第5話 運命の出会い

(はあ、疲れた………)


 あれから何日か研修を受けているが、中々空を飛ぶことができず、そろそろ気持ちが滅入ってきた。


 疲れ切った俺の姿を見て、先輩は

「少し休憩してこい」

 といい、30分ほどの休憩時間を与えてくれた。


(先輩、やっぱり意外と優しい…?)


 慎先輩は教えるのは厳しいけれど、ちゃんと俺のことを見ていてくれる、実は優しい先輩なのかもしれない。


 汗だくになった俺は床にへたり込み、空を見上げた。

 空は青く澄んでいる。


 ……そういえば、俺が轢かれたあの日もいい天気だったなあ。

 なんで俺こんなことになってるんだ……?

 車に轢かれて無かったら、きっとコンビニで買い物して、今頃、家で2chでも見ながらカップ麺を啜っていたに違いない。

 2ch……、このところ最近見ていないな。久しぶりに見たいなあ。


 ぼーっとしながら色々考え事をしていたその時、

 俺の頭上を飛ぶ少女が目に入った。


「あ、すげえ…」









 すげえ……………美少女だった。









 俺は気つけば美少女の向かった方向に走っていた。

 俺が今までに見た中で一番の美少女が空を舞っていた。

 芸能界でも見たことのないくらいの美人だ。


(もう少し近くで顔を見てみたい!)


 男はみな変態だ。美人を見たら誰だって追いかけたい衝動に駆られるだろう。

 俺もその1人だ。

 俺は今世紀最大の力を振り絞り、

 メロスもびっくりな勢いで、あの美少女に会うべく走っていた。




 ……しばらく走ると、美人がビルの屋上に降り立ったのが見えた。

 俺はそのビルに入り、ビルの階段を駆け上がる。

 そして、ぜえぜえと息切れしながら屋上のドアを開けた。

 そこには、純白のベールのような翼を携えた少女が、縁に座っていた。


 そして、少女が俺の方を振り返った。


(やっぱり美少女だ……)


 金髪のふわふわしたロングヘアが風になびいている。

 目はくりっとしててかわいいが、右目の下の涙袋がセクシーな印象も与えている。

 完璧な美少女だった。


 カランと俺の心が音を立てる。

 これが、恋に落ちるということか、と俺は初めて恋を自覚した。

 完全に一目惚れだ。


「何か用?」


 声もかわいい…。

 やっぱり美少女だ…。

 純白の翼がよく似合っている。

 俺は返事ができぬままただ見とれていた。


 そんな俺を見て、美少女は怪訝そうな顔で俺を見た。


「もしかしてストーカー……?」

「いやいやいや待って違う!!!」


 俺はストーカーと完全に間違えられた。


「あらぬ誤解だ! ただ美少女が空を飛んでいたのを追いかけてきただけで!」

「いや、それをストーカーというんじゃ…」

「断じて違う!」


 俺はとにかく否定した。断じてストーカーではない。

 確かに彼女を追いかけてここに来てしまった。

 でも美少女を追いかけることなんて、世の中の男はみな一度はやっているだろう!!

 決して、決して自分はストーカーではない。

 母なる女神に誓って!


「……」

「あ、あの、君は、天使なの?」


 俺はこれ以上ストーカーと間違えられるのは傷つくので、何か別の会話しようと必死になった。

 ………というか、よく考えれば翼が生えてる時点で天使なのは明確なのに、俺はテンパりながら当たり前の質問をしてしまった。


「はあ…。見ればわかるでしょう」

「どうして天使になったの?」


 少し間を空けて、美少女が小さな声で言った。


「……1度死んだからよ」

「どうして…」

「………」


 言いたくないのだろうか。


(少し立ち入りすぎたのかな…。もしかして、嫌われた!?!?)


「嫌ってはない。変な人だとは思うけど」


「え、声に出てた?」

「声には出てない。でも、あなたの考えていることは分かるの」


 面接のあのおじさんと同じだ…。

 俺は心を読んでくるちょっと変なみのも〇た…じゃなかった。面接官のおじさんを思い出した。

 彼女も心が読めるのか…。


「私は天使になる前、生きてた頃から心が読める…。そのせいでどれだけ苦しんだか…」


 美少女は苦しそうに呟いた。


 そして少しの沈黙が続いた。

 その間、冷静になった美少女は、「……なんでもない」と一言言い、飛び立ってしまった。


(もしかして、彼女にはきっとつらい過去があったのだろうか…。

 そういえば、名前、聞きそびれたな。また会えるかな…。)


 名前を聞きそびれたことを若干後悔しつつ、彼女が飛び去った方向をしばらく眺めていた。




「時間だ。戻るぞ」


 急に後ろから声がした。

 驚いて後ろを向くと先輩がそこに立っていた。

 腕時計を見ると休憩時間から45分が過ぎていた。


(もうそんなに経ったのか……。もしかして心配して探してくれたのかな……)


「先輩、心配してくれたんですか?」

「してない。時間過ぎたから呼びに来ただけだ」


 やっぱり先輩は厳しいけど優しいな、と改めて思った。

 俺はビルから飛び降りる先輩に急いでついていくべく飛び降りようとしたが、やっぱり怖くなって階段から降りた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る