経が翼と繋がっているのだろう。


「出来たな。次だ、翼を前後に動かせ」


 俺は言われるまま前後に動かす。

 少し慣れないが、動かすのは難しくない。


「そのまま上にジャンプして浮け」


 先輩はジャンプして背中をバサッと動かした。

 すると、先輩の体が浮き出す。


 俺は見様見真似で、ジャンプして翼を前後に動かした。

 しかし、先輩のように宙に浮けなかった。

 ただジャンプしただけだった。


「…もっと翼を動かしてみろ」


 先輩に言われるがまま、とにかく翼を動かしたが、先輩のように宙に浮くことは出来ない。

 そして、俺は先輩に言われるがまま、ひたすらジャンプを繰り返した。





「つ………、疲れた………」


 何百回とジャンプを繰り返し、俺の体力はもう尽き果てていた。

 こんなにジャンプしたのは、小学校の時にやった縄跳び以来だ。


「まあ、初日だし、こんなものか」


 そう言って先輩は、ヘトヘトになってへたり込んだ俺に、ペットボトルの水を差し出した。


「あ、ありがとうございます」

「まあ……、根性はある。体力はまあまあだな。翼を動かせただけ良しとするか」

「先輩、それ褒めてます? 貶してます?」

「どっちもだ」


(やっぱり先輩は優しいのか優しくないのか分からない……)

 ただ、飛ぶためのアドバイスをしてくれたり、俺の根性を褒めてくれたりしたから、多分悪い人ではないのだろう。


 俺はペットボトルの蓋を開け、水をぐびっと飲んだ。

 水はとても冷えていて美味しく感じた。

 先輩の気遣いに有り難みを感じた。


「そんなに美味いのか…?」


 水をグヒグビ飲む姿を見た先輩は、不思議そうに俺を見つめた。


「はい。疲れたあとの水は美味しいです」

「そうか。それは良かったな」

「先輩は水飲まないんですか?」

「……俺はいい」


 断られてしまった。


 そして、俺が水を飲み終わる頃、先輩が俺に尋ねた。

「ところで…、お前は、天使になりたいのか?」

「…?」

「お前、天使になりたそうに見えないから」


 確かに、俺は天使になりたいとか思ってない。

 成り行きでこうなっただけだ。

(まあ、半ば、みのも〇たのおじさんのせいだけど…)


「ええと、成り行きでこうなっただけです」

「そうか、……俺も似たようなものだ」

「先輩はどうして天使に?」


 先輩は一呼吸置いて言った。


「過労死したんだ。ブラック企業に努めてな」


(か、……、、過労死………)


 急に重たいワードが流れる。

 もしかしたら聞き入っては行けなかったかもしれない。立ち入りすぎたかもしれない。


「過労死…、ですか…」

「まさか働きすぎて死ぬなんて、思わなかった。」


 先輩を見ると、先輩は少しだけど、笑っていた。

 果たしてそれは笑っていいものなのか……。

 笑おうにも笑えない俺の表情を見て、先輩はプッと吹き出した。


「何だその表情は……、ふっ………」


 俺、そんなにおかしい表情してたかな?

 でも、全く笑わなさそうなあの先輩が笑っている。

(もしかして先輩、意外と………)



「……話しすぎたな、そろそろ休憩終わるぞ」


 俺は少しだけやる気が出て、日が暮れるまで飛ぶ練習に打ち込んだ。



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